ボン気候会議で浮き彫りになった「脱炭素」の限界と日本
2026年6月にドイツ・ボンで開催された国連気候変動会議(UNFCCCボン会合)は、11月にトルコ・アンタルヤで開催予定のCOP31へ向けた重要な準備会合となった。
しかし会議を振り返ると、各国が一枚岩で脱炭素へ向かっているという印象とは程遠い内容だった。むしろ、温暖化対策の進め方を巡る対立は以前にも増して鮮明になっている。

会議の様子
外務省HPより
排出削減で合意できなかった
今回最大の論点は、排出削減(Mitigation Work Programme:MWP)の位置付けである。
EUなどは各国にさらなる排出削減を求めたが、一方で多くの国は、この場は各国が情報交換するための枠組みに過ぎないと主張した。結局、結論は出ず、この問題はCOP31へ持ち越された。
近年、国連会議では「全会一致」が難しくなっており、脱炭素政策そのものが各国の経済・エネルギー政策と深く結び付くにつれて、利害対立が表面化している。
「1.5℃目標」を巡る対立
科学を巡る議論も激しかった。
EUやスイスなどは、「化石燃料産業の影響を受けた国々」が科学を攻撃していると批判した。対象とされたのはサウジアラビア、中国、インド、ロシアなどである。背景には、「パリ協定の1.5℃目標は既に達成困難ではないか」という現実的な議論がある。
近年では国際社会でも、1.5℃目標を絶対視するよりも、現実的な適応策(Adaptation)やエネルギー安全保障とのバランスを重視する意見が増えている。
EUのCBAMに対する反発
今回初めて「気候変動と貿易」に関する正式な対話も行われた。
最大の争点はEUの炭素国境調整措置(CBAM)である。CBAMはEU域外から輸入される製品に対して、EU域内企業と同等の炭素コストを負担させる制度である。
EUは「環境保護のため」と説明しているが、途上国は「市場支配力を利用した域外規制」であるとして強く反発している。環境政策がそのまま通商政策へ変わりつつあることを象徴する議論だった。
「あなたが先にやれ(you-first-ism)」
閉会にあたり国連気候変動事務局のサイモン・スティール事務局長は、「相手が先にやらない限り自分は動かないという姿勢が交渉を停滞させている」と苦言を呈した。
しかし現実には、それぞれの国が自国産業や国民生活を優先するのは当然とも言える。理想論だけでは国際交渉は進まない。
世界は脱炭素一色ではない
今回のボン会議から見えてくるのは、世界が必ずしも脱炭素一色ではないという現実である。
排出削減、1.5℃目標、CBAM...
いずれも以前のような「唯一の正解」が共有されているわけではなく、経済、安全保障、産業競争力を踏まえた現実的な議論へと重心が移りつつある。
日本では、脱炭素政策は“当然の前提”として語られることが多い。しかし国際社会では、その前提そのものを問い直す議論が着実に広がっている。今後のCOP31では、こうした各国の温度差がさらに鮮明になる可能性が高い。
長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書(2017年版)
かっての日本は、世界の潮流にただ乗るのではなく、現実をもっと見つめながら対応していた。
平成29年(2017年)4月7日に経済産業省から出された『長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書-我が国の地球温暖化対策の進むべき方向-』という報告書がある。これは2020年10月26日の「2050年カーボンニュートラル」宣言の前に提出されたものだが、傾聴すべき重要なポイントを指摘している。
- 地球温暖化問題には、気候科学、将来の産業・技術・社会・国際情勢などの様々な不確実性が存在する。そのため、温暖化問題は最適解のない問題と捉えられている。どのような取り組みを行っても新たな問題が生じることは避けられない。
- 各国の思惑により、対策の未実施によるただ乗りが起きると、世界全体が強調して取り組むというパリ協定の枠組みの根本が崩れ、温暖化対策の効果は大きく減退してしまう。
- 今後の様々な不確実性を踏まえれば、過度な規制の導入により、産業が疲弊し、我が国の経済活力が失われて対策原資が枯渇してしまうことや、主要国の離脱や力のある途上国が総量削減目標に移行しないことにより、パリ協定が形骸化してしまうことなどの不測の事態に備えておく必要がある。
筆者は、以前から、COP会議やパリ協定などは“砂上の楼閣”であり、すでに形骸化していると書いてきた。激しく動くエネルギー事情、現下の国際情勢を鑑み、政府や官僚もこの報告書の情勢分析や提言をいま一度読み直すべき時ではなかろうか。
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