イランが戦争に勝つと原油価格はどうなるか

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以前、筆者はイランにおける戦争について3つのシナリオを描いた。「消耗戦」「アメリカによる平和」「イランによる平和」である。
消耗戦か米国による平和か、或いはイランによる平和か?: 中東戦争の3つのシナリオとエネルギー政策
「イランによる平和」シナリオでは、ミサイル・ドローンなどによる非対称戦争によってイランが勝利する。米海軍はペルシャ湾周辺から撤退する。イランに生殺与奪の権を握られた脆弱なGCC諸国は、国土が肥沃で広く人口も多い縦深なイランの意に従うほかなくなる。
戦争の帰趨はいまも見えないが、本稿では、この「イランによる平和」が実現するシナリオにおいて、今後数年の世界のエネルギー需給がどのようになるか描き込んでみよう。
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まず、この4月末に、米海軍は主要な「軍事目標を達成した」として、勝利宣言をしてペルシャ湾周辺から引き揚げる。ホルムズ海峡については、その通行から利益を得る国々の課題だとして、つっぱねる。
するとイスラエルも、単独でイランとの戦争を継続すると、その損失が膨大になり、国家存亡の危機に陥るため、停戦をする。
ホルムズ海峡からの石油輸出は、イランに通行料を支払う形で再開される。これは中国、インドなどからの強い要望によって実現する。やがて、日本を含むすべての国がこのスキームに従うほかなくなる。
この通行料は国ごとに異なるが、初めは低く(バレル1ドル程度に)設定され、イランは中東の平和と貿易の擁護者として振る舞う。
さてGCC諸国は、イランのミサイルやドローンによる攻撃力によって、ホルムズ海峡の通行のみならず、エネルギー設備、淡水化設備、空港、港湾、金融街・観光地などへの攻撃に対しても脆弱な「砂上の楼閣」であることが露呈してしまっている。
フィナンシャル・タイムズのまとめでは、これまでにも、GCC諸国のエネルギー設備の多くが被弾した。石油精製能力は日量240万バレル程度が喪失している。カタールではLNG生産設備が被弾し約17%の供給が停止している。この完全な復旧には3年から5年を要するとされている。サウジの原油を紅海側へ運ぶ東西パイプラインも日量70万バレルの能力を喪失した。
The damage wrought to the Middle East’s oil and gas supplies
さて米軍が去ったいま、GCC諸国は、イランによる絶え間ない圧力に対して、次々に譲歩を続けることを余儀なくされる。以下のようなことが、数年かけて、徐々に同時進行してゆく:
- GCC諸国における米軍基地は撤退させられる。(情報は錯綜しているが、米軍基地はすでに大きな打撃を受けており、主力は退避しているとの見方がある)。
- GCC諸国の軍備強化は厳しく制限される。
- ホルムズ通行料だけではなく、事実上の賠償金である「イラン復興基金」への支払いをGCC諸国は求められる。
- 米国の有するGCC域内の資産に対して、GCC諸国政府による買収ないし接収が強要される。
- 石油やガスなどの決済を米ドルから中国元、インドルピーなどの他の通貨に変更してゆくことを迫られる。
- イランとロシアが、GCCをコントロール下において、オペックプラスの意思決定を支配する。原油価格維持のために、サウジはたびたび減産を強いられる。
湾岸諸国の対応は分裂する。元々、比較的イランに近い立ち位置であったオマーン、カタール、バーレーンは、早々にイランに協調する姿勢を見せる。イランはこれを寛大に扱う。
クウェート、サウジ、UAEは、はじめは抵抗し、また、なかなか屈服はしないが、イランによる脅しに対して徐々に譲歩せざるを得なくなる。その代償として、君主制の体制存続、そして、これまで通りではないが、貿易と経済的な繁栄の継続を許される。
ホルムズ海峡を代替するパイプラインによる輸出をGCCが進めても、イランはミサイルやドローンによる威嚇によって、パイプラインそのものをターゲットにすることも出来るし、そこまでしなくても、脆弱なGCC諸国に対して要望を受け入れさせることが出来る。
こうして、世界の石油生産は回復するが、中東に関しては、イランがその覇者となった状態になる。
上記のような、イランがGCC諸国に屈服を迫る過程においては、たびたびの小競り合いを伴うことになるかもしれない。これはホルムズ海峡の部分的な封鎖かもしれないし、あるいはサウジの東西パイプラインなどのエネルギー設備への攻撃かもしれない。
そうすると原油価格の動向としては、イランとロシアがオペックプラスを支配することによって基本的に高値で推移し、加えて、たびたび起きる小競り合いによって不安定な状態が続くことになる。
まとめると、「イランによる平和」が訪れるならば、原油供給は回復に向かうが、既に生じている物理的な損傷から復旧するだけでも数か月から数年はかかる。その後も、上記のような巨大な地政学的な変動に伴って、原油価格は基本的には高値で、かつ、大きな不安定要素を抱えたまま推移することになる。
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