フランスで原子力はなぜ受け入れられたのか

2016年04月18日 14:00
(写真)フランスの農村地帯にあるシボー原発

原子力に対する懸念と批判は世界的に著しい。それは福島事故を起こした日本だけではない。どの国も容認はしているが、全面的な賛成が多数を占めない。ところがフランスは全発電量の4分の3を占める原子力大国で、その政策に世論の支持がある。

なぜ可能になったのか。フランスの政策を紹介した興味深い文章を紹介したい。米公共放送のPBSのディレクターコラムだ。日時は明示されていないが、おそらく2001年頃の古いものと推定される。総じて現状は変わらないが、福島原発後、オランド社会党政権は原発の割合を近日中に50%以下に下げる目標を掲げている。また核廃棄物の処分場も、フランス北東部のピュールに決まったが建設は難航している。(毎日新聞記事「最終処分場計画で苦悩するフランスに重なる明日の日本」

フランスは科学者の権威が強く、国民の冷静さも影響した。ただし後半で示されるように、核廃棄物の処分の問題ではもめている。日本にも参考になるだろう。

(以下抜粋)

フランスはなぜ原子力エネルギーを好むのか

PBS(サイト)

シボー原発が稼動すれば、フランスでは56の原子炉が動き発電の76パーセントを担うことになる。(訳者注・2002年に同原発は稼動)

アメリカとは違ってフランスでは原子力発電所エネルギーが受け入れられている。シボーの人は、誰もが、選ばれたことを喜んで、懸念を示さなかった。原子力発電所は、仕事と富を運んでくる。

フランスの原子力活用の製作は、1973年の中東から始まったオイルショックにさかのぼる。OPEC(石油輸出国機構)諸国が、原油の値段を4倍にした。当時のフランスは大半が石油で、化石燃料はなかった。

歴史上最も包括的な原子力エネルギーの促進計画が立案され、実行された。次の15年間でフランスは56の原子炉を建設し、電力需要を担い、他の国に電力を輸出するまでになった。しかし、驚くべき事に後述する一つのことを除いて、激しい反対はなかった。なぜだろうか。

フランス人の科学への敬意

フランス・エネルギー省のクロウド・マンディル事務局長は三つの理由を挙げた。

第一に、フランス人の独立志向だ。移ろい安い他地域、特に中東諸国の石油に依存することはフランス人に耐えがたいという。フランス人に聞くと、誰もが「石油がなくガスがなく石炭がなく、そのために選択肢がないからだ」と即答するそうだ。

第二に、文化的な要因がある。フランスは、巨大な集権的プロジェクトを歴史的に好む。という。「原子力が好きなように、高速鉄道や音速ジェット機をフランス人は好き」という。その結果、技術者や科学者の社会的地位が高く、米英で弁護士が行政やビジネス界で多いように、理系教育を受けた人が行政機関など、さまざまな場で活躍している。

第三に、フランス政府、関係諸機関が、原子力のリスクと同様に経済的利益があることを強調し、人々に利益を認知させたことにあるという。広告の機会は多く、フランスの原発は市民を見学に誘い、年600万人が訪問する。

その結果、どの世論調査でも3分の2の人が原子力発電の推進を強く支持している。ただし心理学者の調査によれば、米国と同じように、フランスの市民も原子力に関して同じように不安など否定的な印象を持っているが、文化的、経済的、政治的諸要因で、政府の推進政策を支持する結果になっているという。

シボーの市民に話を聞くと「原子力には特別な技術が必要だ。チェルノブイリ事故を起こしたロシア人は責任を果たしていなかった」「確率の上ではダムでせき止められた川の流域の方が危険だ」(フランスの水力は12%)という答えが返ってきた。

使用済み核燃料問題のつまずき

しかし、使用済み核燃料問題の処理問題はうまくいかなかった。フランスは核燃料サイクル政策を採用し、その減容とプルトニウムの利用を考えた。高レベル廃棄物の量は、4人家族が20年生活したとして、たばこ一本分の容積にすぎない。官僚たちは70年代、簡単に処分場の候補地が見つかると考えていた。「原発を作ることは誇りに思われたが、処分丈は拒否された。経済的利益はあまり考慮されなかった」という。

議会と行政府は相談し、1990年国会内に特別委員会をつくり解決を委ねた。モーリス・バタイユ議員が委員長になった。「フランスはアングロ・サクソン系の国と違って行政府の権威が強い。行政が議会に依頼するということは、問題解決の手がなくなったということだった」とバタイユ氏は言う。

バタイユ氏は反対派と話し合い、官僚達が間違っていることを理解した。官僚達は、補助金を払い、説明すれば、解決すると思っていた。しかし反対は感情的なものだった。

「フランス人にとって大地に埋めるということは、感情的で、神話の世界にまでさかのぼるような拒否感を生んでいた。地下は死者を埋葬する場所であり、神聖な意味を持っていた。土壌と地球を汚すようなイメージを、反対派は抱いていた」という。

官僚達は「永久に埋める」という言葉を使い、そうしようとしていた。バタイユ氏はその言葉を使わず「処分地」を「保管地」と言い換え、「一時的に置き」また「将来は取り出せることが可能」という形にした。

この変更は感情的なものではないという。最終的な手を離すという事ではなく、いつでも取り出せるようにして、政府の関与を明確にした。また100年以内には、核廃棄物の放射能を減らす技術も開発される可能性があるとされるためだ。そしていくつかの実験施設をつくってデータを集め、2006年までに最終処分地を決める予定だ。もし決まらなければフランスの原子力促進政策は止まってしまうと、関係者は述べた。

(翻訳・構成 石井孝明)

(2016年4月18日掲載)

This page as PDF

関連記事

  • 原子力研究と啓蒙活動を行う北海道大学大学院の奈良林直教授に対して「原発推進をやめないと殺すぞ」などと脅迫する電話が北大にかかっていたことが10月16日までに分かった。奈良林教授は大学と相談し、10日に札幌北警察署に届けて受理された。
  • GEPRフェロー 諸葛宗男 今、本州最北端の青森県六ケ所村に分離プルトニウム[注1] が3.6トン貯蔵されている。日本全体の約3分の1だ。再処理工場が稼働すれば分離プルトニウムが毎年約8トン生産される。それらは一体どのよ
  • 熊本県、大分県を中心に地震が続く。それが止まり被災者の方の生活が再建されることを祈りたい。問題がある。九州電力川内原発(鹿児島県)の稼動中の2基の原子炉をめぐり、止めるべきと、主張する人たちがいる。
  • 「40年問題」という深刻な論点が存在する。原子力発電所の運転期間を原則として40年に制限するという新たな炉規制法の規定のことだ。その条文は以下のとおりだが、原子力発電所の運転は、使用前検査に合格した日から原則として40年とし、原子力規制委員会の認可を得たときに限って、20年を越えない期間で運転延長できるとするものである。
  • Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
  • 事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
  • 沸騰水型原子炉(BWR)における原子炉の減圧過程に関する重要な物理現象とその解析上の扱いについて、事故調査や安全審査で見落としがあるとして、昨年8月に実証的な確認の必要性を寄稿しました。しかし、その後も実証的な確認は行わ
  • 活断層という、なじみのない言葉がメディアに踊る。原子力規制委員会は2012年12月、「日本原電敦賀原発2号機直下に活断層」、その後「東北電力東通原発敷地内の破砕帯が活断層の可能性あり」と立て続けに発表した。田中俊一委員長は「グレーなら止めていただく」としており、活断層認定は原発の廃炉につながる。しかし、一連の判断は妥当なのだろうか。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑