エネルギー政策の「国民的議論」に向けて

2012年07月09日 15:00
アバター画像
国際環境経済研究所所長 21世紀政策研究所・研究主幹

GEPRの提携する NPO国際環境経済研究所の澤昭裕所長のブログを転載する。

(本文)
「国民的議論」とは便利な言葉だ。しかし、実際のところ何を表しているのか不明確。そのうえ、仮にそれに実体があるとしても、その集約方法についてコンセンサスがあるとは思えない。

特に、エネルギー政策のように、踏まえるべき視点やデータを消化することが専門家でも難しいイシューの場合、大衆討議的あるいは国民投票的な方法が意思決定になじむのかという本質的問題がある。

そして、アジェンダや選択肢は政府が提案するもの、という制約がある。確かに、何もないところから政策を議論してみろと言っても難しいが、かといって、選択肢の中で選んでくれといって「国民」側に投げつけるのも、最終決定を行う政府の責任を曖昧化させたり、責任の所在自体を不透明なものにする。

そのうえ、本当は議論しなければならないポイントは、議論されないままに終わってしまう危険性も大きい。

例えば、電力の供給不足問題だ。2030年のエネルギー基本計画のエネルギーミックスの選択肢で原子力を0%にするか、15%にするか、はたまた20−25%にするかということが議論されているが、みんな「今原子力は30%を占めていて、それをどれだけに減らすか」という頭で考えているのではないだろうか(図1参照)。

しかし実際には、現在30%ではなく、原子力は既に0%なのだ。再稼働問題が次々と解決しない限り、20−25%はおろか、(稼働後40年超の原発は止めるという)15%の選択肢さえ、実現はおぼつかないのである。

ということは、電力の供給不足問題は、時間とともに厳しくなっていくのではなく、既に足下から大変な状況が続くというのが実態なのだ。それゆえ、ここ3−5年をどうしのぐかは、現実的に切迫している問題であり、その対応策が明確にならないと、生産計画や投資・雇用計画を立てることもままならないにもかかわらず、その点は政府のどこにおいても議論されていない(図2参照)。それゆえ、「国民的議論」の話題にもなりそうになりのだ。

また、依然として「原子力」対「再生可能エネルギー」という構図で議論されていることも不可解である。原子力依存を下げる際、エネルギー政策としてもっとも重要な「量の安定供給の確保」と「経済性」を考えた判断をするなら、原子力の代替電源選択は「火力」だ。「再生可能エネルギー」を代替電源として優先選択する考え方は、温暖化対策がエネルギー政策より重要だという価値判断に基づくものでなければならない。

こうした交通整理ができていないままで、本当に「国民的議論」ができるのだろうか。

とはいえ、国民的議論に参加しないわけにはいかない。産業界・労働界は、早速次のような提言を出している。経団連などはこれからのようだが、9団体や鉄鋼業界プラス基幹労連の要望書が発表されているので、下記のリンクを紹介しておきたい。産業界の考え方も「国民」の一部であることは間違いない。こうした声が政府に届けばよいのだが・・・。

主要産業9団体連名による共同要望書
『エネルギー・環境会議』から提示されるシナリオに対する産業界の要望(共同要望)

鉄鋼連盟と日本基幹産業労働組合連合会連盟による共同要望書
「エネルギー・環境会議」による複数のシナリオの提示についての要望

(2012年7月9日掲載)

This page as PDF
アバター画像
国際環境経済研究所所長 21世紀政策研究所・研究主幹

関連記事

  • 化石賞というのはCOP期間中、国際環境NGOが温暖化防止に後ろ向きな主張、行動をした国をCOP期間中、毎日選定し、不名誉な意味で「表彰」するイベントである。 「化石賞」の授賞式は、毎日夜6時頃、会場の一角で行われる。会場
  • 気候変動を気にしているのはエリートだけだ――英国のアンケート結果を紹介しよう。 調査した会社はIpsos MORIである。 問いは、「英国で今もっとも大事なことは何か?」というもの。コロナ、経済、Brexit、医療に続い
  • 福島第一原発を見学すると、印象的なのはサイトを埋め尽くす1000基近い貯水タンクだ。貯水量は約100万トンで、毎日7000人の作業員がサイト内の水を貯水タンクに集める作業をしている。その水の中のトリチウム(三重水素)が浄
  • 2023年12月にドバイで開催されたCOP28はパリ協定後、初めてのグローバルストックテイクを採択して閉幕した。 COP28での最大の争点は化石燃料フェーズアウト(段階的廃止)を盛り込むか否かであったが、最終的に「科学に
  • 猪瀬直樹氏が政府の「グリーン成長戦略」にコメントしている。これは彼が『昭和16年夏の敗戦』で書いたのと同じ「日本人の意思決定の無意識の自己欺瞞」だという。 「原発なしでカーボンゼロは不可能だ」という彼の論旨は私も指摘した
  • それから福島県伊達市の「霊山里山がっこう」というところで行われた地域シンポジウムに参加しました。これは、福島県で行われている甲状腺検査について考えるために開催されたものです。福島を訪問した英国人の医師、医学者のジェラルディン・アン・トーマス博士に、福島の問題を寄稿いただきました。福島の問題は、放射能よりも恐怖が健康への脅威になっていること。そして情報流通で科学者の分析が知られず、また行政とのコミュニケーションが適切に行われていないなどの問題があると指摘しています。
  • 少し前の話になるが2017年12月18日に資源エネルギー庁で「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」と題する委員会が開催された。この委員会は、いわゆる「日本版コネクト&マネージ」(後述)を中心に再生
  • NHKスペシャル「2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦(1月9日放映)」を見た。一部は5分のミニ動画として3本がYouTubeで公開されている:温暖化は新フェーズへ  、2100年に“待っている未

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑