成長の可能性に満ちる農業【アゴラ農業シンポジウム1】

2017年01月08日 09:19

アゴラ研究所は2016年12月20日、農業技術情報の提供を行う日本バイオテクノロジーセンターと共催で、第6回アゴラ・シンポジウム「成長の可能性に満ちる農業−新技術と改革は日本再生の切り札となるか」を開催した。


映像
まとめ(この原稿)【記事1】
要旨1・石破議員講演「農業による日本の活性化−政治家の立場から」【記事2】
要旨2・パネルディスカッション上 農業改革の可能性【記事3】
要旨3・パネルディスカッション下 遺伝子組み換え作物、活用は可能か【記事4】
参考・池田信夫氏解説 「石破茂氏の「日本経済の伸びしろ」」

石破議員「農業は潜在力を発揮していない」

日本の農業政策は、規制と補助金の分配を中心としたものから、農家の自立と競争へ転換しようとしている。今回のシンポジウムでは、先駆的に農業改革を主張した自民党の有力議員である石破茂衆議院議員を招き、有識者と語り合った。石破議員は、農水政務次官、副大臣、農水大臣を務め、農業政策に詳しい。昨年まで内閣府で地方創生担当大臣を務めた。

写真1・石破議員

%e5%8e%9f%e7%a8%bf1%e3%80%81%e5%86%99%e7%9c%9f1-s

石破氏は国などによる生産調整、食糧自給率の向上を目標にする日本の農政の転換を10年前から主張し、自民党農水族や、農水省の抵抗にあった経験を紹介。「農水大臣は1年で代わるが、自民党農水族は永遠に続く」と、言われたこともあったという。時代は変わり。農水省はこれら2つの政策に固執しなくなり、農業政策は石破氏の主張した方向にほんの少し変わりつつある。「私の言うことは10年ほどいつも早すぎるようです」と石破氏は振り返った。

「農業は産業として、潜在能力があるのにそれが発揮されていない」。これが、石破氏の日本農業の現状に対する認識だ。政治がこれまで農業にかかわったが、産業政策として競争力の向上を重視しなかったという。「『自民党は票田は守ったが、水田は守らなかった』と言われます。農村を安定した保守の地盤にすることは必要でしたが、その役割が終わっても続けてしまった」と反省を述べた。

そしてアベノミクスを肯定するものの、「インフレで長期的に成長することはできない。人口減少時代には、生産性を上げないと持続的な成長はできない」と指摘した。

世界の農作物輸出は、各国の平均で1.6 %ほど。日本の農業輸出は年間8000億円程度だが、これを世界平均並みにすれば、日本のGDP規模(年500兆円)を考えると、8兆円ぐらい、「10倍になってもおかしくはない。成長の余地はある」と期待を示した。また少子高齢化で日本の経済活動が縮小する中で、「農業が重要な産業になる」と語った。

「新しい技術をなぜ使えないのか」

写真2・出席者らによる討論の様子

%e5%8e%9f%e7%a8%bf1%e3%80%81%e5%86%99%e7%9c%9f2-s
その後は有識者を集め、討論会が行われた。シンポジウムでは技術に注目して議論が進んだ。出席者は石破議員に加え、市川まりこさん(食のコミュニケーション円卓会議代表)、小野寺靖さん(農業生産者、北海道)、小島正美さん(毎日新聞編集委員)が参加。司会は池田信夫さん(アゴラ研究所所長)が務めた。新しい技術の代表的なものとして、遺伝子組み換え作物に議論が集まった。これは法律では禁じられていないにもかかわらず、反対運動や農協が消極的であることから、日本で栽培が実現できず、農業改革の遅れの象徴的な論点になっている。

農家の小野寺さんは、草取り、収量増加などの問題が農業の負担になっていること紹介し、「新しい技術をなぜ使えないのか」と疑問を示した。消費者団体を運営する市川さんは技術を使わせない点が、消費者の選択を狭めているということを指摘した。そしてジャーナリストとして小島さんは、「政治家とメディアは共に抗議に弱い面がある」と指摘した。

石破氏は「さまざまな農業問題に自由に議論ができないところがあるとしたらおかしい」と述べ、その上で「国政でも、自治体議会でも、情報を議員にお与えいただきたいと思います」と結んだ。

池田氏は「産業として農業は生産性が低いまま。それが新技術で、大きく拡大する余地がある。生産性の低いままにとどまっている。『空気を読まない』でそれを打ち破る人が先行者として利益を得られる状況ではないか」とまとめた。

また共催の日本バイオテクノロジーセンターの冨田房男理事長(北海道大学名誉教授)は、「新しい技術で農業は革新する余地がある」とあいさつした。

日本の農業は、生産性が低く、さまざまな問題がある。しかしそれは裏を返せば、おかしな農政のくびきから脱して、適切に活動すれば、大きな改善の余地があるということだ。政策や企業家精神の導入、そして遺伝子組み換え作物などの新技術の導入で、農業は大きく変化し、産業として日本を支える可能性がある。この現状が確認できたシンポジウムだった。

(石井孝明 ジャーナリスト、GEPR編集者)

This page as PDF

関連記事

  • 欧州の環境団体が7月に発表したリポート「ヨーロッパの黒い雲:Europe’s Dark Cloud」が波紋を広げている。石炭発電の利用で、欧州で年2万2900人の死者が増えているという。
  • 高速増殖炉もんじゅの先行きが議論されています。原子力研究者などが集まった原子力国民会議が、「もんじゅ、再生に向けた提言」をまとめている。
  • エネルギー・環境問題の「バーチャルシンクタンク」であるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営するアゴラ研究所は、インターネット上の映像配信サービスのニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」を開設して、映像コンテンツを公開している。3月15日はエネルギー研究者の澤昭裕氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長との間で「電力改革、電力料金は下がるのか」という対談を行った。
  • 昨年11月17日、テレビ東京の「ワールド・ビジネス・サテライト」がこれまでテレビでは取り上げられることのなかった切り口で、再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度を取り上げた。同局のホームページには当日放送された内容が動画で掲載されている。
  • テレビ朝日系列の「報道ステーション」という情報番組が、東日本大震災と福島原発事故から3年となる今年3月11日に「甲状腺がんが原発事故によって広がっている可能性がある」という内容の番組を放送した。事実をゆがめており、人々の不安を煽るひどいものであった。日本全体が慰霊の念を抱く日に合わせて社会を混乱させる情報をばらまく、この番組関係者の思考を一日本人として私は理解できない。
  • 福島原発事故の後始末で、年1mSv(ミリシーベルト)までの除染を目標にしたために、手間と時間がかかり、福島県東部の住民の帰還が遅れている。どのように問題を解決すればいいのか。日本の環境リスク研究の第一人者である中西準子博士(産業技術総合研究所フェロー)に、アゴラ研究所の運営するウェブテレビ番組「言論アリーナ」に出演いただき、池田信夫アゴラ研究所所長との対談を行った。
  • 中部電力の浜岡原子力発電所を11月8日に取材した。私は2012年8月に同所を訪問して「政治に翻弄される浜岡原発 — 中部電力の安全対策工事を訪ねて」という記事をGEPRで発表している。
  • 経産省・資源エネルギー庁は、現在電力システム改革を進めている。福島原発事故の後で、多様な電力を求める消費者の声が高まったことが背景だ。2020年までに改革は完了する予定で、その内容は「1・小売り全面自由化」「2・料金規制撤廃」「3・送配電部門の法的分離」などが柱で、これまでの日本の地域独占と「10電力、2発電会社」体制が大きく変わる。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑