成長の可能性に満ちる農業【アゴラ農業シンポジウム1】
アゴラ研究所は2016年12月20日、農業技術情報の提供を行う日本バイオテクノロジーセンターと共催で、第6回アゴラ・シンポジウム「成長の可能性に満ちる農業−新技術と改革は日本再生の切り札となるか」を開催した。
映像
まとめ(この原稿)【記事1】
要旨1・石破議員講演「農業による日本の活性化−政治家の立場から」【記事2】
要旨2・パネルディスカッション上 農業改革の可能性【記事3】
要旨3・パネルディスカッション下 遺伝子組み換え作物、活用は可能か【記事4】
参考・池田信夫氏解説 「石破茂氏の「日本経済の伸びしろ」」
石破議員「農業は潜在力を発揮していない」
日本の農業政策は、規制と補助金の分配を中心としたものから、農家の自立と競争へ転換しようとしている。今回のシンポジウムでは、先駆的に農業改革を主張した自民党の有力議員である石破茂衆議院議員を招き、有識者と語り合った。石破議員は、農水政務次官、副大臣、農水大臣を務め、農業政策に詳しい。昨年まで内閣府で地方創生担当大臣を務めた。
写真1・石破議員
石破氏は国などによる生産調整、食糧自給率の向上を目標にする日本の農政の転換を10年前から主張し、自民党農水族や、農水省の抵抗にあった経験を紹介。「農水大臣は1年で代わるが、自民党農水族は永遠に続く」と、言われたこともあったという。時代は変わり。農水省はこれら2つの政策に固執しなくなり、農業政策は石破氏の主張した方向にほんの少し変わりつつある。「私の言うことは10年ほどいつも早すぎるようです」と石破氏は振り返った。
「農業は産業として、潜在能力があるのにそれが発揮されていない」。これが、石破氏の日本農業の現状に対する認識だ。政治がこれまで農業にかかわったが、産業政策として競争力の向上を重視しなかったという。「『自民党は票田は守ったが、水田は守らなかった』と言われます。農村を安定した保守の地盤にすることは必要でしたが、その役割が終わっても続けてしまった」と反省を述べた。
そしてアベノミクスを肯定するものの、「インフレで長期的に成長することはできない。人口減少時代には、生産性を上げないと持続的な成長はできない」と指摘した。
世界の農作物輸出は、各国の平均で1.6 %ほど。日本の農業輸出は年間8000億円程度だが、これを世界平均並みにすれば、日本のGDP規模(年500兆円)を考えると、8兆円ぐらい、「10倍になってもおかしくはない。成長の余地はある」と期待を示した。また少子高齢化で日本の経済活動が縮小する中で、「農業が重要な産業になる」と語った。
「新しい技術をなぜ使えないのか」
写真2・出席者らによる討論の様子
その後は有識者を集め、討論会が行われた。シンポジウムでは技術に注目して議論が進んだ。出席者は石破議員に加え、市川まりこさん(食のコミュニケーション円卓会議代表)、小野寺靖さん(農業生産者、北海道)、小島正美さん(毎日新聞編集委員)が参加。司会は池田信夫さん(アゴラ研究所所長)が務めた。新しい技術の代表的なものとして、遺伝子組み換え作物に議論が集まった。これは法律では禁じられていないにもかかわらず、反対運動や農協が消極的であることから、日本で栽培が実現できず、農業改革の遅れの象徴的な論点になっている。
農家の小野寺さんは、草取り、収量増加などの問題が農業の負担になっていること紹介し、「新しい技術をなぜ使えないのか」と疑問を示した。消費者団体を運営する市川さんは技術を使わせない点が、消費者の選択を狭めているということを指摘した。そしてジャーナリストとして小島さんは、「政治家とメディアは共に抗議に弱い面がある」と指摘した。
石破氏は「さまざまな農業問題に自由に議論ができないところがあるとしたらおかしい」と述べ、その上で「国政でも、自治体議会でも、情報を議員にお与えいただきたいと思います」と結んだ。
池田氏は「産業として農業は生産性が低いまま。それが新技術で、大きく拡大する余地がある。生産性の低いままにとどまっている。『空気を読まない』でそれを打ち破る人が先行者として利益を得られる状況ではないか」とまとめた。
また共催の日本バイオテクノロジーセンターの冨田房男理事長(北海道大学名誉教授)は、「新しい技術で農業は革新する余地がある」とあいさつした。
日本の農業は、生産性が低く、さまざまな問題がある。しかしそれは裏を返せば、おかしな農政のくびきから脱して、適切に活動すれば、大きな改善の余地があるということだ。政策や企業家精神の導入、そして遺伝子組み換え作物などの新技術の導入で、農業は大きく変化し、産業として日本を支える可能性がある。この現状が確認できたシンポジウムだった。
(石井孝明 ジャーナリスト、GEPR編集者)
関連記事
-
環境保護局(EPA)が2014年6月2日に発表した、発電所からのCO2排出量を2030年までに2005年に比べて30%削減することを目標とした規制案「クリーン・パワー・プランClean Power Plan」。CO2排出削減の目標達成の方法として、石炭火力から天然ガス火力へのシフト、既存発電技術の効率向上、省エネ技術の導入による促進などとともに、再生可能エネルギーや原子力発電などの低炭素電源を開発していくことが重要施策として盛り込まれている。
-
福島第一原発をめぐる汚染水対策も進んでいる。事故当初は外部からの放水で使用済み核燃料や原子炉を冷却した。そして、事故直後に海水を引き原子炉を冷却した。そこで使った汚染水を取り除き、保管している。また4つの原発は原発構内の中で低地にある。その周囲から地下水が推定1日400トン流れ込む。また雨水でも増える。
-
米国の農業を米国穀物協会の取材支援によって8月に現地取材できた。それを全4回に渡って紹介する。(第1回、全4回) 米国科学アカデミー(NAS)は5月、「遺伝子組み換え作物-経験と見通し」という報告書を発表した。この作物を総合的に評価するものだ。
-
ドイツ・シュトゥットガルト在住の作家である川口マーン恵美氏が現代ビジネスに寄稿された「ドイツ・再生可能エネルギー法の失敗と、日本が模索すべき最良の道」は、客観的に事実を積み上げた内容で、これまでドイツのエネルギー政策に注目してきた筆者にとっては、至極まっとうなものであると感じた。
-
ロイター 1月16日記事。サウジアラビアのファリハ・エネルギー相は16日、主要産油国による減産合意を厳格に順守すると語った。
-
ロバートソン・大変な状況になっていると言えるでしょう。まず大きな枠の話をします。日本からの英語の情報発信がたいへん少ない状況です。これは政府で特にそうです。そしてその結果、海外で情報がゆがめられて伝わっています。
-
1986年に世界を震撼させたチェルノブイリ原発事故。筆者は14年11月に作家の東浩紀氏が経営する出版社のゲンロンが主催したツアーを利用して事故現場を訪問し、関係者と話す機会を得た。福島原発事故を経験した日本にとって学ぶべき点がたくさんあった。そこで得た教訓を紹介したい。
-
パリ協定をめぐる対立 6月のG20サミットは日本が初めて議長国を務める外交面の大舞台であった。保護主義との闘い、データ流通、海洋プラスチック等、様々な論点があったが、大きな対立軸の一つになったのが地球温暖化問題、なかんず
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間