中国が世界の原子力のリーダーになる

三門原発(CNNCサイトより)
最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広東省台山原発にできたフラマトム社の欧州加圧水型炉(EPR)175万kWも送電に成功したと発表した。
AP1000もEPRも欧米で先に着工されたが、完成していない。その原因は福島第一原発事故のあと安全審査が長期化したことだが、中国はそれを逆転した。2006年に中国共産党中央委員会がAP1000の導入を決めたあと3年で、三門原発が着工された。この意思決定の速さが独裁国家の強みである。
多くの人々の合意を必要とするデモクラシーでは、手続きに長い時間がかかる。アメリカでは1970年代までに100基の原発が稼働したが、1979年のスリーマイル島事故のあと、原発の審査に10年以上かかるようになって67基がキャンセルされ、その後20年以上、原発は建設されなかった。
福島第一原発事故のあと、世界的に3000~5000億円だった原発の建設費が1兆円を超えるようになり、フラマトム(旧アレバ)もWHも経営が破綻した。軽水炉技術は成熟してコストは下がっているので、この差のほとんどは安全設備と許認可手続きのコストである。
電力会社の経営者からみると、設備投資コストが最低なのは石炭火力だ。大気汚染は技術的にかなり減らせるが、問題はCO2である。これは政治の問題だから、原発の再稼動が計画どおりできないのなら、パリ協定の「2030年にCO2排出量を26%削減する」という目標を見直すしかない。中国から排出権を買うことも一案だ。
地球温暖化には科学的な不確実性が大きく、産業革命以前から2℃以内の上昇に抑えるというパリ協定の目標も実現不可能だ。そもそもCO2排出を減らしたら温暖化が抑制できるという効果も疑わしい。日本の排出量は世界の3%程度で、削減コストも高い。それより中国(世界の28%)が削減する余地のほうがはるかに大きい。
再稼動は必要だが、原発の新設は電力会社には不可能だ。それは日本だけではなく、1980年代以降のアメリカでも、2011年以降のヨーロッパでも同じだ。技術的には原子力は石炭火力より安全でクリーンだが、政治的リスクが大きすぎる。これは民主国家と独裁国家の「制度間競争」だが、いいか悪いかは別にして、原発は民主国家では終わったと思う。
中国では約40基の原発が稼働中で、2030年までに100基の原子炉を稼働する予定だ。これから世界の原子力のリーダーになるのは中国だから、どんどん日本の代わりに原発を建設してもらえばいい。その結果(今でも日本の半分以下の)中国の電気代が下がり、日本の製造業の国際競争力は落ちるだろうが、それはデモクラシーのコストと割り切るしかない。

関連記事
-
去る10月8日、経済産業省の第23回新エネルギー小委員会系統ワーキンググループにおいて、再生可能エネルギーの出力制御制度の見直しの議論がなされた。 この内容は、今後の太陽光発電の運営に大きく関わる内容なので、例によってQ
-
高校生がスウェーデンで感じたこと 今年の夏、全国の高校生13人がスウェーデンの〝核のごみ〟の最終処分に関わる地下坑道施設や研究所を視察した。約1週間の行程で私はアドバイザーとして同行した。 この視察の中で、高校生たちは様
-
かつて、アーノルド・トインビーは、文明の衰退について独自の見解を示した。文明の衰退は、内部の要因によって引き起こされると考えた。 例えば、支配層が腐敗し、社会の矛盾が深まることによって、文明は内部から崩壊していく。このよ
-
地震・津波に関わる新安全設計基準について原子力規制委員会の検討チームで論議が進められ、その骨子が発表された。
-
ショルツ独首相(SPD)とハーベック経済・気候保護大臣(緑の党)が、経済界の人間をごっそり引き連れてカナダへ飛び、8月22日、水素プロジェクトについての協定を取り交わした。2025年より、カナダからドイツへ液化水素を輸出
-
シナリオプランニングは主に企業の経営戦略検討のための手法で、シェルのシナリオチームが“本家筋”だ。筆者は1991年から95年までここで働き、その後もこのチームとの仕事が続いた。 筆者は気候変動問題には浅学だが、シナリオプ
-
2022年の世界のエネルギー市場はウクライナ戦争に席巻された。ウクライナ戦争の出口が見えない状況下で、2023年10月にはイスラム組織ハマスがイスラエルへの越境攻撃を行った。イスラエルがハマス、およびその背後にいると言わ
-
日本政府はEUの国境炭素税(CBAM)に対抗するためとして、国内排出量取引制度の法制化を進めている。 CBAMの矢面に立つのは日本ではなく、CBAMは世界を敵に回すために腰砕けになるであろうこと、CBAMを理由にして経済
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間