新型コロナによる経済破綻からの回復に原子力は必要(下)

2020年04月06日 09:00
アバター画像
元メーカー勤務 元原子力安全委員会技術参与

>>>(上)はこちら

3. 原発推進の理由

前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余分にかかり、今後も増え続けることである。

高浜原発(Wikipedia:編集部)

高浜原発(Wikipedia:編集部)

事故以前は、国全体の消費電力の約3割を原発が賄っていた。それがなくなり火力発電が代わりを務めたため、石油やLNGの化石燃料を中東等から余分に購入する費用が、国際情勢によって増減はするが、毎年約3兆円かかる。

また、再エネ利用促進のため国民から電気代の一部として徴収する“再エネ賦課金”が2018年度だけでも2.4兆円になり、2030年には年3兆円を超えると予測されている。これらの出費が今後2030年まで続くならば総額40~50兆円になると推定される。昨年10月に消費税8%が10%に上がり、その税収の増分を財務省は約4.4兆円と予測している(4)。当時2%の増税に国内で議論が沸いたが、原発停止に伴う膨大な出費に対して国民が黙っているのは不合理ではないか。もし事故炉以外の原発を稼働させていれば、これらの膨大な費用は発生しなかった。

東電福島第一原発は大地震による巨大津波によって事故になったが、他の原発は大地震にも立派に耐えている。当時の民主党政権が法的根拠もなく浜岡原発等を止めたことについては別途議論されるべきと考えている。

理由の第二は、原発事故の放射能では犠牲者が出なかったことである。多くの人は、震災関連死が3千人も超えているので“あんな危ない原発はもう要らない”と思っているようだが、それは誤解である。震災関連死は、原発から排出された放射能ではなく、事故直後の強制避難や長期の避難生活等を定めた安全規制が主な原因であった。入院中の病人や高齢者を突然環境の違う場所に移動させたり、仮設住宅に点々と移動させたりしたため、心身ともに疲労の末亡くなったり、故郷や職を失い悲観して自殺した方々も多数いた。

国連の科学委員会UNSCEARは原発事故による放射線被ばくはレベルが低く、将来もガン発症の可能性はほとんどないと報告している。政府もこれらの事実を踏まえて、原発事故時の住民避難方法を再考している。問題はこれだけではない。放射能に汚染された可能性のある食品に対して、欧米では1,000~1,200Bq/kgの基準であるのに、これを一桁以上低い100Bq/kgを食品安全基準に定めた。

国内では福島産食品の出荷停止や不買運動、海外では輸入禁止等の動きが出ており、いまだ終息はしていない。さらに、放射能で汚染した土地の除染に対して、除染目標を極端に低い1mSvと定めたことにより膨大な作業と費用がかかっている。環境省は、除染・汚染廃棄物処理・中間貯蔵施設のために、累計約4兆円が2017年度までにかかったと報告(5)している。

理由の第三は、原発推進が地球温暖化対策に役立ち、同時に将来のエネルギー確保に対する実現性のある解決策になり得ることである。原発は火力発電所のようにCO2を排出しないので地球温暖化対策に貢献する。さらに核燃料サイクルを通して長期的なエネルギー確保を可能とする。軽水炉からの使用済み燃料を再処理し、生成されたプルトニウムを高速増殖炉で燃やせば、ウラン資源を長期にわたって有効に活用することができる。

ウラン資源をめぐる国際政治の駆け引きや国民の受容性の課題はもちろんあるが、再処理も高速増殖炉もその技術は既に開発されている。高速増殖炉もんじゅは残念ながら2016年に廃炉が決定された。今から思えば、核燃料サイクル路線に否定的な意見の前原子力規制委員会田中俊一委員長の意向が反映された流れになったように思う。

しかし、まだ茨城県大洗町には高速実験炉常陽が存在すること、海外では米・仏・露・中国・インド等で高速炉が実際に運転されまたは技術開発が進められている。脱原発のままでは、国内の電力は火力、水力、再エネの3つで賄うことになる。水力は能力的に限界があり、再エネは不安定電源であるため、今後は火力にかなりの部分頼ることになろう。

高速実験炉「常陽」(公式サイトより)

高速実験炉「常陽」(公式サイトより)

しかし、世界の石油生産量はピークを過ぎており、米国シェールガスも無限ではないこと、エネルギーをめぐる国際紛争が絶えないこと等を考慮すると、いつまでも火力用燃料を日本が経済的なコストで問題なく輸入できるとは到底考えられない。そのためにも、原発技術を核燃料サイクル技術も含めて温存させておく意義は十分にあると考えられる。

4. 考察とまとめ

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は3月22日、LinkedInに「新型コロナウィルスがもたらした危機によって、電力の供給保証がこれまで以上に重要欠くべからざるものであることが再認識された」と投稿した。コロナウィルスの危機による経済活動の途絶で、数百万の人々が自宅にこもってテレワークで仕事をこなし、買い物は電子商取引サイトに頼っているが、これらは全て信頼性の高い電力供給によって支えられている。世界を巻き込んだコロナウィルス問題は、はからずも電力確保の重要性を我々に再認識させている、としている。

少なくともここ5年ないし10年の近未来に、比較的安全で安価で持続可能な電源として原発を放棄する選択肢はもはやない。資源獲得の国際競争の中で日本が生き残っていくには、火力・再エネ・原発のベストミックスを効果的に運用すべきであろう。脱原発の主張に固執するならば、火力と再エネだけで近未来の電力をどのように確保するのか。今の豊かな生活を維持するために実現可能で具体的な対策を示してほしい。

忘れてはならないのは、マスメディアの力は大きく、世論をリードし、歴史を変え得ることだ。1905年に東郷平八郎が戦艦三笠でバルチック艦隊を撃破した。日露戦争勝利の戦利品が少な過ぎるとして、当時の新聞が小村寿太郎の「外交は無きに等し」等と書き立てた。これらが原因で数万人の群衆による日比谷公園焼き討ち事件が発生した。新聞が当時日本の低い経済力を正確に報道せず、世論におもねった記事だけ書いたからだろう。

1941年の太平洋戦争開戦の直接原因は、米国による日本に対する石油輸出の禁止と言われている。しかし国民の戦争気分を高揚させたのは当時の新聞であり、醸成された世論が開戦の後押しをした。

戦後の貧乏暮らしを体験した国民が少なくなっていることが心配だ。世論に大きな影響を及ぼす新聞等のマスメディアは正確で公平な報道を行う責任がある。国民も黙っていては脱原発の方向に国政を押す結果となる。その責任は国民が将来負わなければならない。(了)

参考資料
(4)「一般会計税収の推移」、財務省ホームページ
(5)「除染の現状について」、環境省、2018年7月

This page as PDF
アバター画像
元メーカー勤務 元原子力安全委員会技術参与

関連記事

  • スマートグリッドと呼ばれる、情報通信技術と結びついた新しい発送電網の構想が注目されています。東日本大震災と、それに伴う電力不足の中で、需要に応じた送電を、このシステムによって実施しようとしているのです。
  • 需給改善指示実績に見る再生可能エネルギーの価値 ヨーロッパなどでは、再生可能エネルギーの発電が過剰になった時間帯で電力の市場価格がゼロやマイナスになる時間帯が発生しています。 これは市場原理が正常に機能した結果で、電力の
  • 今年3月11日、東日本大震災から一年を迎え、深い哀悼の意が東北の人々に寄せられた。しかしながら、今被災者が直面している更なる危機に対して何も行動が取られないのであれば、折角の哀悼の意も多くの意味を持たないことになってしまう。今現在の危機は、あの大津波とは異なり、日本に住む人々が防ぐことのできるものである。
  • 報道にもあったが、核融合開発のロードマップが前倒しされたことは喜ばしい。 だが残念ながら、いま一つ腰が引けている。政府による原型炉建設へのコミットメントが足りない。 核融合開発は、いま「実験炉」段階にあり、今後2兆円をか
  • 11月24日にCOP29が閉幕して、2035年までに、先進国は途上国への「気候資金」の提供額を年間3000億ドルまで増加させることを約束した。現在の為替レートで48兆円だ。 「気候資金」の内容は、①途上国が受ける気候災害
  • 1.太陽光発電業界が震撼したパブリックコメント 7月6日、太陽光発電業界に動揺が走った。 経済産業省が固定価格買取制度(FIT)に関する規則改正案のパブリックコメントを始めたのだが、この内容が非常に過激なものだった。今回
  • 元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 5月22日に放映されたNHK・ETVの「サイエンスZERO」では、脱炭素社会の切り札として水素を取り上げていたが、筆者の目からは、サイエンス的思考がほとんど感じられない内容だっ
  • 福島第一原子力発電所の津波と核事故が昨年3月に発生して以来、筆者は放射線防護学の専門科学者として、どこの組織とも独立した形で現地に赴き、自由に放射線衛生調査をしてまいりました。最初に、最も危惧された短期核ハザード(危険要因)としての放射性ヨウ素の甲状腺線量について、4月に浪江町からの避難者40人をはじめ、二本松市、飯舘村の住民を検査しました。その66人の結果、8ミリシーベルト以下の低線量を確認したのです。これは、チェルノブイリ事故の最大甲状腺線量50シーベルトのおよそ1千分の1です。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑