「逆石油ショック」は日本のチャンス
20日のニューヨーク原油市場は、国際的な指標WTIの5月物に買い手がつかず、マイナスになった。原油価格がマイナスになったという話を聞いたとき、私は何かの勘違いだと思ったが、次の図のように一時は1バレル当たりマイナス37ドルの値がついた。

WTI先物価格(日本経済新聞)
この短期的な原因は新型コロナによる旅客機などの運休で、石油の需要が急減し、余剰の原油を貯蔵するスペースやタンカーが一杯になったことらしい。マイナスの価格ということは、売り手が金を払うということだ。つまり原油はゴミのように「金を払って引き取ってもらう」商品になったのである。
これは一時的な現象で、その後は価格はプラスに戻したが、それでも10ドル台という歴史的な安値圏で動いている。この影響でダウ平均株価は一時ストップ安となり、日経平均も400円近い暴落になった。
これは1970年代に原油価格が上がって世界的なインフレが起こった石油ショックの逆の逆石油ショックともいえる。この原油安が今後も続くとすると、日本経済にとってはチャンスになりうる。

交易条件(右軸)
図のように、輸入物価指数は2014年から30%下がった。この最大の原因は、原油などの資源(一次産品)価格が暴落したことだが、この結果、交易条件(輸出物価/輸入物価)は大幅に改善し、リーマンショック前の水準に戻ったが、その後は円安で下がった。
交易条件とは「輸出で稼いだ円の価値」で、わかりやすくいえば企業の国際競争力である。円安による輸入物価の上昇を相殺する原油安は、日本経済にとって大きなメリットなのだ。
グローバル化が逆転して日本が浮上する
新型コロナ感染の発火点である中国は深い傷を負ったが、アメリカ経済もまだ危機が進行中である。コロナそのものは大型のインフルエンザ程度の感染症だが、その世界経済に与える影響は、短期的にはリーマン・ショックを超えるだろう。
リーマンが金融危機だったのに対して、今回はグローバルなサプライチェーンが寸断されて、グローバル化が逆転するだろう。これによって1990年代以降進んできた国際分業が崩壊し、その需要側だったアメリカも、供給側だった中国も経済的に縮小せざるをえない。
それに対してグローバル化に立ち後れて衰退した日本は、相対的に有利になるだろう。海外生産していた製造業は国内に回帰し、その原料である石油などの一次産品も安くなるので、交易条件は改善する。自動車などのエネルギー集約型産業が復活するだろう。
これは世界経済全体としては好ましい流れとはいいがたいが、短期的には日本にとって有利である。これを機に生産性を高め、資本効率を上げれば、世界のリーダーに返り咲くことも不可能ではない。
先進国がロックダウンから脱却できない中で、日本はコロナの被害も軽く、緊急事態宣言も不要だった。5月6日以降は経済を正常に戻し、世界経済の主導権を握るチャンスである。

関連記事
-
(前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か②) 送電線を増強すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか 「同時同量」という言葉は一般にも定着していると思うが、これはコンマ何秒から年単位までのあらゆる時間軸で発電量と需
-
トランプ大統領のパリ協定離脱演説 6月1日現地時間午後3時、トランプ大統領は米国の産業、経済、雇用に悪影響を与え、他国を有利にするものであるとの理由で、パリ協定から離脱する意向を正式に表明した。「再交渉を行い、フェアな取
-
ドバイではCOP28が開かれているが、そこでは脱炭素化の費用対効果は討議されていない。これは恐るべきことだ。 あなたの会社が100億円の投資をするとき、そのリターンが100億円より大きいことは最小限度の条件だが、世界各国
-
米国でのシェールガス革命の影響は、意外な形で表れている。シェールガスを産出したことで同国の石炭価格が下落、欧州に米国産の安価な石炭が大量に輸出されたこと、また、経済の停滞や国連気候変動枠組み交渉の行き詰まりによってCO2排出権の取引価格が下落し、排出権購入費用を加えても石炭火力の価格競争力が増していることから、欧州諸国において石炭火力発電所の設備利用率が向上しているのだ。
-
事故確率やコスト、そしてCO2削減による気候変動対策まで、今や原発推進の理由は全て無理筋である。無理が通れば道理が引っ込むというものだ。以下にその具体的証拠を挙げる。
-
アゴラ研究所の運営するGEPRはサイトを更新しました。
-
東日本大震災と福島原発事故から4年が経過した。その対応では日本社会の強み、素晴らしさを示す一方で、社会に内在する問題も明らかにした。一つはデマ、流言飛語による社会混乱だ。
-
原子力を題材にしたドキュメンタリー映画「パンドラの約束(Pandora’s Promise)」を紹介したい。かつて原子力に対して批判的な立場を取った米英の環境派知識人たちが、賛成に転じた軌跡を追っている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間