企業のカーボンニュートラル宣言はESGのGに反する

2022年02月03日 06:50

2020年10月の菅義偉首相(当時)の所信表明演説による「2050年カーボンニュートラル」宣言、ならびに2021年4月の気候サミットにおける「2030年に2013年比46%削減」目標の表明以降、「2030年半減→2050年カーボンニュートラル」を宣言する日本企業が相次いでいます。

NicoElNino/iStock

パリ協定発効後の2016年や2017年のほか、菅首相所信表明演説後の2021年初頭に表明していたにもかかわらず、改めて2021年5月以降に目標値の積み上げや達成年度の前倒しを宣言した企業もあります。

企業が自社のCO2削減に関する中長期目標(本稿ではスコープ1、2とします)を策定するプロセスとしては、まず現時点のCO2排出量実績から2030年や2050年のビジネスを展望した上で目標年のCO2排出量見込みを算出します。そこから自助努力による削減方策を積み上げて検討しますが、同時に発電側で対応されるであろう日本政府の目標を加味してCO2排出量の削減見込みを試算します。

カーボンニュートラル宣言のリリースや自社ウェブサイト上での詳細説明で国の46%削減に伴う購入電力の低炭素化を前提条件としている企業が複数ありますし、仮に明言していない企業であっても多かれ少なかれ前提としているはずです。

ここで、ひとつの疑問が浮かびます。2030年にCO2半減(46%や50%の削減)を宣言した企業の経営者の皆さんは、わずか8年後に日本国内の46%削減が実現可能だとお考えなのでしょうか。残念ながら、空前絶後のイノベーションでも起きない限り、冷静に考えれば実現はほぼ不可能です

また、日本のCO2削減目標は、米国民主党政権に合わせて上方修正し、共和党政権に梯子を外され国内での議論が沈静化するというサイクルを繰り返してきました。表1に、過去の日本と米国のCO2削減目標を整理します。基準年は違えどほぼ同じ削減率の数字が並んでいます。

もちろん今後については分かりませんが、2022年に行われる米国中間選挙について現時点では共和党優勢が伝えられており、今回も日本政府は梯子を外され数年後には国内でも沈静化する可能性が否定できません。

企業のCO2削減目標も国の目標が変わるたびに上方修正して一時的には盛り上がるのですが、数年後には産業界でも社会全体でも忘れ去られる、といった歴史を繰り返してきました。何度も経営会議に諮って公表時点では社内の関心が高いのですが、数年後社会の関心が薄れるとともに経営層や事業部でも話題にならなくなり、環境・CSR部門だけが取り組んでいるという苦い経験をした担当者も多いはずです。上

場企業であれば数年で経営者が変わるため、公表時の経営者と後任の経営者で関心や方針が異なるのは仕方がない面もあります。しかしながら、過去の日本政府の目標やエネルギー基本計画(後述)について最終年の結果まで関心を持って把握してきた経営者が何人いたでしょうか。

続いて、2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画、および第5次エネルギー基本計画における電源構成を抜粋します(表2)。比較のため、表3に2019年度の電源構成、および電気事業連合会が公表しているCO2排出係数の推移(図1)より過去最も排出係数が低かった2010年の日本の電源構成を示します。

図1.電事連における販売電力量、CO2排出量と排出係数の推移
出典:電気事業連合会ウェブサイト

第6次エネルギー基本計画では、あと8年で2019年度実績の再エネを2倍に、原子力を3.5倍にする計画となっています。2010年度は再エネがほぼ水力のみで9.5%しかなかったにもかかわらず原子力が25%あったことでCO2排出係数が過去最少でした。

しかしながら、原子力発電所の再稼働が進展しない現状を鑑みると、たった8年では第5次エネルギー基本計画の電源構成すら実現する可能性が低い中で、さらに再エネの拡大をめざす第6次エネルギー基本計画が達成できるとは到底考えられません。従って、2030年46%削減も極めて困難なことが予想されます。

自社内で完結する施策で達成可能な目標であればよいのですが、実現が絶望的な国の2030年46%削減という外部要因に頼っている場合、その目標は2030年時点で未達となる可能性が極めて高いため、ESGのG(ガバナンス)として適切な意思決定および経営計画の開示とは思えません。

あるいは、2030年CO2半減目標を公表した経営者の皆さんは国の2030年46%削減が達成できるとお考えなのでしょうか。

本来は投資家やメディアにこうした議論を深掘りしてほしいのですが、我先にとカーボンニュートラル宣言を出しさえすれば称賛される昨今の風潮には大きな違和感を覚えます。

SDGsの不都合な真実-「脱炭素」が世界を救うの大嘘-』(宝島社)

This page as PDF

関連記事

  • 前回、防災白書が地球温暖化の悪影響を誇大に書いている、と指摘した。今回はその続き。 白書の令和2年度版には、「激甚化・頻発化する豪雨災害」という特集が組まれている。これはメディアにもウケたようで、「激甚化・頻発化」という
  • 1月10日の飛行機で羽田に飛んだが、フランクフルトで搭乗すると、機内はガラガラだった。最近はエコノミーからビジネスまで満席のことが多いので、何が起こったのかとビックリしてCAに尋ねた。「今日のお客さん、これだけですか?」
  • アゴラ研究所の運営するネット放送「言論アリーナ」。今回のテーマは「次世代原子炉に未来はあるか」です。 3・11から10年。政府はカーボンニュートラルを打ち出しましたが、その先行きは不透明です。その中でカーボンフリーのエネ
  • GEPR編集部より。このサイトでは、メディアのエネルギー・放射能報道について、これまで紹介をしてきました。今回は、エネルギーフォーラム9月号に掲載された、科学ジャーナリストの中村政雄氏のまとめと解説を紹介します。転載を許諾いただきました中村政雄様、エネルギーフォーラム様に感謝を申し上げます。
  • 2015年6月2日放送。出演は澤昭裕氏(国際環境経済研究所所長、21世紀政策研究所研究主幹)、池田信夫氏(アゴラ研究所所長)、司会はGEPR編集者であるジャーナリストの石井孝明が務めた。5月にエネルギーミックス案、そして温室効果ガス削減目標案が政府から示された。その妥当性を分析した。
  • 以前、尾瀬の自然保護活動に関して「仮想評価法(CVM)」という手法を使ってその価値の計測を試みたことがある。ハイカーが押し寄せて自然が荒廃した1960年代の尾瀬の写真と、保護活動により回復した現在の尾瀬の写真を2つ提示し、尾瀬の美しい自然価値に対して自分が支払ってもいいと考える評価額(支払い意思額)を聞いたものだ。回答のなかには驚くほど高額の回答もあり、平均すると年間で1人1000円超となった。担当者としては、尾瀬の自然に高い価値を感じてくださっていることを嬉しく思うと同時に、その場で自分が支払うわけではない「架空の財布の紐」は緩いのだとも感じた。
  • 私は原子力発電の運用と安全の研究に、およそ半世紀関わってきた一工学者です。2011年3月の東京電力福島第一原発事故には、大変な衝撃を受け、悲しみを抱きました。自分は何ができなかったのか、自問と自省を続けています。
  • 台湾有事となると、在韓米軍が台湾支援をして、それが中国による攻撃対象になるかもしれない。この「台湾有事は韓国有事」ということが指摘されるようになった。 これは単なる軍事的な問題ではなく、シーレーンの問題でもある。 実際の

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑