オーストラリアにおいてすら太陽光発電は電気料金を高くした

Hammad Khan/iStock
日本政府は今、再生可能エネルギーの大量導入と石炭火力の縮小を同時に進めている。第7次エネルギー基本計画では、2040年度の温室効果ガス排出量を2013年比で73%減として、電源構成として再エネ40〜50%、原子力20%、火力30〜40%が示された。政府は再エネを「主力電源」にするという。
だが、ここで見るべき先例がある。オーストラリアである。
オーストラリアは、日本よりもはるかに太陽光発電に適した国だ。世界銀行のGlobal Solar Atlasによれば、オーストラリアの方が日照条件は遥かに良い。すなわち、1kWのパネル当たりの発電量である太陽光発電ポテンシャルは、オーストラリアが日量3.60〜5.32kWh/kWpであるのに対し、日本は2.65〜4.07kWh/kWpにとどまる(図1)。
しかもオーストラリアは広大な土地を持ち、人口密度も低い。条件だけを見れば、太陽光発電には日本より圧倒的に恵まれている。

図1 日照データ(globalsolaratlas.info)。説明は省略。
そのオーストラリアですら、安価な石炭火力を退出させ、太陽光・風力を大量導入した結果、産業用電力価格の上昇とエネルギー集約産業の危機に直面している。これは日本にとって重大な警告である。
オーストラリアの電源構成は劇的に変わった。1999-2000年には、石炭(black coal)59.0%、褐炭(brown coal)23.9%で、石炭火力は合計82.9%を占めていた。再エネは8.5%にすぎなかった。ところが2025年には、石炭は42.7%まで下がり、再エネは39.5%まで拡大した(図2)。

図2 オーストラリアの電源構成の変化
オーストラリア政府
ではこれで、電気代はどうなったか。
オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)によるオーストラリア国家電力市場(NEM)に関するデータを見ると、大口事業者向けの電気料金は、2007-08年の10.7豪セント/kWhから、2018-19年には17.2豪セント/kWhへ上昇した。その後2020-21年には15.1豪セント/kWhまで下がったが、それでも2007-08年より大幅に高い(表)。
| 年度 | 大口事業者向け価格 |
| 2007-08 | 10.7豪セント/kWh |
| 2018-19 | 17.2豪セント/kWh |
| 2020-21 | 15.1豪セント/kWh |
高いエネルギーコストは、豪州の金属産業の国際競争力を直撃している。Glencoreは2025年、Mount Isa銅製錬所とTownsville銅精錬所について、エネルギーコストがインド、中国、カナダ、米国の2倍以上に達しており、現状では不採算だと説明した。その後、同社は豪連邦政府とクイーンズランド州政府から最大6億豪ドルの支援を受け、3年間操業を継続することになった。
なぜ電気代は上昇したのか。
第一に、石炭火力をやめれば、その穴を何かで埋めなければならない。太陽光と風力は変動する。したがって、その穴埋めをするためには、蓄電池や揚水発電が必要であり、また送電線の増強に加え、ガス火力が必要になった。
オーストラリアエネルギー市場運営機関(AEMO)の2024年統合システム計画は、石炭火力退出後の東南部電力市場(NEM)には、49GWで646GWhの蓄電等調整能力と15GWのガス火力が必要だとしている。1GWは100万キロワットのことだから、これは莫大なものだ。
第二に、送電線投資が必要になる。石炭火力は既存の大規模発電所と既存送電網を使って都市部へ電力を送っていた。これに対し、太陽光・風力は資源のある遠隔地に分散立地する。その電気を需要地へ運ぶには、新しい送電線が必要だ。AEMOは2050年までに約1万kmの新送電線が必要だとし、その目的は再エネ発電地帯から都市や産業へ電力を送ることだと説明している。
第三に、ガス火力の調整能力への依存が高まった。ガス火力は、太陽光が落ちる夕方、風が弱い時、猛暑・寒波時に加えて、日照が無かったり無風が続いたりするといったいわゆる「再エネの干ばつ」時に必要になる。AEMOも、石炭火力退出後にはガス火力が再エネ出力低下時とピーク需要時のバックアップとして必要だと明記している。
「いまや太陽光パネルが一番安い」と言う言説は、日本同様、オーストラリアでも吹聴された。だが電力システムで必要なのは、晴れた昼間だけ安い電気ではない。工場が必要とするのは、24時間365日、周波数と電圧が安定し、必要な時に確実に使える電気である。石炭火力が退出した穴は、太陽光発電で単純に置き換えると言う訳には行かなかった。
つまり、現実の置き換えは、
石炭火力 → 太陽光・風力
ではない。
正しくは、
石炭火力 → 太陽光・風力 + 送電線 + 蓄電池 + ガス火力
であった。
この違いを無視して、「いまや太陽光発電が一番安い」というのは、電力システム全体を見ていない議論である。
さて日本政府は、再エネを40〜50%まで増やし、火力を30〜40%まで下げる計画を掲げている。
だが、日本より遥かに再エネの自然条件に恵まれたオーストラリアですら、再エネ大量導入と石炭火力退出の結果、産業用電力コストは上昇した。
日本はオーストラリアより日照が悪く、土地も狭く、山地が多い。さらに日本の製造業は、電力品質と安定供給を前提に国際競争している。
日本のエネルギー政策は、再エネ比率の数字合わせではなく、安定的で安価な電力を確保するという原点に戻るべきではないか。
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