核燃料サイクルと原子力政策(上) — 現実解は再処理の維持による核物質の増加抑制
国家戦略室が策定した「革新的エネルギー・環境戦略」の問題を指摘する声は大きいが、その中でも、原子力政策と核燃料サイクル政策の矛盾についてが多い。これは、「原子力の長期利用がないのに再処理を継続することは、矛盾している」という指摘である。
原則論としてこの指摘は正しいが、実際には、今後の原子力発電の規模の展望が見えないと、この「矛盾の程度」がどの程度であるか、なんとも言えないというのが正直な所である。核燃料サイクル事業(再処理や高レベル放射性廃棄物の地層処分事業)は、原子力発電のための「核燃料の流れを確保する事業」なので、核燃料の需給バランスやストック(貯蔵)の妥当性が問われると共に、最終処分のあり方に強く関係する。
我が国の核燃料サイクルは、本来は国内の問題であるが、世界に影響を与えうる問題でもあり得る。我が国の核燃料サイクル問題は、否が応にも、国際的な原子力情勢や核不拡散問題と無関係ではありえない。「2030年代中に原子力ゼロ」とする「革新的エネルギー・環境戦略」は、国民的パニック状態の中で脱原子力目標を目指し過ぎた結果、「国内的な量的矛盾」と「国際影響認識の欠落」の両方を抱えたものになっている。
筆者は、「2030年代中に原子力ゼロ」自体が、我が国のエネルギー安全保障や代替エネルギーの現実性の観点から無理な想定であると考えるが、ここでは百歩譲って、それを前提としたバックエンド(核燃料処理)シナリオの課題について考えてみたい。
バックエンドの基本的考え方
国内問題としての量的なバランスから見てみよう。我が国のバックエンド事業は、発電事業よりも時間的に遅れて進んできた。事業者や政府が、原子力を支えるこの基盤的な事業を遅らせてきたこと自体に大きな問題があるが、この現状を無視して今後の議論をすることはできない。
わが国は、1969年の原子力発電の開始以来、累積で2万5000トン(ウラン量)の使用済燃料を発生させて来た。このうちの約8000トンについては、海外委託と国内施設による再処理を行っており、残り約1万7000トンが、原子力発電所と六ヶ所再処理工場の使用済燃料貯蔵プールに貯蔵されている。すなわち、「廃棄物の在庫過多」の状況にある。
仮に「2030年代中に原子力ゼロ」を目指すとしても、①既に発生している使用済燃料(過去分)と、②今後当面発生する使用済燃料(将来分)の両方を見据えたバックエンド戦略を考える必要がある。さらに、バックエンド事業に関しては、既に投資し設置してきた施設(再処理施設)の存在、長年かけて構築された地元の了解や協力の存在、法律によって作られた制度や事業組織の存在が現実としてあり、これらの現状を無視した戦略構築は、非現実的でありリスキーでもある。
原子力のバックエンド戦略では、①核燃料物質管理(資源物質を利用するのか棄てるのか)と、②放射性物質管理(放射性物質どうやって安全に管理するのか)の二つの主要課題が重要である。本来は、この2つの課題に対する国としての理念や基本姿勢が明白に設定された上で、安全リスク、経済性、社会的受容性、核不拡散性、等の「境界条件」に沿って、現実的かつ実行可能な路線が決定されねばならないが、このためには「核燃料物質の量的なバランス」と「現存条件」をしっかりと見極める必要がある。
なかでも、核燃料物質の量的なバランスは、戦略策定の最も基本である。このような複雑なバックエンドの戦略が、各国の国情や戦略によって異なるのは自然なことであり、この問題は、原子力利用を進めている各国の「究極の課題」でもある。
再処理工場を動かして使用済核燃料は量的にバランスする
2030年の末頃まで原子力が一定の発電を担うとすると、使用済燃料の累積発生量は、廃炉によって発生する燃料を含めて、2050年時点で約4万トンに達すると予想される。六ヶ所再処理工場が40年間フルに動くと約3万2000トンの再処理を行えるので、既再処理分の8000トンを加えた累積再処理量と累積発生量が、ちょうどバランスすることになる。
しかしながら、六ヶ所工場が3万2000トンの処理を行うと、使用済燃料としてはゼロになるが、約30トン〜50トンのプルトニウムが未使用のまま残ってしまう。「利用目的の無いプルトニウムは余剰に持たない」という趣旨の基本理念を持つ我が国においては、プルトニウムの再利用需要(プルサーマル)が確保されない限り再処理は行うべきではないので、再処理量は約2万トン程度に留めるといった制限が必要になる。再処理量を2万トンに限定することは、再処理単価が高くなることを意味するので、発電単価(9円/kWh)における再処理分(現在、0.4円/kWh程度)の増加分(0.2円/kWh程度)が許容されることが必要である。
この場合には1万トン強の使用済燃料がそのまま残るのは自明であるが、回収されたプルトニウムは、MOX燃料として使い切ることが出来る。いずれのケースでも、数千トンの使用済MOX燃料が発生することに注意が必要である。
仮に、いくつかの原子炉で40年以上の寿命の延長が行われるとすると(延長の安全確認を条件として)、累積の使用済燃料発生量は5万トン程度まで増加するであろう。この場合は、余剰プルトニウムをゼロとして、約数千トンの使用済ウラン燃料と数千トンの使用済MOX燃料を残す結果となる。仮に、六ヶ所再処理工場を全く利用しなかったとしたら、上記の累積発生量から既再処理分を除いた使用済燃料(3万2000〜4万2000トン)が、全て「直接処分」の廃棄物になり、含まれるプルトニウムはそのまま埋設されることになる。
想定される使用済核燃料の対処法
再処理とは、使用済燃料全体を廃棄物にしないために、使用済からプルトニウムとウランを除き、他の放射性核種を安定でコンパクトな放射性廃棄体「ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)」に転換する事業である。バックエンドの路線の違いは、地層処分する廃棄体の「形態や性状」と「量」を変える選択肢に他ならない。
軽水炉だけで原子力を終える場合、「①全ての使用済ウラン燃料を廃棄物とする(直接処分路線)」、「②再処理をして、大半のウラン使用済燃料はガラス固化体に変換し、少量の使用済MOX燃料を廃棄物とする(再処理路線)」の2つの典型パターンがあるが、「既存の六ヶ所再処理工場を利用しつつ原子炉寿命40年程度で原子力の時代を終える」というシナリオにおいては、結局、次のようなパターンが考えられる。
ケース・1:六ヶ所工場で2万トン程度の再処理を行い、最終的に、1万トン程度の使用済ウラン燃料と、2000トン程度の使用済MOX燃料が残る。地層処分するガラス固化体は約2万8000本。
ケース・2:六ヶ所工場で3万2000トンの再処理を行い、最終的に、2000トン程度の使用済MOX燃料と、数十トンの余剰プルトニウムが残る。地層処分するガラス固化体は約4万本。
ケース・3:仮に、六ヶ所再処理工場で再処理を行わないとすると、最終的に、3万2000トン程度の使用済ウラン燃料が残る。ガラス固化体は約8000本を地層処分する。
最終的に残る使用済ウラン燃料、使用済MOX燃料、回収余剰のプルトニウムについては、将来的に、地層処分するか、更なる再処理を行い次世代炉(高速炉)にて利用するか、という選択肢に委ねることになる。地層処分する場合には、廃棄体の発熱量や廃棄体の大きさによって、埋設施設の設計が変わってくるため、地層処分面積やコストも違ってくる。
現実解は核燃サイクルの維持しかない
一般的には、再処理した方が、使用済燃料をそのまま廃棄体にするよりも、廃棄体や埋設の設計の自由度が広がり、処分の合理化の余地が広がると考えられる。革新的エネルギー・環境戦略では、六ヶ所再処理工場の稼働を明記しているが、これは、ケース・1や2やその中間を想定することを意味している。それぞれのケースで、使用済燃料の中間貯蔵量が変わってくることに注意が必要である。再処理量を多くすることで中間貯蔵量は少なくなり、中間貯蔵施設の数も少なくて済む。ケース・3では最も多くの中間貯蔵施設を必要とする。
六ヶ所再処理工場を破棄するというケース・3は、既に投資してきた再処理施設や長年かけて構築された地元の了解や協力を反故にすることの深刻さを考えると、極めて深刻であり、非現実的である。
これまで時間をかけて構築してきた「使用済核燃料の集中的な受け入れと管理の体制」が宙に浮くことになり、これは、国全体にとって好ましいことではない。青森県が核燃料サイクル施設を受け入れてくれていることは、他では得難いような、非常に重い価値なのである。
そういう意味で、革新的エネルギー・環境戦略が、六ヶ所再処理工場の稼働を認めた判断は、唯一の「現実解」であったと言える。この判断が「2030年代に原発ゼロ」の路線と整合するには、六ヶ所工場の運転計画と、最終的な「残留物」の取り扱い(地層処分か次世代炉)の判断を、しっかり組み合わせて考える必要があり、組み方によっては、それほど矛盾のないシナリオにすることは可能である。
なお、「高速増殖炉」は、高速中性子を利用することで、軽水炉と大きく異なるプルトニウムの燃焼特性を実現する次世代炉である。この特性により、上記の「残留物」である余剰プルトニウムを、燃料として受け入れることが出来る。高速炉は、従来から燃料の増殖だけを強調して説明されて来たが、むしろ「プルトニウムを自在に操れる、プルトニウムの受け皿」としての炉と言った方が適切である。
原子力利用が長期に続く場合には、高速炉の利用は、資源的な供給保証(燃料の自己増殖)に重点が置かれ、今回の革新的エネルギー・環境戦略のように原子力利用を早期に終了しようという場合は、プルトニウムを消費してゆく能力の方が着目されることになる。「残留物」を受け入れて燃料増殖のポテンシャルを活かすことで、将来的な資源供給の不確実性に対応することも出来るので、軽水炉を継ぐ炉としての意義を有しているのである。
「最終残留物」の取り扱いの選択肢としては、「地層処分」と「高速炉利用」が存在し、いずれ両者の選択について判断することが求められる。原子力委員会がバックエンド戦略として国家戦略室に提示した「併存シナリオ」は、この選択の余地を残すという考え方であった。
「核燃料サイクルと原子力政策(下)—重要国日本の脱落は国際混乱をもたらす」に続く。
(2012年11月5日掲載)

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