米メディアから見る、都市温暖化バイアスとTSIデータがもたらす気候危機

Tero Vesalainen/iStock
日米のニュースメディアが報じる気候変動関連の記事に、基本的な差異があるようなので簡単に触れてみたい。日本のメディアの詳細は割愛し、米国の記事に焦点を当ててみる。
1. 脱炭素技術の利用面について
まず、日米ともに、再生可能エネルギーやEV、カーボンリサイクル、水素などの利用面の記事が多いのは共通している。日本は「明」を報じることが多いが、米国は、少し先行していることもあり、警鐘を鳴らす意味があるのか、比較的「暗」の部分を報じている。
たとえば、風力発電については、
米国で建設中の洋上風力発電所の半数近くを手がけるデンマークのエネルギー企業オーステッド社は、物議を醸しているニュージャージー州沖のプロジェクトを2026年まで延期した。同社は、サプライチェーンの問題、インフレ、金利の上昇などをその理由として挙げた。この発表は再エネ部門に波紋を広げ、このような大規模プロジェクトの実現可能性に対して懸念を抱かせた。また、洋上風力発電に反対する人々にも活力を与えている。
また、EVについては、
2023 Cox Automotive Mid-year Review資料によると、2023年第2四半期に、ディーラーの敷地にある電気自動車の平均在庫は 92,000台を超えた。これは、2022年の第2四半期と比較して342% も増加している
などが報じられている。
2. 政治家の発言から
トランプ前大統領が脱炭素運動に反対を表明し、パリ協定から離脱したことはよく知られている。最近、2024年の大統領選に出馬を表明したRFK Jr.も、
COVIDが悪用されたのと同じく、気候変動は、全体主義によって社会を支配しようとする超富裕層によって、社会を締め付ける口実として利用されている。世界経済フォーラムも全体主義社会を生み出すために気候政策を利用している。
などと発言したという記事が掲載されていた。
3. 気候科学からみたUNやIPCCに対する疑念について
これに関する報道については日米で著しい違いがある。
日本では、利用面についての記事は多くみられるが、その根拠となる気候変動の定義、真偽、問題点などはほとんど報じられない。メディアだけをみていると、政治家を筆頭に官僚、財界、学界までが基礎を蔑ろにして、利用面だけを取り組んでいるような感じを受ける。
米国では、この基本となる部分について、気候科学者をはじめとする専門家とUNやIPCCとの間で激しいバトルが繰り広げられている。
気候科学者の動向については、
米国プリンストン大学のハッパー博士とMITのリンゼン博士が、広範なデータを引用しながら、大気中のCO2は ”heavily saturated”だとして、米国EPAの気候政策を批判、地球は気候危機にないとの書簡を送った。
などと投稿した。
米国著名2教授「大気はCO2飽和状態にあり気候危機にない」と主張
さらに最近になって、「IPCCがリリースする報告書には、2つの欠陥がある」などという記事を見かける。
一つ目の欠陥は、IPCCの報告書では、分析に際して、「都市温暖化バイアスによって汚染された」世界の地表気温データを使用していることである。
都市部は人間の活動やさまざまな構造物の影響を受けて、田舎よりも気温が高い傾向にある。都市部は国土のわずかな割合を占めるに過ぎない(地球陸地表面のわずか4%)が、世界の気温の推定に使われる温度計の記録の大部分は、このような場所で占められている。
次に、IPCCの報告書が、膨大な全太陽放射照度(TSI)データの中の一部しか使用していないため、過去数世紀にわたってTSIにほとんど変化がなかったか、1950年代以降のTSIはわずかに減少しているという2つの間違った結論を導き出した。
つまり、IPCCの報告書は、都市部の気温が上昇し、全太陽放射照度にほとんど変化がないことを示すデータを分析することにより、地球温暖化の原因を人間の活動に求め、その過程における自然要因、特に太陽の役割を過小評価、あるいは否定しているというのだ。
従って、環境研究地球科学センター(CERES)などは、
1850年以降の地球温暖化の原因に関するIPCCの声明は科学的に時期尚早であり、見直す必要がある。さらに、IPCCは、時期尚早の科学的コンセンサスを強制すべきではないのであり、IPCCが、オープンな気持ちで科学的調査により多くの注意を払っていれば、気候変動の原因究明により近づいていただろう。
とも述べている。
また、多くの専門家が、気候アジェンダを推進するために使用されている気候モデルには欠陥があると警告している。
気候モデルには多くの欠点があり、政策ツールとしては、妥当なものではない。これらのモデルは、温室効果ガスの影響を誇張している。CO2濃度が高くなれば、大気は豊かになり有益であるという事実を無視している。
地球物理学者のラズロ・ザルカ氏によれば、気候変動の定義は1992年に科学と両立しない方法で歪められ、過去30年間、国連気候変動枠組条約の定義では、自然の原因が除外されている。「気候変動の古典的な定義が曖昧になったことで、気候のあらゆる変化の原因を人為的な排出だと説明する道が開かれた」とザルカ氏は述べている。
4. さて日本は?
こうした米国での戦いが繰り返されている中で、日本は、「CO2が元凶であるという与えられたシナリオ」の儘に、脱炭素社会の実現に一丸となって邁進していくのだろうか?

関連記事
-
>>>(上)はこちら 3. 原発推進の理由 前回述べたように、アジアを中心に原発は再び主流になりつつある。その理由の第一は、2011年3月の原発事故の影響を受けて全国の原発が停止したため、膨大な費用が余
-
高速炉、特にもんじゅの必要性、冷却材の選択及び安全性についてGEPRの上で議論が行われている。この中、高速炉の必要性については認めながらも、ナトリウム冷却高速炉に疑問を投げかけ、異なるタイプで再スタートすべきであるとの主張がなされている。
-
「原発事故に直面した福島のガンの増加の可能性は、仮にあるとして、0.0002%?0.0000の間。それなのに人々は避難を強制され、毎日表示されるガイガーカウンターの数値に囲まれ生活している」。ナレーションの後に原発と、福島の人々の姿、そして除染の光景が示される。これは必要なことなのだろうか
-
これが日本の産業界における気候リーダーたちのご認識です。 太陽光、屋根上に拡大余地…温室ガス削減加速へ、企業グループからの提言 245社が参加する企業グループ、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は7月、GH
-
【概要】原子力規制委員会の原子力発電所の安全審査ペースが急速に鈍化している。2016年下期に本体施設3基を許可したのをピークに、その後、期ごとの許可実績が2、2、1、0、0基と減っている。 審査している原発が無くなったの
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は「ニコ生アゴラ」という番組をウェブテレビの「ニコニコ生放送」で月に1回提供している。4月10日の放送は「汚染がれきを受け入れろ!?放射能に怯える政治とメディア」だった。村井嘉浩宮城県知事(映像出演)、片山さつき自民党参議院議員、澤昭裕国際環境経済研究所長、高妻孝光茨城大学教授が出演し、司会はアゴラ研究所の池田信夫所長が務めた。
-
昨年末の衆議院選挙・政権交代によりしばらく休止状態であった、電力システム改革の議論が再開されるようだ。茂木経済産業大臣は、12月26日初閣議後記者会見で、電力システム改革の方向性は維持しつつも、タイムスケジュール、発送電分離や料金規制撤廃等、個々の施策をどのレベルまでどの段階でやるか、といったことについて、新政権として検証する意向を表明している。(参考:茂木経済産業大臣の初閣議後記者会見の概要)
-
米軍のイラク爆撃で、中東情勢が不安定になってきた。ホルムズ海峡が封鎖されると原油供給の80%が止まるが、日本のエネルギー供給はいまだにほとんどの原発が動かない「片肺」状態で大丈夫なのだろうか。 エネルギーは「正義」の問題
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間