米国の気候作業部会報告を読む⑩:CO2で食料生産は大幅アップ

fotokostic/iStock
(前回:米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか)
気候危機説を否定する内容の科学的知見をまとめた気候作業部会(Climate Working Group, CWG)報告書が2025年7月23日に発表された。
タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」である。
今回は、「9章 気候変動と米国農業」について解説しよう。
以下で、囲みは、CWG報告書からの直接の引用である。
■
CO2には、植物の光合成を促進し、水利用率を向上させることで植物の成長を促す「施肥効果」があり、これにより「地球緑色化」が進んでいることは2章で説明した通りだが、この施肥効果はもちろん農作物の生産量増大をもたらす。以下はCWGによる本章の要約である。
数十年にわたる豊富な証拠から、CO2濃度の増加が植物、特に農作物に利益をもたらすことが示されており、CO2による温暖化は米国農業全体にとってネット上の利益となることが明らかです。大気中のCO2濃度の増加は、主要な米国作物の生産性をすべて向上させてきました。総合的に判断すると、気候変動はこれまで米国農業の大部分にとって中立的または有益であり、今後もその傾向が続くと結論付ける根拠があります。
過去、作物の収量(ヘクタールあたりのトン数)は、技術進歩によって大幅に向上してきた。その一方で、CO2濃度も上昇してきた。図9.1は1940年を100として両者を示したものである。では、CO2濃度の上昇は、どの程度、作物の生産性に寄与してきたのだろうか。
CWG報告は、CO2濃度の高い環境下で作物の生育が早まったり収量が増大したりした実験例をいくつも示したうえで、更に、以下の論文を引用している。

図9.1 米国における二酸化炭素濃度とトウモロコシ、大豆、小麦の収量の平均値を1940年を100として標準化
出典:Taylor and Schlenker(2021)
2021年に米国国立経済研究局(Taylor and Schlenker 2021)が発表した報告書では、米国全土の屋外CO2濃度を衛星観測データで測定し、郡別の農業生産データやその他の経済変数と照合しました。天候、汚染、技術の影響を調整した後、著者はCO2濃度の増加が1940年以降、米国の作物生産を50%ないし80%も増加させたとの結論に至りました。これは野外でのCO2濃度増加実験で以前推定されていた値よりもはるかに大きな増加でした。彼らは、CO2濃度が1ppm増加するごとに、トウモロコシの収量が0.5%、大豆が0.6%、小麦が0.8%増加することを発見しました。
図9.1を見るとCO2濃度は1940年以来、33%ほど増えている。これは約100ppmに相当するから、これによる収量増加はトウモロコシが50%、大豆が60%、小麦が80%となる。この間の収量の増大は猛烈で、図をみるとトウモロコシが500%、大豆が200%、小麦が200%もあり、これは品種改良や肥料・農薬などの技術進歩に多くを依っていたが、CO2濃度の増大も、少なからぬ寄与をしたということだ。
将来についてのシミュレーションでは、気温上昇や雨量の変化などによって作物の収量が減少するという論文があるが、CO2の施肥効果をきちんと考慮するならば、あらゆる作物の収量は、5℃といったかなり高い平均気温上昇のシナリオの下でも、むしろ増大するという結果をCWGは示している。
また、CO2濃度が上昇すると、作物の栄養素(蛋白質、ビタミンなど)が低下するという論文があり、このこと自体がまだ真偽のほどははっきりしないが、仮に栄養素が不足するとしても、品種改良や他の食品で補うことで十分に適応できる、とCWGは論じている。
そして、十分に栄養を摂るためには経済的に豊かであることが最重要であるが、じつはCO2排出の多いIPCCシナリオほど貧困国の経済成長率が高いことに言及している。
CO2濃度上昇が作物の収量増大に大きく貢献してきたことは間違いないし、今後もそれは続くであろう。気候危機論者にとって不都合なこの巨大な便益は、あまりにも軽視されている。
なおCO2による施肥効果については筆者らも記事を書いているので詳しくはリンクを参照されたい。
【関連記事】
・米国の気候作業部会報告を読む①:エネルギー長官と著者による序文
・米国の気候作業部会報告を読む②:地球緑色化(グローバル・グリーニング)
・米国の気候作業部会報告を読む③:海洋酸性化…ではなく海洋中性化
・米国の気候作業部会報告を読む④:人間は気候変動の原因なのか
・米国の気候作業部会報告を読む⑤:CO2はどのぐらい地球温暖化に効くのか
・米国の気候作業部会報告を読む⑥:気候モデルは過去の再現も出来ない
・米国の気候作業部会報告を読む⑦:災害の激甚化など起きていない
・米国の気候作業部会報告を読む⑧:海面上昇は加速していない
・米国の気候作業部会報告を読む⑨:それは本当にCO2のせいですか
■

関連記事
-
昨年10月に公開された東京電力社内のテレビ会議の模様を見た。福島第一原発免震重要棟緊急対策室本部と本店非常災害対策室とのやりとりを中心に、時々福島オフサイトセンターを含めたコミュニケーションの様子の所々を、5時間余り分ピックアップして、音声入りの動画を公開したものだ。また、その後11月末にも追加の画像公開がなされている。
-
日本、欧州、米国で相次いで熱波が発生したとのことで、日本でも連日報道されていて、まるで地球全体が暑くなったかのようだが、じつはそんなことはない。 メイン大学のホームページにある米国の分析結果を見ると、7月21日の地上2メ
-
国会の事故調査委員会の報告書について、黒川委員長が外国特派員協会で会見した中で、日本語版と英語版の違いが問題になった。委員長の序文には、こう書かれている
-
政府は停止中の大飯原発3号機、4号機の再稼動を6月16日に決めた。しかし再稼動をしても、エネルギーと原発をめぐる解決しなければならない問題は山積している。
-
今回は英国シンクタンクGWPFの記事と動画からの紹介。 2019年、Netflixのドキュメンタリー番組「Our Planet」の一場面で、数匹のセイウチが高い崖から転落して死亡するというショッキングな映像が映し出された
-
英国の環境科学者で地球を1つの生命体とみなす『ガイア理論』を提唱したジェームズ・ラブロック氏が103歳で亡くなってから、間もなく2ヶ月になろうとしている。 CNNは次のように報じた。 ラブロック氏は科学界に多大な功績を残
-
気象庁は風速33メートル以上になると台風を「強い」以上に分類する※1)。 この「強い」以上の台風の数は、過去、増加していない。このことを、筆者は気候変動監視レポート2018にあった下図を用いて説明してきた。 ところでこの
-
石油がまもなく枯渇するという「ピークオイル」をとなえたアメリカの地質学者ハバートは、1956年に人類のエネルギー消費を「長い夜に燃やす1本のマッチ」にたとえた。人類が化石燃料を使い始めたのは産業革命以降の200年ぐらいで
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間