デジャブ、そして総崩れ…中部電力「データ不正」と中3社神話の終焉

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デジャブ──中3社、総崩れ
既視感のある話である。
今度は“中3社”の最後の切り札とも目されてきた中部電力が“不正行為”である。
中3社とは電力事業の古参大手である東京電力、中部電力、関西電力のことを指す。
電気事業連合会(電事連)という組織がある。
電気事業連合会とは、戦後に全国に散在した電力会社をとりまとめ地域独占体制を敷きつつわが国の電気事業を円滑に運営していくことを目的に1952年に、全国の発電事業を9電力に集約することによって設立された組織である。
9電力とは、北から北海道、東北、北陸、東京、中部、関西、中国、四国、九州電力各社を指す。
そのうち日本列島のちょうど中央部、太平洋ベルトのど真ん中に陣取る東京電力(東電パワーグリッド)、中部電力、関西電力をさして『中3社』といわれてきた。
電気事業連合会のトップは、だいたいがこの三社のトップが持ち回り的に務めてきた(九州電力が就いたこともある)。
東京電力が絶好調だった頃、第7代経団連会長・平岩外四(1990~1994)に象徴されるように東電社長は電事連会長にとどまらず、経団連会長も務めた。
つまり、中3社こそが電気事業を中心的に牽引してきたリーダーだったのである。
中3社のうち、まず東京電力は2011年の福島第一原子力発電所事故によって躓いた。発電私企業の雄としての真価は剥奪され、いまや政府の事実上保護観察下にあるといっても過言ではない。
関西電力は、ごく近年は、原発事業関連の金品授受問題、競合他社の顧客情報不正閲覧、カルテル問題などの不祥事が起こっており、所轄の経済産業省から業務改善命令が出されている。これら不祥事の背景には、内向きで属人的な企業ガバナンスによる経営倫理の機能不全があるという指摘がある。
そして今般は中部電力である・・・
浜岡原子力発電所の適合性審査で意図的データ操作
中部電力の不正行為とは、再稼働に向けた適合性審査において基準地震動の揺れの大きさを意図的に過小評価した疑いのあるデータを原子力規制庁に報告したというものである。
これが事実だとすれば、“あってはならないこと”では済まされないほどの重大な事案である。
また、この不正行為がより深刻なのは、データ不正自体が発覚したのが原子力規制委員会への『外部通報』によるものだったということだ。
木原官房長官も「あってはならないこと」と中部電力をかなり強く非難した。
もしバレなければ過小評価したままの基準地震動でもって原子力発電所の安全確保を図るつもりだったのか・・・それは制度の問題以前に倫理的に決して許されないことである。中部電力には自浄能力が欠けている。ガバナンス以前の倫理あるいは道徳にかかわり、原子力事業のみならず技術者の良心が疑われかねない。
背景にあるもの─浜岡原子力の受難の歴史
3.11後の5月に、当時の民主党政権菅直人首相によって、『浜岡原発停止』が要請された。菅直人氏の言い分は、もし仮に浜岡原発で1F事故のようなことが起こったら、首都圏のみならず周辺地域もふくめて壊滅状態になるということだった。
その根拠とされたのが当時原子力委員会委員長が作成した「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」である。
浜岡原子力発電所は3、4、5号機の再稼働を目指しており、最初に4号機が審査の申請をしたのは、2014年2月だった。しかし、審査の起点となる浜岡の基準地震動/基準津波がなかなか決まらなかった。
それは、なんといっても南海トラフ地震に脅える当地ならではである。
地震・津波関係の審査で、安全上重要な施設の耐震・耐津波安全性を確保するうえでの基準となる基準地震動(2023年9月)・基準津波(2024年10月)が確定し、プラント関係の審査が開始したのが2024年12月であった。

浜岡原子力発電所の防潮堤(高さ22メートル)©中部電力
3.11後、地震/津波の見直し評価を受けて、2012年に海抜18メートルの防潮堤が建造された。その後、津波高さの再評価により19メートルに修正されたので、防潮堤は22メートルに嵩上げされた(2015年)。
この間私は現地を5回以上視察し、その万里の長城とも称される長大(全長約1.6キロメートル)な『壁』に驚嘆した。そして規制のドライサイト要求(津波による海水は一滴たりとも敷地内に入ってはならない)に呆れ果て、実質的に超厳しいかの要求をことあるごとに糾弾してきた。
南海トラフ津波と防潮堤の攻防はその後も延々と続く。
そして、2024年3月には、それまで22.7メートルと評価されていた津波高さは、25.2メートルに見直された。それを受けた原子力規制委員会は、2024年10月に〝概ね妥当〟と判断した───これでようやく前に進める。中電の現場も経営陣も安堵し士気があがったに違いない。
しかし、そこで危機に感じた何者かが、津波高さの算定根拠となる南海トラフによる基準地震動の選定において不正があったとの『外部通報』があったのである。
その通報があったのは、2025年2月のことだった。プラントの適合性審査がはじまってから4ヶ月後である。
わたしが真っ先に思ったのは、なぜ内部通報ではなく外部通報だったのか、ということだ。
私にその筋から聞こえてきたのは、あくまでも推察の域をでないが、外部通報したのは中部電力社員ではないかという。
だったら尚更、内部通報ではなく、外部通報に頼らざるをえなかったのだろうか?
安全文化の向上は便益を生む・・・ハズなのだが
私は約20年前に『警告の価値評価』という研究に従事したことがある。警告とは通報のことである。勿論、外部通報より内部通報の方が価値がたかい。
原子力安全文化の向上により寄与するばかりか、企業経営の点からもより便益がある。
ただ、通報は最後の手段なので、通報の芽が育たないことがよほど好ましい。
上記の研究を通じて学んだことがある。
原子力の安全文化を自主的に向上させる2つの処方がある。それらは、いずれも主に欧米で実践されてきたものである。
① questioning atitude(質問的態度)の養成
② 安全の番人の配置
質問的態度というのは、物事を鵜呑みにせず、常に「本当にそうなのか」「なぜそうなっているのか」と自問自答を繰り返し、物事の背景や根拠を積極的かつ批判的に確認しようとする姿勢のことをいう。
安全の番人は、職場を日頃から何気に巡回パトロールし、なにか些細な異変でも発見すると同時に、疑問や質問をもった職員の受け皿になる役割を担う。こういう任にあたる人は人望の厚い人格者であって、誰でもが容易に悩みなどを打ち明けられるようなキャラクターであることが望ましいとされている。すでに一線を退いた人がついたりしているという。それとわかる格好(帽子を被るなど)で居ると聞く。
要の精神は“openness”───これは新奇な状況変化や考え方に対して心が開かれている態度をいう。
いずれにしても、これまでのさまざまな経験から、原子力安全文化の向上は結果的に便益がある──それは単に企業経営のみならず、とどのつまり国家にとってもである。
『原子力発電所の安全性の向上の責任は第一義的に原子力事業者にある』。
これは、法律上も規制上も基本のキの要件である。規制当局にいわれたからやるものじゃない。
3.11の反省を活かすべく、事業者の自主的安全性向上を謳う組織として、原子力安全推進協会(JANSI)にくわえて原子エネルギー協会(ATENA)という組織まである。
今回の中部電力の極めて低レベルな事案は社会規範を大きく逸脱し、スキャンダルと言っても良い。このことによって両組織がクソの役にも立たなかったということになりはしないのか・・・
私は3.11後この自主的安全性向上を謳う組織に勇躍として乗り込んでいき組織改革、安全文化の向上をラーフワークとして尽力してきた碩学を能く知っている。すでに退いているが、尊敬すべき人格と業績をあわせもった好人物である。
今回の件をあえて電子メールで問うたが、いまのところなんの音沙汰もない。ひどく悲しい思いが巡っている。
私は原子力推進を声高に主張し続けるものとして、今はてしない困惑を感じている。
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