ハンガリー総選挙は本当に自由か:EUが仕掛けるオルバン包囲網

Guven Ozdemir/iStock
4月12日は、ハンガリーの総選挙。現職であるオルバン・ヴィクトル首相(フィデス党)が苦戦している。オルバン首相のことは何年も前から注目しているが、EUの首脳の中では抜群に秀でた凄腕、愛国心と国民を守るという気概に満ちた不屈の政治家というのが、私の変わらぬ評価だ。現在62歳。

オルバン・ヴィクトル首相
Wikipediaより
ソ連時代、共産主義に対する抵抗の士であったオルバン氏は、1988年にできたフィデス党の創設メンバー。1998年、35歳で首相となったが、当時は旧ソ連へのアレルギーが強かったためか、比較的欧米寄りの政治をした。ただ、この時のフィデス政権は1期で終わっている。
その後、2010年に首相に返り咲いてからは、ハンガリーを主語としたハンガリー国民のための政治、言い換えれば、グローバリズムの波に逆らった政治を推し進めた。国民の支持も圧倒的に高くなり、以来、今日まで4期続けて政権を握った。
ただ、この10年はEUの欧州委員会(EUの内閣にあたる)と折り合いが悪く、特にフォン・デア・ライエン欧州委員長とは犬猿の仲で、まさにEUの“獅子身中の虫”扱い。そのためEUは現在、民主主義を標榜する組織とは思えないほど強烈な反オルバン・キャンペーンを展開しており、オルバン首相の再選を妨害するためなら、どんな手段も辞さないという異常事態となっている。
オルバン氏についてのニュースを検索しても、AIの取捨選択にはかなり政治的なバイアスが掛かっているらしく、独裁者だとか、国家主義的だとか、否定的な記事しかヒットしない。もちろん、主要メディアも全て、反オルバンである。
おそらくその効果もあるのだろう、現在の世論調査では、オルバン首相は新興野党「ティサ(尊重と自由)」のペーテル・マジャル氏(以前はオルバン首相の「フィデス」に非常に近かった人物)にリードを許すという専らの予測。EUの指導部もマジャル氏の勝利を願っていることは言うまでもない。しかし、前回の選挙も、負けると言われていたオルバン首相が3分の2の議席を取ったのだから、この予測が当たりかどうかはよくわからない。
その上、はっきり言って、保守と名乗りながら、今や完全に左傾化してしまっているEUの指導部の言う通りにしていたら、EUは男女の区別もなくなり、家族は体をなさず、移民が溢れかえって、国境が無いだけでなく、国家の区別もなくなるだろう。それは困ると言っているのが、オルバン首相を“首班”とするEUの真性保守の政治家たちなのだ。
オルバン首相とEUが正面衝突となった最初のきっかけは、2015年、メルケル首相が周辺国との調整なしにドイツの国境を開き、100万人もの中東難民、および中東難民を装った人々がEUに流れ込んだことだった。
ハンガリーはEUの外壁に位置するため、陸路でドイツに行こうとする人々がセルビア(EUではない)経由で流れ込み、国内の混沌を招いた。そこでオルバン氏は当時、セルビア国境に長い塀を作った。ハンガリーにしてみれば、EUの国境と自国の秩序を難民の流入から守るためだったが、EUはそれを難民庇護義務の不履行、人権侵害として非難した。
ただ、このルートを断たれた難民は、たちまち他のところへ流れ、事態の深刻さに怖気付いたEUは、今度はEUの負担でポーランドなどに塀を作った。ハンガリーの塀を非難していた手前、EUが作った塀のことは「物理的障害物」と呼んだ。
もっとも、ハンガリーとEUの本当の争いはこの後だ。陸路のEU国境もスカスカだったが、海路は防ぎようもなく、イタリアやギリシャに流れ着く難民はますます増えて、収拾がつかなくなった。そのため、EUは、難民は手分けして引き受けなければならないとして、イタリアやギリシャにいた難民を各国に振り分けた。ドイツに難民が溢れているのは、そのせいだ。
ところが、オルバン首相はそれを断固拒否。難民が止まらないのは、ドイツのように“難民ようこそ政策”を敷いている国があるからだと主張。また、地中海で難民を“救助”してイタリアなどに運んでくるNGOと、その背後にいる巨大なスポンサーにも非難の矢を向けた。
オルバン首相曰く、「自国に誰を入れるかは、ハンガリーが主権国として自分で決める」。「EU加盟の時、難民を受け入れなければならないという決まりなどなかった」。
氏の主張は明確だった。「ハンガリーは、文化的に異質な中東難民を受け入れて、自国をドイツやフランスのような混沌とした状態にするわけにはいかない」。そして、この言葉が嘘ではなかった証拠に、ウクライナ戦争が始まると、ハンガリーは、同じキリスト教文化のウクライナ難民は、ちゃんと庇護した。
オルバン首相とEUとの確執はその他にも数えきれないほどあるが、現在、一番の問題となっているのが、EUからウクライナへの新たな融資について。
ちなみにEUは、2022年の開戦より25年末までの3年余りで、軍事支援も含めて1690億ユーロ(約30兆円)をウクライナに送っている。今回、さらに追加資金として900億ユーロ(約16.4兆円)を無利子で貸し付けるはずが、オルバン首相の拒否権行使で実施できない。この裏には、ウクライナがパイプラインの故障を理由に、ロシアからハンガリーへの石油の輸送を妨害しているという深刻な事情もある。
一方、ゼレンスキー大統領は、3月5日、キエフで閣議の後に、「我々は、EUのある人間が、(EUが我々に融資しようとしている)900億ユーロをブロックすることのないよう望んでいる。さもなくば、私はその人間の居場所を我々の軍、つまり若い連中に知らせ、彼らが彼らの言葉でその人間と話すことだろう」と発言。“その人間”とは、もちろんオルバン首相のことで、歴とした脅迫だ。しかし、ゼレンスキー贔屓のメディアは何も言わない。いずれにせよ、EUの決定は全会一致でなければならないから、ウクライナ融資は決まらない。
そんなわけで、EU幹部は怒り心頭。万が一、氏が再び政権を握った際には、EU理事会における投票権を剥奪することまで考えているという。緑の党の議員からは、オルバン氏が当選しても、勝利は認めるべきではないという極論まで飛び出した。
オルバン氏がEU幹部にとって邪魔でしようがないことはわかるが、これでは何が民主主義だかわからない。また、それとは別に、EU市民の血税から、さらにこれほどの巨額をウクライナに注ぎ込むことの是非は、もう一度、真剣に討議すべきではないか。
一方、EUの左翼クラブになった欧州委員会から目を離せば、EU自体も一枚岩ではないことがわかる。それどころか、世界各国の保守勢力はすでにかなりの力を蓄えている。
2022年からは毎年、ブダペストで、オルバン首相の主導で欧州の愛国者らの集い、“CPAC Hungary“(Conservative Political Action Conference)が開催されている。米国保守派のCPAC会議のヨーロッパ版だ。
今年は3月21日に開かれ、世界51ヵ国から667人のゲストが集合。オランダ「自由党」のヘルト・ウィルダース党首、「国民連合」のマリーヌ・ルペン氏、イタリアの副首相で「同盟」書記長のマッテオ・サルヴィーニ氏、もちろんドイツのAfD(ドイツのための選択肢)からは、アリス・ヴァイデル共同党首など、各国で極右とか、国家主義者などとも呼ばれている大物政治家が勢揃いした。
中でも圧巻は、特別ゲストのアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領のサプライズ登壇。全スピーチのドイツ語訳を聞いたが、理路整然とした熱演だった。ミレイ大統領に関しては、23年12月の就任当初、主要メディアは盛んにクレージーな人物とだけ報じたが、24年に230%を超えていたインフレ率が、現在、30%にまで下がり、景気が上向きになっているという成功ぶりは全然報じない。なお、“CPAC Hungary“については、稿を改めたい。
昨今のEUは、権力を欧州委員会に集中させ、各国の主権や憲法を骨抜きにしていく傾向が強い。それに従わない国は反民主主義的だとか、国家主義的だとして、平気で制裁の対象にする。それに全力で逆らっているのがオルバン大統領や、スロバキアなど一部の東欧の指導者たちだ。
さて、12日のハンガリーの総選挙はどうなるか? ここまでEUがなりふり構わず介入してきている手前、本当に透明な選挙となるのだろうか。
なお、トランプ大統領は、「オルバン首相を全面的に応援」というメッセージを送ってきていたが、以前なら、大きな力となりえたそれが、今、どう影響するか、それも不明だ。イラン戦争やイスラエルの関係で、ハンガリーでのトランプ氏の受け入れられ方が変化している可能性もある。
オルバン首相は頑張ってきたが、16年は長い。「そろそろ交代の時期」と、漠然と刷新を願っている国民も多いかもしれない。ただ、オルバン政権の終焉は、欧州の保守回帰の流れにとっては、大きな打撃となるだろう。EU政治の左傾化が進み、さらに言論の自由がなくなっていくことを、私は懸念している。
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