今週のアップデート — エネルギーの合意形成をどのように行うべきか?(2012年7月9日)
エネルギー政策をどのようにするのか、政府機関から政策提言が行われています。私たちが問題を適切に考えるために、必要な情報をGEPRは提供します。
1)日本原電でかつて働いた北村俊郎氏に「原発を推進した私が被災者として感じたこと−災害の本質、真の原因を考え続ける必要がある」を寄稿いただきました。
北村氏は原子力発電にかかわってきました。そして福島県民として今回の原発事故で被災しました。
「すべてを形式的に済ませてきた関係者の甘さ、中央官庁や本社からは現場が遥かに遠い存在であったこと、自治体も住民も利益享受には熱心であったが緊急事態に関してはまったく油断があった」。被災体験を通じて得た重い問いを、私たちに示しています。
2)GEPRを運営するアゴラ研究所の池田信夫所長はコラム「福島の原発事故は「メイド・イン・ジャパン」か」を寄稿しました。
国会事故調査委員会が報告書を公表しました。ところがその結論は「日本特有のもの」と、本質をずらしたものでした。さらに放射線の健康への影響の問題で、科学的に正しい事実が参考にされていません。これらの問題を指摘した興味深い論考です。
3)ビル・ゲイツ氏の運営するサイト「ゲイツ・ノート」からの転載です。
「ダニエル・ヤーギン、近著『探求』のビル・ゲイツの書評に答える」
ヤーギン氏は著名なエネルギー研究者です。その著書『探求』をめぐって、ビル・ゲイツ氏と対話を行いました。天然ガスへのエネルギーシフトが、石油を大量に使う自動車の姿を変えるかについて、ヤーギン氏の見解を述べています。
4)GEPRはNPO国際環境経済研究所と提携し、コンテンツを共有しています。澤昭裕所長の「エネルギー政策の「国民的議論」に向けて」というコラムを転載させていただきました。内閣府のエネルギー・環境会議が行うと表明した「国民的議論」についての考察です。
澤所長は「国民的議論」の中身の曖昧さを指摘し、産業界の意見を聞かない合意形成に疑問を示しています。
今週のリンク
1)福島原発事故について、国会の事故調査委員会は「福島原発事故は人災」とする最終報告書をまとめました。(国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)
報告書では、福島第一原発は、地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態だったと指摘。事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で、「原発は安全が確保されている」という大前提が共有され、歴代の規制当局は電力業者の「虜(とりこ)」なった結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊したと指摘しています。
ただしその内容は「決めつけ」が多く、放射能の影響を巡る科学的な事実でも「東電がゆがめた」という趣旨でまとめるなど、疑問点の多く残るものです。
2)内閣府「エネルギー・環境会議」は6月29日、「エネルギー・環境に関する選択肢」という文章を公表。2030年の原発の発電比率を「ゼロ」「15%」「20〜25%」にする3つの選択肢を示しました。
これを元に国民的な議論を進めることを提言しています。しかし、その「国民的議論」の方法があいまいです。さらに未来は見通せないのに、固定的な数値目標を設定すると、エネルギー政策が混乱する可能性があります。そうした疑問に、この文章は答えていません。
3)内閣府「エネルギー・環境会議」は国民的議論を深めるためとして、7月7日サイト「話そう “エネルギーと環境の未来”」を開設しました。
このサイトでエネルギー政策や、同会議の進めた議論を紹介します。さらに「討論型世論調査」として3000人の人々の意見を集め、議論を進める予定です。しかしここの意見聴取は中途半端な数で、適切なエネルギー政策の選択が行えるかは疑問です。
4)一方で、産業界からは上記のエネルギー環境会議のシナリオについて、経済性に配慮していないと批判が出ています。
主要産業9団体連名による共同要望書
「「エネルギー・環境会議」から提示されるシナリオに対する産業界の要望(共同要望)」
鉄鋼連盟と日本基幹産業労働組合連合会連盟による共同要望書
「「エネルギー・環境会議」による複数のシナリオの提示についての要望」
(2012年7月9日掲載)

関連記事
-
田中 雄三 前稿では、日本の炭素排出量実質ゼロ達成の5つの障害を具体例を挙げて解説しました。本稿ではゼロ達成に向けての筆者の考えを述べていきます。 (前回:日本の炭素排出量実質ゼロ達成には5つの障害がある①) 6. I
-
自治体で2050年迄にCO2排出をゼロにするという宣言が流行っている。環境省はそれを推進していて、宣言をした自治体の状況を図のようにまとめている。宣言した自治体の人口を合計すると7000万人を超えるという。 だがこれらの
-
政府「不測時における食料安全保障に関する検討会」のとりまとめが発表された。 もし食料不足になったら? 対策の報告書まとまる 農水省 その内容は、不測の事態によって食料が不足するときに、政府が食料の配給をしたり、価格を統制
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク「グローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)」は、12年1月1日の開設から1周年を経過しました。読者の皆さまのご支援、ご支持のおかげです。誠にありがとうございます。
-
9月11日記事。毎日新聞のルポで、福島復興に取り組む東電社員を伝えるシリーズ。報道では東電について批判ばかりが目立つものの、中立の立場で読み応えのある良い記事だ。
-
北海道大停電について「出力ではなく周波数が問題だ」というデマが流れているので、テクニカルな話だが、事故の経緯をくわしく見てみよう。苫東厚真の3基は一挙に止まったわけではなく、地震直後には1号機が動いていた。読売新聞による
-
沖縄電力でシンプルガスタービン(GT)火力の設置を承認 2025年9月3日付の電気新聞は「エネ庁、沖縄で『GT単独』容認―火力の新設基準改正案」と題し、沖縄電力が計画するシンプルGT(ガスタービン)火力発電所の新設が、省
-
米国では温暖化対策に熱心なバイデン政権が誕生し、早速4月22日に気候サミットを主催することになった。これに前後してバイデン政権は野心的なCO2削減目標を発表すると憶測されている。オバマ政権がパリ協定合意時に提出した数値目
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間