今週のアップデート — 脱原発の長い道のり、第一歩は省エネ(2012年9月24日)
今週のアップデート
1)脱原発が叫ばれます。福島の原発事故を受けて、原子力発電を新しいエネルギー源に転換することについて、大半の日本国民は同意しています。しかし、その実現可能な道のりを考え、具体的な行動に移さなければ、机上の空論になります。
東北芸術工科大学教授で建築家の竹内昌義さんに、「エコハウスの広がりが「脱原発」への第一歩」を寄稿いただきました。竹内さんは、日本では家の断熱効率をこれまで深く考えてこなかったと指摘しています。ヨーロッパ並みの効率を使うことで、エネルギーをより少なく使う社会に変える必要があると、主張しています。
2)日本政府は9月14日、内閣府のエネルギー・環境会議がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」という文章で、2030年代までに原発をゼロにするという国の目標を定めました。政権は当初、この文章について、拘束力の強い「閣議決定を目指す」としましたが、のちに対応を変えて9月17日に努力目標とする曖昧な扱いにしています。(閣議決定文書「今後のエネルギー・環境政策について」)国内での反発が強かったためでしょう。
最近は経済力の低迷で他国の日本への関心は減っていますが、それでも2010年に原発の発電量が世界第3位であった日本のエネルギー政策の転換は各国で関心を集めました。
米国の有力紙のワシントンポスト(WP紙)は、9月17日の社説で日本の脱原発政策について「日本の原発ゼロの夢」(Japan’s zero-nuclear dream)という社説を掲載しています。その考えに「夢」と否定的な見方を示しています。その翻訳を提供します。
3)GEPRはNPO法人の国際環境経済研究所(IEEI)と提携してコンテンツを共有しています。主席研究員の竹内純子さんのコラム「エネルギー、アジア連携の幻想」(上)(下)を紹介します。
韓国の電力料金の安さに注目し、それを理由にアジア諸国とのエネルギー連携を肯定的に受け止める意見があります。しかし韓国は税金を投入し、原発を利用して価格を抑制しています。また連携は、外国に「国家の血液」であるエネルギーの供給を依存することであり、非常に危険という主張です。
今週のリンク
1) 内閣府「今後のエネルギー・環境政策について」。「2030年代までに原発ゼロ」の内閣府・国家戦略室の示した「革新的エネルギー・環境戦略」という文章の位置付けを9月17日に決めました。この文章を努力目標としています。
2) 国全体の原子力の扱いを統括していた内閣府の原子力安全委員会が9月18日廃止されました。規制を担うのは新組織で、独立行政委員会となる原子力規制委員会です。同日発足しました。
委員長の田中氏が18日、記者会見をしています。産経新聞19日記事「「基準見直し時間かかる」「『40年』の延長は困難」 原子力規制委・田中委員長の一問一答」。
3)英国紙フィナンシャルタイムズ9月17日付社説「Noda’s nuclear phase-out is decisive – but not final」(野田首相の原子力発電廃止決定は果断だ。しかし最終結論ではない)。
今回の政策は果断ではあるものの、脱原子力は今後の政権交代、経済的な議論などによって、扱いが変わる可能性があると結論づけています。
4)日本エネルギー経済研究所小山堅主席研究員コラム「第3次アーミテージ報告にみる日米エネルギー問題」。
リチャード・アーミテージ(元国務副長官)、ジョセフ・ナイハーバード大学教授が、米国のシンクタンクCSISと共にまとめ8月に発表した、「第3次アーミテージ・ナイリポート」の解説です。
同リポートは原発の利用、福島事故の教訓の国際的共有、アメリカのシェールガスの販売などを提言しています。
小山氏は同リポートの結論「日本は決定的岐路にある」という主張に同意し、国力を落とさないエネルギーでの正しい選択を訴えています。

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