エネルギー政策の混迷をもたらしている地球温暖化対策(下)?「低炭素社会」追求への疑問
国際環境経済研究所(IEEI)版
(上)対策の一つ原子力の検証
(中)石炭、再エネは決め手ではない
今すぐ温暖化対策が必要なのだろうか?
はじめに述べたようにいま、ポスト京都議定書の地球温暖化対策についての国際協議が迷走している。その中で日本の国内世論は京都議定書の制定に積極的に関わった日本の責任として、何としてでも、今後のCO2 排出枠組み国際協議の場で積極的な役割を果たすべきだと訴える。
しかし例えば、欧州諸国の政治家が主張しているように、2050年までに地球温度上昇を2度以内に抑えるためには、先進国が現状の8割を、途上国でも3割のCO2排出量の削減が必要とされている。このような数値目標の達成は、これまでの議論から判るように、世界のエネルギー消費の構造を根本的に変えない限り、とうてい実現不可能である。
それでは、IPCC が主張するCO2排出削減の要請が実現できなくなると地球はどうなるのであろうか? この問題について、私は、IPCCの報告書は一つの参考意見として受け止めて、地球温暖化防止のためのCO2の排出量削減の数値目標を求める要請ではないと考えるべきと、考えている。
その理由の一つには、今世紀に入って、地球大気中のCO2 濃度の増加にもかかわらず、地球大気の温度上昇は過去15年ほど停滞を続けているとの報道がある。(「エコノミスト誌が報じた温暖化の停滞」(竹内純子、IEEI))これでは地球温暖化がCO2 に起因するとするIPCCの仮説自体が怪しくなる。太陽活動の変化から、地球が寒冷化に向かうとの説もある。少なくとも、いま、急いで地球温暖化防止を目的として何が何でもCO2排出を削減する必要はないと考えるべきであろう。
コストとの便益をもう一度考えよう
もう一つの理由は、もし、IPCCの主張の通りのCO2の排出に起因する温暖化、あるいはそれが原因とされる近年の異常気象が継続するとしても、これら温暖化や異常気象による地球の被害金額とCO2排出量との関係が判らない(科学技術による予測可能の範囲を超えている)から、この被害を防ぐためにどれだけお金をかけたらよいかが、実は判らない。
したがって、地球上のCO2の排出量削減に世界中の協力を得るためには、経済最優先で、現状のエネルギー供給の主役を担う化石燃料のなかの最も安価なものを、目的に応じて選択・使用する(例えば、発電用には石炭)なかでの徹底した省エネを推進する以外に方法がない。
この方法には、将来枯渇する化石燃料の国際価格が上昇した時には、例えば発電用の化石燃料(石炭)の代替として、この論考の(中)で述べたように、市場経済原理に従った「限界設備コスト」の概念を用いて、FIT制度の適用なしの(国民に経済的負担をかけることのない)再エネによる化石燃料の代替利用を図ることも含まれる。
なお、この化石燃料(石炭)の使用では、CO2の排出削減を目的としたCCS(燃焼排ガスからのCO2の分離、回収、貯留)技術を併用すべきとの意見もあるが、これでは、石炭利用での経済的メリットが失われ、世界中での協力を得ることが不可能となる。このような当分の間の経済優先での石炭利用を基軸とした省エネ・創エネの方法は、世界のエネルギー政策としても通用する唯一の方法であると考える。
この方法を世界に適用する場合の前提条件は、全ての国が、化石燃料消費の削減に協力することである。しかし、経済発展を続けなければならない途上国と、いままで、大量の化石燃料消費を続けてきた先進国では、その削減努力に差がつけられるべきであろう。
この努力目標の目安としては、各国の一人当たりのCO2 排出量(化石燃料消費にほぼ比例する)の値とその世界平均の値との違いが一つの目安となるであろう。すなわち、図に見られるように、多くの途上国は、この目標数値としての削減義務は免れる一方、世界第2の経済大国になった中国は、できれば数値として表れる削減努力が要請されることになるだろう。
一方、先進国のなかでは、フランスのCO2排出の努力目標は小さくなるが、これはCO2排出量削減に貢献する原子力を電力として多用しているためである。ただし、原発の所有国は、安全性に対するリスクとともに、核燃料廃棄物の処理・処分に関わる経済的な大きな負担を背負わなければならないことに留意が必要である。
気候変動は防止だけでなく順応を
このように、世界中が協力して努力をしても、地球の温暖化や異常気象を防ぐことができない場合、人類は、何とか、いまの気候変動に順応して生きて行く以外に選択の途がないと考えるべきである。
もともと、IPCC のCO2排出削減の要請は、産業革命以来、人類が野放図に進めてきた化石燃料の消費を抑制する意図から出たものであるとも考えられている。したがって、上記した、地球上の化石燃料消費の削減の方策を地道に探して行くのが、このIPCC の要請に応え得る唯一の方法と言ってもよい。
これが、私が訴える、「日本を守り、地球を守るための“低炭素社会へ”から“脱化石燃料社会へ”の変換 」(拙著「脱化石燃料社会-「低炭素社会へ」からの変換が日本を救い、地球を救う」(化学工業日報社)で主張した)であり、世界が共有できる地球上の全人類の生存のために必要な世界のエネルギー政策のあるべき姿である。
私は今、難航する国連気候変動枠組み交渉の場に、地球温暖化問題の解決に対して何の貢献ももたらさなかったCO2排出削減を目的とした京都議定書方式に代わって、日本が、この世界中が協力できる化石燃料消費削減の途を地道に探索する“脱化石燃料社会へ”の実践を、世界のエネルギー政策として提言していただければと強く願っている。
(2013年10月21日掲載)
関連記事
-
3月10日から久しぶりに米国ニューヨーク・ワシントンを訪れてきた。トランプ政権2.0が起動してから50日余りがたち、次々と繰り出される関税を含む極端な大統領令に沸く(翻弄される)米国の様子について、訪問先の企業関係者や政
-
2年半前に、我が国をはじめとして、世界の潮流でもあるかのようにメディアが喧伝する“脱炭素社会”がどのようなものか、以下の記事を掲載した。 脱炭素社会とはどういう社会、そしてESGは? 今回、エネルギー・農業・人口・経済・
-
米国はメディアも民主党と共和党で真っ二つだ。民主党はCNNを信頼してFOXニュースなどを否定するが、共和党は真逆で、CNNは最も信用できないメディアだとする。日本の報道はだいたいCNNなど民主党系メディアの垂れ流しが多い
-
有馬純 東京大学公共政策大学院教授 2月16日、外務省「気候変動に関する有識者会合」が河野外務大臣に「エネルギーに関する提言」を提出した。提言を一読し、多くの疑問を感じたのでそのいくつかを述べてみたい。 再エネは手段であ
-
菅首相が昨年末にCO2を2050年までにゼロにすると宣言して以来、日本政府は「脱炭素祭り」を続けている。中心にあるのは「グリーン成長戦略」で、「経済と環境の好循環」によってグリーン成長を実現する、としている(図1)。 そ
-
バズフィードとヤフーが、福島第一原発の処理水についてキャンペーンを始めたが、問題の記事は意味不明だ。ほとんどは既知の話のおさらいで、5ページにようやく経産省の小委員会のメンバーの話が出てくるが、海洋放出に反対する委員の話
-
6月20日のWSJに、こういう全面広告が出た。出稿したのはClimate Leadership Council。昨年の記事でも紹介した、マンキューやフェルドシュタインなどの創設した、炭素税を提唱するシンクタンクだが、注目
-
自民党の岸田文雄前首相が5月にインドネシアとマレーシアを訪問し、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の推進に向けた外交を展開する方針が報じられた。日本のCCUS(CO2回収・利用・貯留)、水素、アンモニアなどの
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















