こんなエネルギー報道で大丈夫か — 都知事選と世論調査【おやおやマスコミ】
(GEPR編集部)GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。エネルギーフォーラム3月号の記事を転載します。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。
(以下本文)
小泉・細川“原発愉快犯”のせいで東京都知事選は、世間の関心を高めた。マスコミにとって重要だったのはいかに公平に広く情報を提供するかだが、はっきりしたのは脱原発新聞の視野の狭さと思考の浅薄さ。都知事選だというのに脱原発に集中した。こんなマスコミで日本の将来は大丈夫かという不安が見えた。佐伯啓思・京大教授は1月27日付産経新聞朝刊のコラムで「原発問題争点にならず」と題して次のように書いた。
「問題の本質は原発・脱原発にあるのではない。将来の社会像にこそあるのではないだろうか。私も『脱』ではないが、『滅』原発である。それはわれわれは、エネルギーを最大限に使用して成長を求め、物的豊かさを求めるような生活から脱却すべきだと思うからである。東京の方がどう感じたか知らないが、あの大地震の後、時々上京した折、夜になれば暗くて静かな東京を見たとき、私はなにかほっとしたものだった」
「あの地震はエネルギーをふんだんに使い、経済を成長させ、金銭を膨らませ、そして富と幸福を追求するという戦後われわれが追い求めてきた生活を全面的に転換する契機だったのではなかろうか。もしも『脱原発』を訴える候補者が東京をもっと暗くし、物的な生活水準を落としてでも、脱成長あるいは脱近代化のモデル都市にするというなら、これは十二分に重要な争点となったであろう」
どの候補者にもマスコミにもこの視点はなかった。脱原発の東京新聞は1月15日付社説で「脱原発は大事な争点だ」と書いたが中味はない。1月23日付朝日新聞社説「脱原発の道筋語れ」も同様だった。暮らしの水準を下げても脱原発が大事だとは言わない。口先だけの脱原発。信念がないから腰が引けている。
「最も残念なのが、脱原発の候補者に、原発立地自治体への感謝の念が感じられないことだ。原発事故で苦しむ福島に対して、最も恩恵を受けた都がどんな貢献をするのかについてもほとんど触れていない」と21世紀政策研究所の澤昭裕研究主幹が2月1日付読売新聞朝刊で語っていたが、マスコミにもこの視点は乏しい。
原発を止めても停電しなかったと朝日新聞は書いたが、火力発電を増やしたからだ。そのせいでCO2の排出が増えた。都知事選で「原発ゼロ」を主張した候補者は、温暖化防止のためCO2の排出を減らそうという国際的視野を欠いていた。現在、多くの国が環境容量を超えて暮らしている。
カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学のウイリアム・リース教授によれば、日本は環境容量からみて7.2倍の定員オーバーになっている。人口の集中する東京でエネルギー問題を論じるならぜひ取り上げるべき課題だ。
脱原発の候補者は避けていた。マスコミもノータッチ。
朝日新聞は1月28日付朝刊1面で「現在停止中の原子力発電所の運転再開には賛成は31%で、反対の56%の方が多かった」と世論調査の結果を報じた。
4面に載った詳しいデータを見ると、「原子力発電を今後、どうしたらよいと思いますか」の問い(択一)に「ただちにゼロにする」15%、「近い将来ゼロにする」62%、「ゼロにはしない」19%だった。
「近い将来ゼロにする」は、当面の再稼働は認めていると解釈できる。それなら圧倒的多数が当面の再稼働賛成である。世論調査は質問の仕方によって逆の結論が出ることを示している。
(2014年3月24日掲載)

関連記事
-
2030年の最適な電源構成(エネルギーミックス)を決める議論が経産省で1月30日に始まった。委員らの意見は原子力の一定維持が必要で一致。さらに意見では、割合では原発15%論を述べる識者が多かった。しかし、この状況に筆者は奇妙さを感じる。
-
政策家の石川和男さんが主宰する霞が関政策総研のネット放送に、菅直人元首相が登場した。
-
地球温暖化の予測に用いられる気候モデルであるが、複雑な地球についてのモデルであるため、過去についてすらロクに再現できない。 地球平均の地表の気温については過去を再現しているが、これは、再現するようにパラメーターをチューニ
-
(上)より続く 受け入れられた遺伝子組み換え作物 イリノイ州の農家のダン・ケリーさん(68)の農場も訪れた。 よく手入れされた美しい農園だった。大学卒業後に会社務めをした後で、父親の農場を手伝いながら金を貯め、土地を自分
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)は、サイトを更新しました。
-
新たなエネルギー政策案が示す未来 昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会
-
ロシアによるドイツ国防軍傍受事件 3月2日の朝、ロシアの国営通信社RIAノーボスチが、ドイツ国防軍の会議を傍受したとして、5分間の録音を公開した。1人の中将と他3人の将校が、巡航ミサイル「タウルス」のウクライナでの展開に
-
今年も台風シーズンがやってきた。例年同様、被害が出る度に、「地球温暖化のせいで」台風が「激甚化」している、「頻発」している、といったニュースが流れるだろう。そこには毎度おなじみの“専門家”が登場し、「温暖化すれば台風が激
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間