東京大停電、58万戸に影響−東電負担のしわ寄せか?
停電の原因になった火災現場と東電の点検(同社ホームページより)
ケーブル火災の概要
東京電力の管内で10月12日の午後3時ごろ停電が発生した。東京都の豊島区、練馬区を中心に約58万6000戸が停電。また停電は、中央官庁の集まる港区霞ヶ関でも起こり、東京地裁、国土交通省などの一部が一時停電した。都内では約200カ所の信号が止まり、西武池袋線なども一時運休した。停電は約1時間後に復旧した。
大規模事故、人の被害などはなかったもようだ。しかし安全と常時供給が当たり前だった東京の電力インフラに、懸念を抱かせるものとなった。
東電によると、同社新座変電所(埼玉県)と都心をつなぐケーブルが走る同市内の地下トンネルで火災が発生した。発火の原因は分からないが、18本走るケーブルのうち1本から火が出て、燃え広がったという。
ケーブルは直径がおよそ15センチ。OFケーブルと呼ばれ、導体を絶縁油で浸した紙で包み込む構造。銅線の周囲に絶縁体として油特殊処理した紙を何重にも巻きつけ、漏電を防ぐ。絶縁体が損傷した場合に高圧の電流で出火する可能性があるとされる。紙か油かが劣化し、高圧電力による加熱で発火した可能性が高い。この施設のケーブルは35年前に敷設され、これまで目視で異常がないか、確認してきた。10月初旬の検査では異常は見つからなかったという。東京の、千代田区、港区は主要政府機関、企業が集まるため、東電も対応策を重ねてきた。停電はかなり珍しい。
東電の設備費用の急減
労働災害について、「ハインリッヒの法則」という言葉がある。労働現場では、「重傷」以上の災害が1件あったら、その背後には、29件の「軽傷」を伴う災害が起こり、300件もの危うく大惨事になる傷害のない災害が起きていたということが統計上確認されたという。幾千件もの「不安全行動」と「不安全状態」が存在しており、そのうち予防可能であるものは「労働災害全体の98%を占める」「不安全行動は不安全状態の約9倍の頻度で出現している」という。
この事故は1時間の停電で済んだ。東電も充分承知していると思うが、これが今後、重要な災害に結びつかないか懸念される。そして東電をめぐる政策の矛盾が、この停電に現れているように思う。
福島原発事故の後、東電は賠償、福島原発事故対策、そして電力自由化への対応が迫られた。もちろん、これは福島事故の結果で東電が責任を追うべきだ。だがそれが過剰な負担になっている。賠償は10月末時点でこれまで3兆1500億円を超え、7兆円前後まで膨らむ見通しだ。被災者の生活を守るためとはいえ、それが大きな負担になっている。そして原子力事故の放射能による健康被害はこれまでにない。
廃炉費用はこれまで2兆円、除染負担が2兆円。それがどこまで膨らむか未定だ。これらの対策はリスクゼロを求めるために、過剰な放射線暴徒対策が採られている。
電力自由化はコスト削減圧力にさらされる。そして新潟県では同社の柏崎刈羽原発の再稼動阻止を掲げた米山隆一氏が新知事として16日に当選した。再稼動の早期の実施は難しくなっている。
東電は今追加負担を国に要請している。一方で支出を抑制するために、電力網整備の対策費用を減らしている。2011年3月期の修繕費は4120億円だったが、12年同期は2788億円と急減。16年同期は3899億円まで戻したものの、以前ほどではない。東京電力ホールディングス幹部に今年9月に取材したとき、「コスト削減と安全性の両立は難しいが、何とか工夫で乗り切りたい」と、頼りないことを話していた。
電力新聞の10月12日の記事によれば、東電の地下ケーブルの総延長は8809キロメートル、そのうち事故を起こしたOFケーブルは716キロメートルにもおよぶ。こうした老朽化したケーブルの安全を維持できるのだろうか。2020年には東京オリンピックが予定され、さらに電力の負荷が増えるだろう。新潟、福島の原発を前提にして数十年作り続けてきた電力の送配電網も、原子力の先行きが不透明であるために、作り直せない。同紙によればこれまで北の新潟、福島から関東に流れ込んでいた流れていた電力潮流が、めまぐるしく変わるようになり、その調整で変電設備に負荷が加わっている。そのことが、今回の事故の一因の可能性があるという。
これは他電力にも同じことが言える。原子力の先行きが未定である上に、電力自由化に突入してしまった。緊急時対応、また送配電網のつくり直しについて、行政や新電力、消費者と一緒になった計画作りが必要だ。しかし、それはまったく手つかずだ。経産省・資源エネルギー庁のエネルギー政策の文章、審議会資料をを読んでも、そこは抜け落ち、後回しになっている。
今後の電力の安定供給に不安が残る。日本では、電力会社の力によって電力の安定供給という質の高いサービスを当たり前のように享受してきた。しかし、それはコスト負担と電力会社の努力の裏返しだった。東京電力へのバッシング、過剰な負担を社会と行政が放置した。それによる負の側面が現れ始めたのではないか、気がかりだ。

関連記事
-
都知事選では、原発を争点にすべきではないとの批判がある。まさにそうだ。都知事がエネルギー政策全体に責任を持てないし、立地自治体の首長でもないから、電力会社との安全協定上の意見も言えない。東電の株主だと言っても、原発は他の電力会社もやっている。
-
バイデン大統領は1.5℃を超える地球温暖化は「唯一最大の、人類の存亡に関わる、核戦争よりも重大な」危機であるという発言をしている。米誌ブライトバートが報じている。 同記事に出ている調査結果を見ると「人類存亡の危機」という
-
2018年4月8日正午ごろ、九州電力管内での太陽光発電の出力が電力需要の8割にまで達した。九州は全国でも大規模太陽光発電所、いわゆるメガソーラーの開発が最も盛んな地域の一つであり、必然的に送配電網に自然変動電源が与える影
-
2023年4月15日(土曜日)、ドイツで最後まで稼働していた3機の原発が停止される。 ドイツのレムケ環境大臣(ドイツ緑の党)はこの期にご丁寧にも福島県双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」を訪れ、「福島の人々の苦しみ
-
イギリスも日本と同様に2050年にCO2をゼロにすると言っている。それでいろいろなシナリオも発表されているけれども、現実的には出来る分けが無いのも、日本と同じだ。 けれども全く懲りることなく、シナリオが1つまた発表された
-
アゴラ編集部の記事で紹介されていたように、米国で共和党支持者を中心にウクライナでの戦争への支援に懐疑的な見方が広がっている。 これに関して、あまり日本で報道されていない2つの情報を紹介しよう。 まず、世論調査大手のピュー
-
情報の量がここまで増え、その伝達スピードも早まっているはずなのに、なぜか日本は周回遅れというか、情報が不足しているのではないかと思うことが時々ある。 たとえば、先日、リュッツェラートという村で褐炭の採掘に反対するためのデ
-
100 mSvの被ばくの相対リスク比が1.005というのは、他のリスクに比べてあまりにも低すぎるのではないか。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間