メガソーラー未稼働案件関する追加措置 〜再エネ主力電源小委の議論から〜

2019年12月10日 06:00
アバター画像
エネルギーコンサルタント

経済産業省で11月18日に再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会(以下単に「委員会」)が開催された。

同委員会では例によってポストFITの制度のあり方について幅広い論点が議論されたわけだが、今回は実務に大きな影響を与える論点として、長期未稼働案件(FITに関連する権利を保持したまま長期間稼働にまで至らない案件)について新たに追加的措置を講ずる方針が議論されたので、この点についてまとめたい。

Q1:これまで未稼働案件にはどのような対策が講じられてきたか?

まずは、これまでいわゆる未稼働案件問題に関して講じられてきた措置を振り返りたい。

長期未稼働案件の問題を整理すると、2012~2014年ごろに認定を受けた高い調達価格の案件が遅れて稼働することで、国民負担の増大やコストダウンの支障となりうること、また、たとえ稼働しない場合でも、有限の資源である系統枠を無為に占拠し続けることになる、といった問題がある。

したがって、こうした未稼働案件を減らすために、経済産業省は前回のFIT法改正(2017年4月)のタイミングで認定制度を設備認定から事業認定制に切り替え、それまでに接続契約を締結できなかった案件の権利を失効させることとした。また、併せて2016年8月以降に接続契約を締結した案件については3年間の運転開始期限を設けることとした。

さらに、2019年度には追加的措置がなされ、運転開始期限までに着工に至らなかった案件は調達価格を大幅に引き下げる措置が取られた。余談になるが、この措置により未稼働案件の権利が不安定になったため、メガソーラー市場は大型案件の新規開発は滞り、未稼働案件に係る権利取引はほとんどなくなった状態にある。その意味では経産省の狙いは半ば達成されている。

Q2:今回どのような場合を想定して経済産業省は追加的措置を課すのか?

前述の通り、これまでの措置により、過去の長期未稼働案件の追加的な開発は事実上封じられた状況にある。

他方で、こうして開発が停滞した案件も依然として系統枠を保持し続けているという問題がある。

現行の制度では、規制当局が一方的にFITに関する権利を失効させる手続きを取ることはかなり困難で、事業者が事業廃止手続きを取らない限り、未稼働案件に割り当てられた系統枠は解放されない。

概して長期未稼働案件は様々な主体が関係しており権利関係が複雑なため、いわゆる「損切り」が困難で、事実上プロジェクトが頓挫していても事業廃止の意志決定ができずに放置されることが多い。

現在、委員会で議論され始めたのはこうした事態に対応するための措置である。具体的には「運転開始期限を長期間超過しても事業廃止の届出を出さず放置している案件」に関して、機械的、強制的に権利を失効させる効果を持つ措置の在り方が検討されている。

Q3:現行制度における問題点はどのようなものか?

ここで現行制度における規定関係を確認したい。

FIT法の枠組みで固定価格買取制度に基づく事業を展開するには二つの契約が必要になる。

一つは「特定契約」で、これは端的に言えば、事業者が電力会社に再生可能エネルギー設備発の電気を固定価格で長期間買いとってもらうための契約である。

この契約に関してはFIT法において、電気事業者は同法に基づく認定を受けた事業者からの申し込みに原則として応じる義務があるとされている。

もう一つは「接続に係る契約」(一般的には「接続契約」)で、こちらは発電設備と電力系統を電気的に接続するための契約である。

こちらはFIT法ではなく電気事業法第17条第4項において、送配電事業者は“電気的磁気的に障害を与えるおそれがあるときその他正当な理由”がなければ事業者の求めに応じなければならないとする義務が課されている。

仮に送配電事業者が未稼働案件の接続契約を解除しようとしても、未稼働のプロジェクトが系統に“電気的磁気的に障害を与えるおそれ”などあるわけないので、上記規定の「その他正当な理由」にあたる必要がある。

しかしながら、この文言の解釈・運用は現在極めて制限的になされており、すでにFIT法に基づく認定が効力を失っている場合でなければ、送配電事業者は接続契約を解除できないことになっている。

そのため接続契約を締結したまま未稼働で放置されている案件でも、接続契約は解除できず、無為に接続枠が占拠されてしまう状態にならざるを得ない。

畢竟この状況を解決するためには「機械的、強制的にFIT法に基づく認定を失効する規定」を創設する必要がある。

Q4:欧州では未稼働案件にどのような対策が講じられているか?

こうした新制度を検討するにあたっては必ず諸外国の事例が参考にされるわけだが、多分に漏れず委員会では欧州各国(スペイン、ドイツ、イタリア、フランス)の制度事例が紹介された。

このうちスペイン、ドイツ、イタリアでは、運転開始期限内に稼働されなかった案件は市場プレミアム価格に係る権利を失効するものとされている。

他方、フランスの場合は買取期間を加速的(遅延した期間に2倍を乗じた期間)に短縮し、加えてプレミアム価格も徐々に引き下げていくとされている。

Q5:今後の未稼働案件に対する対策はどのようなものになるのか?

さて、では肝心の「今後長期未稼働案件対策としてどのような制度ができるか」という点についてだが、委員会では経済産業省から一定の方針が示された。具体的には

  • 一定期間を経過しても運転を開始しない場合には、①認定を失効させる、②調達期間を短縮させ、調達期間が終了したものは失効と同様に扱う、といった法制的な措置を講じるべきではないか
  • まずは今後の新規認定案件については、こうした措置を導入することとし、既に認定を受け、運転開始期限が設定されている未稼働案件についても、今後、こうした制度が開始された日を起算点として、未稼働の状態が一定期間継続するような場合には、新規認定と同様の対応を取るべきではないか。

というものである。この方針に対して委員からも特段異論が上がらなかった。

ここから考えると、どうやらわが国でも諸外国の制度をハイブリッドしたような制度ができそうということで、現在確実に言えることはそこまでである。

今回の措置は系統枠の開放という意味ではポジティブな意味合いを持つ措置ではあるが、他方であまり極端な措置を取ると今後の再エネプロジェクトの開発が難しくなるので、バランスの取れた措置となることを願いつつ続報を待つこととしたい。

This page as PDF

関連記事

  • 電力注意報が毎日出て、原発再稼動への関心が高まっている。きょう岸田首相は記者会見で再稼動に言及し、「(原子力規制委員会の)審査の迅速化を着実に実施していく」とのべたが、審査を迅速化する必要はない。安全審査と原子炉の運転は
  • 国際エネルギー機関の報告書「2050年実質ゼロ」が、世界的に大きく報道されている。 この報告書は11 月に英国グラスゴーで開催される国連気候会議(COP26 )に向けての段階的な戦略の一部になっている。 IEAの意図は今
  • エネルギー・環境問題の「バーチャルシンクタンク」であるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営するアゴラ研究所は、インターネット上の映像配信サービスのニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」を開設して、映像コンテンツを公開している。3月15日はエネルギー研究者の澤昭裕氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長との間で「電力改革、電力料金は下がるのか」という対談を行った。
  • 原発事故から3年半以上がたった今、福島には現在、不思議な「定常状態」が生じています。「もう全く気にしない、っていう方と、今さら『怖い』『わからない』と言い出せない、という方に2分されている印象ですね」。福島市の除染情報プラザで住民への情報発信に尽力されるスタッフからお聞きした話です。
  • 札幌医科大学教授(放射線防護学)の高田純博士は、福島復興のためび、その専門知識を提供し、計測や防護のために活動しています。その取り組みに、GEPRは深い敬意を持ちます。その高田教授に、福島の現状、また復興をめぐる取り組みを紹介いただきました。
  • 地球温暖化というと、猛暑になる!など、おどろおどろしい予測が出回っている。 だがその多くは、非現実的に高いCO2排出を前提としている。 この点は以前からも指摘されていたけれども、今般、米国のピールキーらが詳しく報告したの
  • 政府は、7月から9月までの3カ月間という長期にわたり、企業や家庭に大幅な節電を求める電力需要対策を決定しました。大飯原子力発電所3、4号機の再稼働が認められないがゆえに過酷な状況に追い込まれる関西電力では、2010年夏のピーク時に比べて15%もの節電を強いられることになります。電力使用制限令の発令は回避されたものの、関西地域の企業活動や市民生活、消費に大きなマイナス要因です。ただでさえ弱っている関西経済をさらに痛めつけることになりかねません。
  • 今年の7~8月、東京電力管内の予備率が3%ぎりぎりになる見通しで、政府は節電要請を出した。日本の発電設備は減り続けており、停電はこれから日常的になる。年配の人なら、停電になってロウソクで暮らした記憶があるだろう。あの昭和

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑