教条主義化したCOPの議論はSDGsの考え方に反する
17の国連持続可能目標(SDGs)のうち、エネルギーに関するものは7番目の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」である。
しかし、上記の資料は国連で採択されたSDGsの要約版のようなものであり、原文を見ると、SDG7は「手頃な価格で、信頼性があり、持続可能で近代的なエネルギーへのアクセスを全ての人に(Ensure access to affordable, reliable, sustainable and modern energy for all)」である。上記の要約版に比して「手頃な価格で」と「信頼性のある」が要件として加わっているのがわかるだろう。
https://sustainabledevelopment.un.org/sdg7
しかし、「手頃な価格で」、「信頼性があり」、「持続可能で」、「近代的な」、「全ての人に」の5つの要素を同時に達成することは容易ではない。環境派の人は途上国も含め、再エネを大幅に普及することを主張する。仮に太陽光、風力等の変動性再エネが、電力システムの安定化を確保するためのシステムコスト(バックアップ、送電網強化、蓄電池等)も含めて従来電源と補助金なしで競争できるようになれば、上記の5つの要素の同時達成が可能となるし、温暖化問題は解決することになろう。
しかし現時点では再エネによるエネルギーアクセスは「持続可能な」「近代的な」「全ての人に」は満たせても、「手頃な価格で」「信頼性があり」を満たせない。途上国にとって「手頃な価格で」は何よりも重要だ。「全ての人」の中には低所得層も含まれるのであり、エネルギーコストが上がってしまったのでは、エネルギーへのユニバーサルアクセスが難しくなる。事実、低開発国の中には電力が供給されていても、電気代を節約して教育に回すため、引き続き前近代的なバイオマスを使う貧困家庭が存在する。アジアの途上国は「手頃な価格で」「信頼性があり」「近代的な」「全ての人に」を重視し、国内石炭資源を活用してエネルギーアクセスを拡大してきたのはそれが理由だ。
COPの世界では、再エネと省エネ推進が声高に推奨される一方、石炭を筆頭に化石燃料バッシングが先鋭化している。しかし「途上国はコスト高であってもクリーンな再エネを使え」というのは先進国のエゴであり、SDG7の考え方に背反するものである。化石燃料を引き続き使っている途上国のエネルギー政策当局は無知蒙昧なのではなく、それだけの経済的理由があるのだ。
普通、そこまで突っ込んで見る人は余りいないだろうが、17のSDGの下には169項目のターゲット(達成基準)が掲げられている。SDG7の下で以下のターゲットが設定されている。
7.1:2030年までに手頃な価格で、信頼でき、近代的なエネルギーサービスへのユニバーサルアクセスを確保する。
7.2:2030年までにグローバルなエネルギーミックスにおける再エネのシェアを大幅に拡大する
7.3:2030年までに世界のエネルギー効率改善率を倍増させる
7.4A:2030年までに再エネ、エネルギー効率、高度でクリーンな化石燃料技術を含むクリーンなエネルギーの研究・技術に対するアクセスを改善し、エネルギーインフラ、クリーンエネルギー技術への投資を推進するための国際協力を強化する。
7.4B:2030年までに全ての途上国(特に低開発国、小島嶼国、内陸開発途上国)に対し、近代的で持続可能なエネルギーサービスを供給するため、それぞれの支援計画に応じて、インフラを拡大と技術の高度化を行う
SDG7のロゴマークが一見、太陽を思わせるものであるせいか(正確には電気の供給を表すものであろう)、SDG7は「再エネで全ての人にエネルギーアクセスを」と意味すると勘違いしている人もあろう。しかし上記のようにSDG7では再エネ、省エネのみならず、高度でクリーンな化石燃料技術がクリーンなエネルギーの中に含まれている。日本が輸出している高効率石炭火力も当然、その中に含まれる。SDGsは160か国を超える国々が侃々諤々の交渉を経て合意された。化石燃料の生産国や消費国の事情を考えれば、「化石燃料のクリーン利用」が含まれるのは当たり前の話であろう。
そうした経緯を無視して、COPでは化石燃料排除の議論ばかりが独り歩きし、OECD/DAC事務局は化石燃料関連のODA停止を提案し、欧州投資銀行は化石燃料関連の融資を全てとりやめるとしている。そうした動きに「悪乗り」し、グテーレス国連事務総長自身が「石炭中毒」などといって石炭排除のお先棒をかついでいる始末である。これは本欄で繰り返し指摘してきたように、SDG17のうち、SDG13(気候変動)だけを至高の目標とした原理主義であり、SDG7の中身を理解していない。グテーレス事務総長には「もう一度、SDG7を読まれてはいかがか」と申し上げたい。

関連記事
-
割高な太陽光発電等を買い取るために、日本の電気料金には「再生可能エネルギー賦課金」が上乗せされて徴収されている(図)。 この金額は年々増え続け、世帯あたりで年間1万円に達した注1)。 これでも結構大きいが、じつは、氷山の
-
公開質問状の背景 先週末の朝、私のところに標記の文書(小泉 進次郎氏への公開質問状)が舞い込んできた。発信者は、自民党自民党総合エネルギー戦略調査会会長代理で衆議院議員の山本 拓氏である。曰く、小泉環境大臣は9月17日、
-
GEPRフェロー 諸葛宗男 はじめに 本稿は原子力発電の国有化があり得るのかどうかを考える。国有化のメリットについては前報(2018.5.14付GEPR)で述べた。デメリットは国鉄や電電公社の経験で広く国民に知られている
-
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか」については分厚い本を通読する人は少ないと思うので、多少ネタバラシの感は拭えないが、敢えて内容紹介と論評を試みたい。1回では紹介しきれないので、複数回にわたることをお許
-
九州電力の川内原発が7月、原子力規正委員会の新規制基準に適合することが示された。ところがその後の再稼働の道筋がはっきりしない。法律上決められていない「地元同意」がなぜか稼働の条件になっているが、その同意の状態がはっきりしないためだ。
-
原発は「トイレのないマンション」とされてきました。使用済みの核燃料について放射能の点で無害化する方法が現時点ではないためです。この問題について「核燃料サイクル政策」で対応しようというのが、日本政府のこれまでの方針でした。ところが、福島第一原発事故の後で続く、エネルギーと原子力政策の見直しの中でこの政策も再検討が始まりました。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンク、GEPR はサイトを更新しました。
-
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授 山本 隆三 自然エネルギー財団の資料に「国家電網公司」のロゴが入っていた問題について、東京新聞は「ネット民から激しい攻撃にさらされている」として「これって「再生エネヘイト」では?
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間