プラスチックごみの「一括回収」に反対する

2020年07月19日 18:00
アバター画像
アゴラ研究所所長

政府はプラスチックごみの分別を強化するよう法改正する方針だ、と日本経済新聞が報じている。ごみの分別は自治体ごとに違い、多いところでは10種類以上に分別しているが、これを「プラスチック資源」として一括回収する方針だ。分別回収するのはペットボトルだけでなく、バケツや洗面器、キッチン用品などのあらゆるプラスチックを含む。

これは政府のプラスチック資源循環戦略で、2035年までにすべてのプラスチックを有効利用するという目標を掲げ、2030年までにプラごみを25%減らす計画の一環だが、何のためにプラごみを減らすのだろうか?

第一の理由は海洋プラスチック問題である。政府は「世界全体で年間数百万トンを超える陸上から海洋へのプラごみの流出があると推計され、このままでは2050年までに魚の重量を上回るプラスチックが海洋環境に流出することが予測される」というが、これは問題のすり替えだ。

Scienceより

Scienceより

海洋プラスチックの原因は不法投棄だが、Scienceの記事によると、図のように不法投棄のワーストワンは中国で、全世界の不法投棄(mismanaged)プラスチックの27%以上を占める(2010年)。日本は不法投棄が国内のごみの1%にも満たない優等生である。だから日本でプラスチックごみを分別しても海洋プラスチックごみは減らない

第二の理由は資源の有効利用だが、アゴラの記事でも書いたようにプラスチックごみの84%は(熱利用を含めて)リサイクルされており、経団連も示すように、日本の有効利用率は世界最高水準である。

経団連サイトより

経団連サイトより

第三に環境負荷である。日本のリサイクルのうち「熱・エネルギー回収」が57%を占めることについて「CO2を排出するのでリサイクルとは認めない」と環境団体はいうが、この大部分は発電などの燃料として使う。多くの自治体では、生ごみだけでは発電の温度が足りないため、重油を混ぜて燃やしている。プラスチックを減らすと重油が増えるので、CO2排出量は同じである

今はペットボトルもキャップを取ったりラベルをはがしたりしているが、それ以外の多種多様なプラスチックごみが出てくると、それを分別して粉末に分解してプラスチックを再成形するコストは、石油からつくるコストよりはるかに高く、エネルギー収支はマイナスになる。したがって環境負荷も増えるのだ。

産業廃棄物も自治体が引き取って燃やせばいい

こんな不合理な分別が続いているのは、1997年にできた容器包装リサイクル法で、消費者には分別、自治体には回収、事業者にはリサイクルと処理費用を負担する責任が規定されたためだ。

これは当時のごみ焼却炉がプラスチックを燃やす高温に耐えられなかったからだが、1999年のダイオキシン特別措置法で有害物質を分解できるように焼却温度が800℃以上に規制されたので、今のごみ焼却炉ではすべてのプラスチックが焼却でき、有害物質の心配もない。

だから家庭のごみは分別しないですべて燃やせるが、問題はプラごみの90%を占める産業廃棄物である。これは一般ごみのように自治体に出せないが、高温焼却炉はコストが高いので、不法投棄が後を絶たない。特に2018年から中国がプラごみの輸入を禁止したため、行き場をなくした産廃で処理場があふれた。

このため森下兼年氏も書いているように、環境省は2019年に自治体が産業廃棄物を受け入れるよう要請した。産業廃棄物を引き取るとき自治体が料金をとれば、高価な焼却炉のコストも一部は回収できる。

要するに日本のプラごみの99%は回収され、焼却炉の耐熱性能は世界最高なので、家庭のごみも産業廃棄物も自治体の焼却場で燃やせばいいのだ。こんな簡単な解決策が実現できないのは、環境団体が1990年代の技術を前提にして騒ぎ、ヨーロッパ各国がプラスチックを禁止した「世界の流れ」にマスコミが流されているからだ。

日本財団ウェブサイトより

日本財団ウェブサイトより

複雑な規制でプラごみのリサイクル業者や産廃業者などの利権も大きいので、彼らが環境団体と結託して「分解しないプラスチック」を分別回収するキャンペーンを続け、それに政治家が利用されている。マイボトルやマイバッグを持ち歩く小泉進次郎氏は「エコ政治家」の宣伝塔だ。

これは勘違いである。プラスチックの原料は石油だから、燃やせば100%分解するのだ。プラごみが海を汚染するのは分別して不法投棄するからで、分別をやめて産廃もすべて燃やせば、海洋プラスチック問題も解決する。信じられないかもしれないが、これが唯一で最善の解決策である。

This page as PDF

関連記事

  • この日経記事の「再生エネ証書」という呼び方は欺瞞です。 再生エネ証書、1キロワット時0.3円に値下げ 経産省 経済産業省は24日、企業が再生可能エネルギーによる電気を調達したと示す証書の最低価格を1キロワット時1.3円か
  • 福島第一原子力発電所の重大事故を契機に、原発の安全性への信頼は大きくゆらぎ、国内はおろか全世界に原発への不安が拡大しました。津波によって電源が失われ、原子炉の制御ができなくなったこと、そしてこれを国や事業者が前もって適切に対策をとっていなかったこと、そのため今後も同様の事故が発生するのではないかとの不安が広がったことが大きな原因です。
  • 電力注意報が毎日出て、原発再稼動への関心が高まっている。きょう岸田首相は記者会見で再稼動に言及し、「(原子力規制委員会の)審査の迅速化を着実に実施していく」とのべたが、審査を迅速化する必要はない。安全審査と原子炉の運転は
  • 我が国では、脱炭素政策の柱の一つとして2035年以降の車両の電動化が謳われ、メディアでは「日本はEV化に遅れている」などといった報道が行われている。 自動車大国である米国の現状はどうなっているのか? 米国の新排出抑制基準
  • 高校生がスウェーデンで感じたこと 今年の夏、全国の高校生13人がスウェーデンの〝核のごみ〟の最終処分に関わる地下坑道施設や研究所を視察した。約1週間の行程で私はアドバイザーとして同行した。 この視察の中で、高校生たちは様
  • 以前アゴラに寄稿した件を、上田令子議員が東京都議議会で一般質問してくれた(ノーカット動画はこちら)。 上田議員:来年度予算として2000億円もかけて、何トンCO2が減るのか、それで何度気温が下がるのか。なおIPCCによれ
  • 経済産業省は東電の原子力部門を分離して事実上の国営にする方向のようだが、これは順序が違う。柏崎刈羽原発を普通に動かせば、福島事故の賠償や廃炉のコストは十分まかなえるので、まず経産省が今までの「逃げ」の姿勢を改め、バックフ
  • 広島高裁の伊方3号機運転差止判決に対する違和感 去る12月13日、広島高等裁判所が愛媛県にある伊方原子力発電所3号機について「阿蘇山が噴火した場合の火砕流が原発に到達する可能性が小さいとは言えない」と指摘し、運転の停止を

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑