地球温暖化で豪雨は1ミリ増えたか?

2020年08月01日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

前回、環境白書の示すデータでは、豪雨が増えているとは言えない、述べたところ、いくつかコメントがあり、データや論文も寄せられた(心より感謝します)。

その中で、「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増える」という関係(クラウジウス・クラペイロン関係)があるので、地球温暖化で豪雨は増えるはず、という意見があった。

そう、理論的にはありうる。だが現実はどうかというと、地球温暖化の影響は、あったとしてもごく僅かである。なお以下は結論だけ述べるが、詳細については幾つかの論文を検討した研究ノートを公開しているので参考にされたい。

結論1. 短時間の豪雨については、原因の殆どは自然変動であるが、地球温暖化の寄与がごく一部ある

1時間降水量の年最大値についてはクラウジウス・クラペイロン関係が成立していることが、統計的に確認されている。

ただしその量は僅かである。クラウジウス・クラペイロン関係では1℃の気温上昇で6%の降水量増大になることが知られている。日本における地球温暖化による気温上昇が過去30年間で0.2℃程度だとすると、0.2×6倍で1.2%の降水量増大となる。

つまり、1時間に100mmの豪雨であれば、それが101.2mmになった、ということだ。

確かに地球温暖化の寄与はあるが、僅か1ミリしかない

もしも今40歳の大人が10歳の子供だった30年前に地球温暖化が止まっていたら、1ミリばかり雨量が少なくて済む、というだけのことだ。

なお、産業革命の前、つまり日本の江戸時代と比べればもっと増えたという報道があるが、「近年の地球温暖化の影響で」豪雨がどうなったかと言いたいなら、人間の一生に関係ある時間軸で話すべきであろう。

さて、上述の短時間の豪雨は、いわゆる「都市型ゲリラ豪雨」をもたらすような雨に相当する。

では、大規模水害をもたらすような、日降水量の多いまとまった豪雨についてはどうか。

結論2. 日降水量の多いまとまった豪雨については、原因は自然変動であり、地球温暖化の寄与は認められない。

「日降水量が100mm以上」いったまとまった雨についての統計分析では、増加傾向も無ければ、クラウジウス・クラペイロン関係も見出されていない。

だがもしもこの既往の分析が誤りで、クラウジウス・クラペイロン関係が成立するとなればどうか。先ほどと同様、30年間で0.2℃の地球温暖化があったとすると、6倍して1.2%の降水量増大となる。500mmの雨であれば506mmになるということである。仮にクラウジウス・クラペイロン関係が成立していても、たいした量ではない。

では、なぜ、クラウジウス・クラペイロン関係は1時間雨量だと成立するのに、1日雨量だと成立しないのか。この理由は、1日雨量は、梅雨前線や台風の活動、高気圧・低気圧の張り出しといった、いわゆる「総観気象」に支配されるからだと考えられている。この年々の変動は大きく、仮にクラウジウス・クラペイロン関係があったとしても、誤差のうちに埋もれてしまう。

例えば、西日本と沖縄県では、暑い年の方がむしろ豪雨が少ない。つまりクラウジウス・クラペイロン関係とは逆であることが統計的に観察された。これは、暑い夏は、太平洋高気圧が張り出していて、雨が降らないことに対応している。

さて寄せられたコメントの中には「地球温暖化は豪雨の一因である」「豪雨には地球温暖化の影響がある」という表現が正確だと言う指摘があった。だが、1ミリとか1%しかないものをこう表現するのは適切だろうか?

このような表現をしたことで、意図したことかどうかは知らないが、「地球温暖化が豪雨の原因だ」「豪雨は地球温暖化のせいだ」という報道があふれかえる結果を招いているのではないか。

今後は、政府資料もメディアも、これまでの観測に基づくと、「豪雨は温暖化のせいではない」とはっきり言うべきだろう。もしもどうしても「一部」と言いたいのなら、「温暖化は豪雨の原因のごく一部に過ぎない」とすべきだろう。

なお本稿に関連した更に詳しい議論については、筆者によるワーキングペーパーを参照されたい。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 11月23日、英国財務省は2017年秋期予算を発表したが、その中で再エネ、太陽光、原子力等の非化石予算を支援するために消費者、産業界が負担しているコストは年間90億ポンド(約1.36兆円)に拡大することが予想され、消費者
  • 新潟県知事選挙では、原発再稼動が最大の争点になっているが、原発の運転を許可する権限は知事にはない。こういう問題をNIMBY(Not In My Back Yard)と呼ぶ。公共的に必要な施設でも「うちの裏庭にはつくるな」
  • 「インフレ抑止法」成立の米国・脱炭素の現状 8月16日、米国のバイデン大統領は、政権の看板政策である気候変動対策を具体化する「インフレ抑止法」に署名し、同法は成立した。 この政策パッケージは、政権発足当初、気候変動対策に
  • 鈴木達治郎 猿田佐世 [編] 岩波ブックレット 岩波書店/520円(本体) 「なぜ日本は使いもしないプルトニウムをため続けるのか」。 米国のエネルギー政策、原子力関係者に話を聞くと、この質問を筆者らは頻繁に受けるという。
  • 新しい日銀総裁候補は、経済学者の中で「データを基に、論理的に考える」ことを特徴とする、と言う紹介記事を読んで、筆者はビックリした。なぜ、こんなことが学者の「特徴」になるのか? と。 筆者の専門である工学の世界では、データ
  • ESG投資について、経産省のサイトでは、『機関投資家を中心に、企業経営の持続可能性を評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして
  • CO2濃度が過去最高の420ppmに達し産業革命前(1850年ごろ)の280ppmの1.5倍に達した、というニュースが流れた: 世界のCO2濃度、産業革命前の1.5倍で過去最高に…世界気象機関「我々はいまだに間違った方向
  • 1992年にブラジルのリオデジャネイロで行われた「国連環境開発会議(地球サミット)」は世界各国の首脳が集まり、「環境と開発に関するリオ宣言」を採択。今回の「リオ+20」は、その20周年を期に、フォローアップを目的として国連が実施したもの。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑