大人はみんな嘘つきだから表向きは脱炭素しますと言う

2021年05月27日 07:00
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

菅首相が昨年11月の所信表明演説で2050年にCO2をゼロにする、脱炭素をする、と宣言して以来、日本中「脱炭素祭り」になってしまった。

菅総理 首相官邸HPより

日本の同調圧力というのはかくも強いものなのかと、ほとほと嫌になる。政府が首相に従うのは制度上仕方ないにしても、政治家も、メディアも、経済団体も、企業も、みな「脱炭素やりまーす!」と言っている。

ただしこれは表向き言っているだけだ。少し技術や経営のことを知っていれば、あと30年で脱炭素など出来っこないことはみなよく分かっている。筆者は様々な業界の人と議論する。たいてい内輪では顔を見合わせて出来る訳無いよと嗤っているが、外に出ると真剣な顔をして「脱炭素します」と言っている。(ただし筆者は彼らを責めるつもりは毛頭ない。みな生活がかかっているから仕方ない)。

帝国データバンクが昨年末から今年初めにかけて実施したアンケートがその実態を浮き彫りにしている。下図は全国の1万社以上を対象にした調査結果だ。企業の大半がカーボンニュートラルの「達成は困難」ないしは「達成できない」としている。

このアンケートは地域別にも実施されていて、北海道だとさらに「達成できない」「達成は困難」が多くなっている。

推測するに「達成可能」というのはオフィスの電気をゼロエミッション電源にすれば済むような企業だけであり、工場やトラックを抱えているような企業は達成できないのであろう。

このアンケートが発表されてから半年近くになるが、このようなナマの声は「脱炭素」プロパガンダにかき消されてしまったようだ。

さて政治家が聴くべきは、人々の本音と建て前のどちらだろうか?

地球温暖化のファクトフルネス

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • 丸川珠代環境相は、除染の基準が「年間1ミリシーベルト以下」となっている点について、「何の科学的根拠もなく時の環境相(=民主党の細野豪志氏)が決めた」と発言したことを批判され、撤回と謝罪をしました。しかし、この発言は大きく間違っていません。除染をめぐるタブーの存在は危険です。
  • 電力需給が逼迫している。各地の電力使用率は95%~99%という綱渡りになり、大手電力会社が新電力に卸し売りする日本卸電力取引所(JEPX)のシステム価格は、11日には200円/kWhを超えた。小売料金は20円/kWh前後
  • 福島では、未だに故郷を追われた16万人の人々が、不自由と不安のうちに出口の見えない避難生活を強いられている。首都圏では、毎週金曜日に官邸前で再稼働反対のデモが続けられている。そして、原子力規制庁が発足したが、規制委員会委員長は、委員会は再稼働の判断をしないと断言している。それはおかしいのではないか。
  • 欧米各国は、水素利用計画に熱心に取り組んでいる。例えばEUでは、2022年5月に欧州委員会が公表したREPowerEU計画において、2030年に水素の生産と輸入を各1000万トンとして、エネルギーのロシア依存を脱却すると
  • 「もんじゅ」以降まったく不透明なまま 2016年12月に原子力に関する関係閣僚会議で、高速原型炉「もんじゅ」の廃止が決定された。それ以来、日本の高速炉開発はきわめて不透明なまま今に至っている。 この関係閣僚会議の決定では
  • 「必要なエネルギーを安く、大量に、安全に使えるようにするにはどうすればよいのか」。エネルギー問題では、このような全体像を考える問いが必要だ。それなのに論点の一つにすぎない原発の是非にばかり関心が向く。そして原子力規制委員会は原発の安全を考える際に、考慮の対象の一つにすぎない活断層のみに注目する規制を進めている。部分ごとしか見ない、最近のエネルギー政策の議論の姿は適切なのだろうか。
  • 「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
  • 福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出することについて、マスコミがリスクを過大に宣伝して反対を煽っているが、冷静に考えてみれば、この海洋放出は実質無害であることが分かる。 例えば、中国産の海産物を例にとってみてみよう。

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑