河野太郎氏と石破茂氏は原子力をめぐって合意できるのか

高速増殖炉 もんじゅ
出典:Wikipedia
自民党総裁選挙で、石破茂氏が河野太郎氏を支援する方向になった。これで第1回投票で河野氏が過半数をとる見通しが強まったが、2人の間には原子力と核兵器をめぐる政策で大きな違いがある。この問題はややこしいので、超簡単に解説しておこう。
なぜ赤字の核燃料サイクルを動かすのか
河野氏については先週の記事で説明したが、原則として脱原発・核燃料サイクル廃止という主張だ。それに対して石破氏は、非核3原則の見直しを求める核武装論者である。両者が政策協定を結ぶと、どうなるのだろうか。
高速増殖炉(FBR)が頓挫した日本で、余剰プルトニウム46トンを消化することは至難の業である。当面はプルサーマルしかないが、毎年3基稼働するとしても年間に消費できるのは1トン程度。青森県六ヶ所村の再処理工場がフル稼働して毎年8トンのプルトニウムを生産すると、さらに余剰プルが増え、毎年数千億円の赤字が出る。
なぜそんなことをするのか。一つの理由は岸田文雄氏もいうように「使用済み燃料のプール貯蔵量が100%に近づく中、核燃料サイクルを止めると現実に動く原発すら動かすのが難しくなる」ということだ。
これについては2012年に民主党政権が失敗しており、再処理工場にある3000トンの使用ずみ核燃料の最終処分地についての答なしにサイクルを止めることはできない。
それは政治的には大問題だが、技術的には答が出ている。六ヶ所村でそのまま乾式貯蔵すればよいのだ。これは安全性にも問題はなく、残るのは福島の処理水のような地元合意だけだ。首相が決断して地元を説得すれば解決できる。
核燃料サイクルの目的は日米原子力協定
もう一つの理由が日米原子力協定である。日本は核拡散防止条約の加盟国の中で、核武装していないのにプルトニウムを保有する唯一の国だ。その利用目的は平和利用に限定され、余剰プルトニウムはもたないことになっているが、高速増殖炉(FBR)が挫折したため、それが消化できなくなった。
河野氏は外相の時代に日米原子力協定について「いろんな事を考えていかなければならない。使用目的のないプルトニウムは持たないというのが世界共通の原則だ」と見直しを示唆したが、結局何もしなかった。
日本から協定を破棄することはありえないが、「使用目的のないプルトニウムは持たない」という原則から考えると、核武装しない日本ではプルトニウムはゼロにするしかない。46トンのプルトニウムは原爆6000発分で、日本の核技術があれば1年で核弾頭はつくれるという。
このような核武装のオプションを残すことが、核燃料サイクルのもう一つの(隠れた)ねらいである。自民党にも「潜在的な抑止力としてもつべきだ」という支持者が少なくない。日米同盟が永遠に存続するとは保証できないからだ。
核兵器技術をもたない今の日本が、いくら大量にプルトニウムを保有しても抑止力にはならないが、これを潜在的な脅威とみなして国際管理すべきだという人々もいる。
この対立の中では石破氏が抑止力を重視し、河野氏は脅威を重視する立場に近いと思われるが、現実には核武装は政治的に不可能である。そのためには日米原子力協定を破棄し、核拡散防止条約から脱退する必要があるからだ。それは日米同盟を破棄して、日本がアメリカの核の傘から出ることを意味する。
石破氏も日本が核武装すべきだというわけではなく、むしろ非核3原則の「持ち込ませず」原則を廃止し、アメリカの戦略核兵器を日本に配備するオプションを主張している。河野氏も今すぐ核燃料サイクルをやめろといっているわけではないが、核燃料サイクルはエネルギー問題だけではなく、国防や日米同盟のあり方にかかわる重い問題なのである。

関連記事
-
本稿では、11月30日に開催されたOPEC総会での原油生産合意と12月10日に開催されたOPECと非OPEC産油国との会合での減産合意を受け、2017年の原油価格動向を考えてみたい。
-
5月25〜27日にドイツでG7気候・エネルギー大臣会合が開催される。これに先立ち、5月22日の日経新聞に「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り-「全廃」削除要求は1カ国-」との記事が掲載された。 議長国のドイツ
-
以前、世界全体で死亡数が劇的に減少した、という話を書いた。今回は、1つ具体的な例を見てみよう。 2022年で世界でよく報道された災害の一つに、バングラデシュでの洪水があった。 Sky Newは「専門家によると、気候変動が
-
合理性が判断基準 「あらゆる生態学的で環境的なプロジェクトは社会経済的プロジェクトでもある。……それゆえ万事は、社会経済的で環境的なプロジェクトの目的にかかっている」(ハーヴェイ、2014=2017:328)。「再エネ」
-
【SMR(小型モジュール原子炉)】 河野太郎「小型原子炉は割高でコスト的に見合わない。核のゴミも出てくるし、作って日本の何処に設置するのか。立地できる所は無い。これは【消えゆく産業が最後に足掻いている。そういう状況】」
-
東日本大震災とそれに伴う津波、そして福島原発事故を経験したこの国で、ゼロベースのエネルギー政策の見直しが始まった。日本が置かれたエネルギーをめぐる状況を踏まえ、これまでのエネルギー政策の長所や課題を正確に把握した上で、必要な見直しが大胆に行われることを期待する。
-
GEPRは日本のメディアとエネルギー環境をめぐる報道についても検証していきます。筆者の中村氏は読売新聞で、科学部長、論説委員でとして活躍したジャーナリストです。転載を許可いただいたことを、関係者の皆様には感謝を申し上げます。
-
トランプ大統領のパリ協定離脱演説 6月1日現地時間午後3時、トランプ大統領は米国の産業、経済、雇用に悪影響を与え、他国を有利にするものであるとの理由で、パリ協定から離脱する意向を正式に表明した。「再交渉を行い、フェアな取
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間