IPCC報告の論点62:縄文時代は欧州も暖かかった
シンクタンク「クリンテル」がIPCC報告書を批判的に精査した結果をまとめた論文を2023年4月に発表した。その中から、まだこの連載で取り上げていなかった論点を紹介しよう。
■
地域的に見れば、過去に今よりも温暖な時期があったという証拠は数多くある。この連載でも何回か述べてきたが、今回は欧州の森林限界について。
日本でも登山をすれば見ることが出来るが、ある高さまで行くと、そこより上では気温が低すぎて森林が無くなる。これを森林限界という。

森林限界の例。写真中央付近で亜高山帯林からハイマツ林に入れ替わっている。
Wikipediaより
日本でいう縄文時代のころ、森林限界の高さが現在よりずっと高かったことを示す研究は、北半球の至る所で数多く行われてきた。森林の痕跡が見つかるのだ。
- イタリアアルプスでは、8400年前から4000年前にかけて現在より400m高かった
- スイス中央アルプスでは9000年前から2500年前にかけて150-200m高かった
- ピレネー山脈では現在より400m高かった
- スカンジナビアでは9500年前から6500年前の間に600-700 m高かった
- カナダのブリティッシュコロンビアでは10600年前から7500年前には235メートル高かった
これらはいずれも、縄文時代において現在よりも気温が高かったことを示唆するものだ。
どの程度気温が高かったのかは単純ではないが、標準的な気温減率で考えると100mで0.65℃だから、200mなら1.3℃、400mなら2.6℃に相当する。
下記は中央スイスアルプスの模式図だ。氷河期が終わった後の10000年前から6000年には森林限界は高い位置にあり、その後徐々に高度を下げてきた。
縄文時代に暖かかったのは地球の傾きが今と違っていて北半球の夏の日射が多かったためだ(下図のObliquityは地球の傾き)。このときは氷河が後退していたが、その後寒くなると氷河は前進した(図中の棒グラフ。説明は省略)。その後1850年ごろまで続いた小氷期Little Ice Ageが終わると、氷河は後退を続けて、現代に至っている。この氷河の挙動も、縄文時代は暖かかったことを示唆している。
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉖:CO2だけで気温が決まっていた筈が無い
・IPCC報告の論点㉗:温暖化は海洋の振動で起きているのか
・IPCC報告の論点㉘:やはりモデル予測は熱すぎた
・IPCC報告の論点㉙:縄文時代の北極海に氷はあったのか
・IPCC報告の論点㉚:脱炭素で本当にCO2は一定になるのか
・IPCC報告の論点㉛:太陽活動変化が地球の気温に影響した
・IPCC報告の論点㉜:都市熱を取除くと地球温暖化は半分になる
・IPCC報告の論点㉝:CO2に温室効果があるのは本当です
・IPCC報告の論点㉞:海氷は本当に減っているのか
・IPCC報告の論点㉟:欧州の旱魃は自然変動の範囲内
・IPCC報告の論点㊱:自然吸収が増えてCO2濃度は上がらない
・IPCC報告の論点㊲:これは酷い。海面の自然変動を隠蔽
・IPCC報告の論点㊳:ハリケーンと台風は逆・激甚化
・IPCC報告の論点㊴:大雨はむしろ減っているのではないか
・IPCC報告の論点㊵:温暖化した地球の風景も悪くない
・IPCC報告の論点㊶:CO2濃度は昔はもっと高かった
・IPCC報告の論点㊷:メタンによる温暖化はもう飽和状態
・IPCC報告の論点㊸:CO2ゼロは不要。半減で温暖化は止まる
・IPCC報告の論点㊹:アメダスで温暖化影響など分からない
・IPCC報告の論点㊺:温暖化予測の捏造方法の解説
・IPCC報告の論点㊻:日本の大雨は増えているか検定
・IPCC報告の論点㊼:縄文時代には氷河が後退していた
・IPCC報告の論点㊽:環境影響は観測の統計を示すべきだ
・IPCC報告の論点㊾:要約にあった唯一のナマの観測の統計がこれ
・IPCC報告の論点㊿:この「山火事激増」の図は酷い
・IPCC報告の論点51:気候変動で食料生産が減っている?
・IPCC報告の論点52:生態系のナマの観測の統計を示すべきだ
・IPCC報告の論点53:気候変動で病気は増えるのか?
・IPCC報告の論点54:これは朗報 CO2でアフリカの森が拡大
・IPCC報告の論点55:予測における適応の扱いが不適切だ(前編)
・IPCC報告の論点56:予測における排出量が多すぎる(後編)
・IPCC報告の論点57:縄文時代はロシア沿海州も温暖だった
・IPCC報告の論点58:観測の統計ではサンゴ礁は復活している
・IPCC報告の論点60:グレートバリアリーフは更に拡大中
・IPCC報告の論点61:積雪面積は減っていない
■
『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』のチャンネル登録をお願いします。

関連記事
-
札幌医科大学教授(放射線防護学)の高田純博士は、福島復興のためび、その専門知識を提供し、計測や防護のために活動しています。その取り組みに、GEPRは深い敬意を持ちます。その高田教授に、福島の現状、また復興をめぐる取り組みを紹介いただきました。
-
いまや科学者たちは、自分たちの研究が社会運動家のお気に召すよう、圧力を受けている。 Rasmussen氏が調査した(論文、紹介記事)。 方法はシンプルだ。1990年から2020年の間に全米科学財団(NSF)の研究賞を受賞
-
難破寸前政権 大丈夫かあ? 政権発足前夜、早くもボロのオンパレード・・・ 自民党総裁就任から、石破の言動への評価は日をおうごとに厳しさを増している。 思いつき、認識不足、豹変、言行不一致、有限不実行、はては女性蔑視——昭
-
第6次エネルギー基本計画の検討が始まった。本来は夏に電源構成の数字を積み上げ、それをもとにして11月のCOP26で実現可能なCO2削減目標を出す予定だったが、気候変動サミットで菅首相が「2030年46%削減」を約束してし
-
新年ドイツの風物詩 ドイツでは、色とりどりの花火で明るく染まる夜空が新年の風物詩だ。日本のような除夜の鐘の静寂さとは無縁。あっちでドカン、こっちでシュルシュルの “往く年、来る年”だ。 零時の時報と共にロケット花火を打ち
-
私は、ビル・ゲイツ氏の『探求』に対する思慮深い書評に深く感謝します。彼は、「輸送燃料の未来とは?」という、中心となる問題点を示しています。1970年代のエネルギー危機の余波で、石油とその他のエネルギー源との間がはっきりと区別されるようになりました。
-
国境調整炭素税を提唱したフォンデアライエン次期欧州委員長 先般、次期欧州委員長に選出されたフォンデアライエン氏は今後5年間の政策パッケージ案において6つの柱(欧州グリーンディール、人々のために機能する経済、デジタル時代へ
-
欧米エネルギー政策の大転換 ウクライナでの戦争は、自国の化石燃料産業を潰してきた先進国が招いたものだ。ロシアのガスへのEUの依存度があまりにも高くなったため、プーチンは「EUは本気で経済制裁は出来ない」と読んで戦端を開い
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間