「人類が経験したことのない暑さ」の原因は気候変動なのか

Tr6/iStock
昨年の地球の平均気温は、観測史上最高だった。これについて「その原因は気候変動だ」という話がマスコミには多い。
気候変動の話をすると、「地球の歴史からするとこの程度は昔もあった」というコメントがつくのだが、現生人類も文明も農業も始まっていない頃と比較しても意味がないだろう。今の、そしてこれから経験する気温は、人類と文明が経験したことのない暑さだ。pic.twitter.com/Jriq7emhUT
— Kenji Shiraishi (@Knjshiraishi) March 8, 2024
これはホッケースティック曲線と呼ばれ、最近の気温上昇が異常に急速なことを示す。IPCCの第6次評価報告書にも登場した。これが本当だとすると、今は過去2万年間なかった急速な温暖化が進行中だということになるが、本当だろうか。
ヒートアイランド現象が混入している
ホッケースティック曲線の元の年輪データはノイズが多く、このデータはそこから極端なデータを選んだ疑いがある。北半球の気温が高いことは事実だが、これは都市の建物や道路の照り返しなどによるヒートアイランド現象(UHI)を含む(図1)。
図1 ヒートアイランド現象(気象庁)
都市部の観測点の気温はUHIの影響を受けているが、平均気温を算出するとき「均質化補正」されているので集計データには影響がないというのがIPCCの見解だ。
しかし気温は都市部の観測点と、農村などUHIの影響のない観測点を平均して補正するので、都市の多い国では平均気温が高く出る傾向が強い。図2のように気象衛星による北半球(NH)の7月の気温は南半球(SH)の1月より5℃ぐらい高い。
図2 1961~1990年の北半球と南半球の年間気温(GMST)
温暖化が北半球に片寄って起こることはありえないので、これは都市化の影響(UHI)が気象衛星の観測データに現れていることを示す。逆にいうと南半球の気温が本当の平均気温に近いので、温暖化は地球全体の平均(GLO)よりかなり小さい可能性がある。
異常気象は増えていない
もっと問題なのは、温暖化の影響で異常気象が増えているというIPCCの主張が実測データで裏づけられないことだ。IPCCは異常気象が増えていると定性的に述べているが、奇妙なことに数字も図も出していない。
そこでアメリカ政府の熱波についての統計を示すと、次のようになっている。ウォレス=ウェルズのいうような大きな熱波は数年に1度は来るが、その頻度は(1930年代を除いて)変わらない。最近とくに増えたわけでもない。
図3 アメリカの熱波の頻度(アメリカ環境省)
サイクロン(熱帯低気圧)やハリケーンの頻度も、図4のようにほとんど変わらない 。これらの傾向は、ホッケースティック曲線とは対照的である。1900年ごろから急速に気温が上がっているのに、1970年以降も異常気象はほとんど増えていない。
図4 熱帯のサイクロンの頻度(Burn & Palmer)
この矛盾の説明として考えられるのは、ホッケースティック曲線は正しいが異常気象の頻度が低すぎるのか、その逆かである。図3はアメリカ政府の統計、図4は各国政府の統計を集計した数字で、権威ある科学誌Nature Science Reportに掲載されたものだ。
ここから考えると、過去100年間の気温上昇の原因は気候変動だけではなく、UHIのような都市のノイズが含まれているのではないか。あるいは意図的に急勾配のデータを選んでホッケースティック曲線がつくられたという疑惑もある。

関連記事
-
2025年5月15日、ロイター通信は「中国製インバーター(太陽光発電の電気を送電系統に接続する装置)から、製品仕様書に記載されていない通信機器が発見された。遠隔操作によってインバーターを停止させ、送電を遮断することも可能
-
この頃、10年も前にドイツで見た映画をよく思い出す。『In Time』(邦題『TIME/タイム』)。冒頭に荒れ果てた街の絶望的なシーン。人々はみすぼらしく、工場では産業革命時代のままのような錆び付いた機械がどうにかこうに
-
世の中には「電力自由化」がいいことだと思っている人がいるようだ。企業の規制をなくす自由化は、一般論としては望ましいが、民主党政権のもとで経産省がやった電力自由化は最悪の部類に入る。自由化の最大の目的は電気代を下げることだ
-
きのうの言論アリーナは民進党の高井崇志議員に話を聞いたが、後半はやや専門的な話なので、ちょっと補足しておきたい。核拡散防止条約(NPT)では非核保有国のプルトニウム保有を禁じているが、日本は平和利用に限定することを条件に
-
過去10年のエネルギー政策においては、京都議定書のエネルギー起源CO2排出削減の約束水準が大前提の数量制約として君臨してきたと言える。当該約束水準の下では、エネルギー政策の選択肢は「負担の大きい省エネ・新エネ」か「リスクのある原子力発電」か「海外排出権購入」かという3択であった。
-
先進国では、気候変動対策の一つとして運輸部門の脱炭素化が叫ばれ、自動車業界を中心として様々な取り組みが行われている。我が国でも2020年10月、「2050年カーボンニュートラル」宣言の中で、2035年以降の新車販売は電気
-
テスラが新車を発表し、電気自動車(EV)が関心を集めている。フランスのマクロン大統領は「2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を停止する」という目標を発表した。つまり自動車はEVとハイブリッド車に限るということだが
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間