「脱石炭」の幻想を脱するときが来た:石炭火力は今も使える選択肢

2025年03月26日 06:40

Indigo Division/iStock

アメリカは現実路線で石炭火力シフト、日本は脳天気に再エネ重視

アメリカの研究機関、IER(エネルギー調査研究所)の記事「石炭はエネルギー需要を満たすには重要である」によると、「ドイツでは5兆ドル(750兆円)を費やし、電力の価格を2~3倍にし、電力生産量を15年前に比べて20%も低下させた」としています。

米エネルギー省のクリス・ライト国務長官は

アメリカはそんな道を進むつもりはない、手頃な価格で信頼性が高く、安全なエネルギーを手に入れ、産業空洞化ではなく、再工業化を望んでいる。さらに、資本コスト(建設にかかわる費用)の大部分が償還し終わった石炭火力発電所を稼動させ続けることで、新たに発電所を建設するコストをかけずに安定した電力を得ることができる。また、アメリカは採掘可能な石炭の埋蔵量では世界で1位、石炭の輸出量では世界4位だ。

と発言しました。

以下、アメリカにおける主な石炭火力発電所の廃止の延期データです

  • デューク・エナジー:2035年までに全ての石炭火力を廃止する計画を2038年まで延期。
  • コロンビア・エネルギー・センター:2024年末の廃止予定を2029年まで延期
  • ジョージア・パワー:2028年閉鎖の予定を最大2038年まで稼動させ続ける
  • アトランタのボーエン石炭火力:閉鎖日は未定とした
  • アラバマ州のガストン石炭火力発電所:2028年閉鎖予定から2034年まで延期

その他、スケジュールは定まっていないものの。廃止の延期を検討している石炭火力発電所は4個所以上あります。

まったく、うらやましい限りの理想的な政策ですが、日本はどうかというと図1に示す「第7次エネルギー基本計画」において、2040年度の目標として、太陽光などの再生可能エネルギーを今の22%から40~50%に増加させる。火力発電は今の69%から30~40%に減少させる。さらに火力発電の半分以上でアンモニア混焼などのCO2抑制策をとるなど、相変わらず脳天気なこと言っています。

図1 日本の電源構成比率の目標 (第7次エネルギー基本計画)

聞こえてくるニュースといえば、電力供給に必要があって石炭火力の廃止を延期しているのに環境大臣がイヤミを言うという内容。

富山新港火力発電所石炭1号機 廃止延期 環境相“大変遺憾”

日本はドイツの失敗をひたすら追いかけていることに、まだ気がついていないようです。

火力発電の燃料はLNGにたよりすぎ?

図2は2018年の全発電量に占める燃料種別の割合です。LNGが39%にもなっています。ついで石炭30%、水力9%となっています。

確かに、LNGは発電電力量あたりのCO2の排出量が少ないとか、単価もそこそこ安いと言われています。だからといって、LNGのみに偏重してしまっていいものでしょうか?

図2 2018年の全発電量に占める燃料種別の割合

LNGの問題点

LNGの輸入先第3位にロシアがシェア10%を占めています。サハリンⅡの採掘開始で日本までの距離が近くて輸送コストが安いLNGが手に入るようになったからです。図3を見ていただくと、日本までの距離がイメージできると思います。

図3 サハリンⅡの開発地域と日本へのパイプライン構想

一般的に天然ガスは、3,000km未満はパイプラインで気体の状態での輸送が有利、3000kmを超えると、液化してLNGとして船で運ぶことが有利とされています。日本は島国なので、パイプラインでの輸送は不可能です。サハリンⅡも液化して船舶で輸送していますが、それでも輸送距離が短い分、東南アジアやオーストラリアからLNGを輸送するよりは安いです。

さらに、かつてはサハリンから北海道まで海底をパイプラインで結び、さらに安価に輸入する構想もありました。しかし、ロシアとの関係が悪化したことで中断しています。日本では、JERA、九州電力、東北電力、東京ガス、東邦ガスなどがサハリンⅡのLNGを輸入しています。今後も安価なLNGを求めて輸入する会社は増えていくと思います。

最後に、LNGの長期貯蔵という面から見てみます。正直、日本はLNGを長期貯蔵する体制は整っていません。石油は国家および民間で250日分は備蓄しています。しかし、LNGは電力会社、ガス会社、石油元売会社などのタンクしかありません。当然これらのタンクは備蓄目的で作られてはいません。LNGを輸入→気化→消費、という流れです。

LNGは極低温で液体の状態になりますから、冷却をしていないと、自然入熱などでも気化していきます。基本は消費するためのLNG基地なのです。そのためLNG基地で確保している量は、おおよそ2週間分といわれています。

総輸入量に占めるロシアの比率が10%であっても、その10%が止まってしまうことの影響は、石油や石炭よりもはるかに大きく、すぐに顕在化されます。また、ロシアからの輸入が止まってしまった分を他から調達しようとすると、LNGにもスポット取引はあります。

しかし、石油よりも流通量が数なく、スポット市場で調達しても、2~3ヶ月かかるといわれています。LNGといってもよいことばかりではありません。

石炭火力の比率を上げることで安定安価な電力供給を

石炭も国家による備蓄は行われておりませんが、それでも30日分の備蓄があります。さらに、石炭はスポット取引も活発に行われており、LNGの輸入がなんらかの理由で減少したときは石炭と石油の備蓄分でバックアップ、その後スポットで買っくることが最もスムーズなリカバリーだと思います。

安価な電力供給には原子力発電は最も効果的なのですが、東電福島第一、第二が廃炉になるなど、既設の原子力発電所を全部運転しても総発電量に占める割合は20%くらいだと思われます。残りの分は、火力発電所で供給することになりますが、LNG燃料に偏りすぎることなく、石炭火力も活用することで安価で安定した電力供給が実現できると思います。

This page as PDF

関連記事

  • G7伊勢志摩サミットに合わせて、日本の石炭推進の状況を世に知らしめるべく、「コールジャパン」キャンペーンを私たちは始動することにした。日出る国日本を「コール」な国から真に「クール」な国へと変えることが、コールジャパンの目的だ。
  • 7月22日、インドのゴアでG20エネルギー移行大臣会合が開催されたが、脱炭素社会の実現に向けた化石燃料の低減等に関し、合意が得られずに閉幕した。2022年にインドネシアのバリ島で開催された大臣会合においても共同声明の採択
  • 「脱炭素社会の未来像 カギを握る”水素エネルギー”」と題されたシンポジウムが開かれた。この様子をNHKが放送したので、議論の様子の概略をつかむことができた。実際は2時間以上開かれたようだが、放送で
  • イギリスも日本と同様に2050年にCO2をゼロにすると言っている。それでいろいろなシナリオも発表されているけれども、現実的には出来る分けが無いのも、日本と同じだ。 けれども全く懲りることなく、シナリオが1つまた発表された
  • 高速炉、特にもんじゅの必要性、冷却材の選択及び安全性についてGEPRの上で議論が行われている。この中、高速炉の必要性については認めながらも、ナトリウム冷却高速炉に疑問を投げかけ、異なるタイプで再スタートすべきであるとの主張がなされている。
  • 田中 雄三 国際エネルギー機関(IEA)が公表した、世界のCO2排出量を実質ゼロとするIEAロードマップ(以下IEA-NZEと略)は高い関心を集めています。しかし、必要なのは世界のロードマップではなく、日本のロードマップ
  • 筆者は「2023年はESGや脱炭素の終わりの始まり」と考えていますが、日本政府や産業界は逆の方向に走っています。このままでは2030年や2040年の世代が振り返った際に、2023年はグリーンウォッシュ元年だったと呼ばれる
  • 世界最大のLNG輸出国になった米国 米国のエネルギー情報局(EIA)によると、2023年に米国のLNG輸出は年間平均で22年比12%増の、日量119億立方フィート(11.9Bcf/d)に上り、カタール、豪州を抜いて世界一

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑