今更ですが、CO2は地球温暖化の原因ですか?

2025年04月27日 06:40
アバター画像
東京農工大学名誉教授

Sansert Sangsakawrat/iStock

地球温暖化の原因は大気中のCO2の増加であるといわれている。CO2が地表から放射される赤外線を吸収すると、赤外線のエネルギーがCO2の振動エネルギーに変換され、大気のエネルギーが増えるので、大気の温度は上がるといわれている。

しかし、これは本当に正しいのだろうか。物理化学の基礎知識を使って、もう一度、原点にもどって考えてみよう※)

気体の温度は固体の温度とは違うのか? 

固体の温度は、それらを構成する分子や原子などの粒子間の熱振動(振動エネルギー)の大きさを反映する。固体に温度計を接触させて、粒子間の振動エネルギーの大きさから温度を測ることができる。また、固体からは振動エネルギーの量に応じて赤外線が放射されるので、非接触型温度計で赤外線の量を測定して、温度を測ることもできる。

一方、気体の温度は、気体を構成する分子や原子などの粒子が空間を移動するエネルギー(並進エネルギー)を反映する。気体の中に温度計を入れて、温度計に衝突する粒子の並進エネルギーの大きさから温度を測ることができる。しかし、気体は赤外線をほとんど放射しないので、固体と異なり、非接触型温度計で温度を測ることはできない。

大気分子の並進エネルギーの大きさは何で決められるのか? 

大気分子(N2、O2など)は常に地表との衝突を繰り返し、熱平衡状態になっている。昼間には、大気分子は大気よりも温度の高い地表からエネルギーを受け取り、並進エネルギーが増えて大気の温度は上がり、夜間には、大気分子は大気よりも温度の低い地表へ並進エネルギーを渡し、並進エネルギーが減って大気の温度は下がる。

大気分子の並進エネルギーは地表の温度で決められ、大気と地表とのエネルギーバランスのおかげで、昼間はそれほど暑くはなく、夜間はそれほど寒くはない。もしも大気がなければ、月の表面のように、昼間には110 ℃の高温になり、夜間には-170 ℃の低温になってしまう。

大気は地球を包む布団や温室のような役割を果たす。なお、石炭や石油などの化石燃料を燃焼した場合には、昼間でも夜間でも、大気分子は放出される熱エネルギーを受け取って、並進エネルギーが増えて大気の温度は上がる。

CO2の振動エネルギーは大気の温度を上げるのか? 

大気に含まれるCO2が赤外線を吸収して、CO2の振動エネルギーが増えたとしよう。しかし、固体の粒子間の振動エネルギーと異なり、気体分子の振動エネルギーは分子内のエネルギーであって並進エネルギーではないので、温度には反映されない。

赤外線の吸収によって大気の温度が上がると考えるためには、分子間の衝突によって、わずか0.04%のCO2の振動エネルギーが、その2500倍ものすべての大気分子の並進エネルギーに変換される必要があるが、これはほとんど不可能である。

逆に、大気分子の並進エネルギーは赤外線を吸収しないCO2の振動エネルギーに変換される※)。この場合には、大気分子の並進エネルギーが減るので大気の温度は下がる。なお、赤外線を吸収したCO2が赤外線を再放射すると、大気分子の並進エネルギーは変わらないので、大気の温度は変わらない。

大気中のどのくらいのCO2が赤外線を吸収しないのか? 

CO2の赤外線吸収のスペクトルのシグナル強度は、光源の赤外線の量と試料の長さに依存する。実験室では大量の赤外線を放射する光源を用いるので、10cmの長さの試料でもスペクトルを観測できる。

一方、地表から10cmの位置で地表から放射される赤外線を光源として用いると、赤外線の量が少なすぎてほとんどのCO2は赤外線を吸収しないので、スペクトルを観測できない。

もしも大気の上空(100km)から地表を観測すれば、試料の長さがとても長くなるので、ほとんどのCO2が赤外線を吸収しなくても、スペクトルを観測できる。つまり、大気に含まれるほとんどのCO2は赤外線を吸収せずに、大気分子の並進エネルギーを受け取る役割を果たす。

赤外線を吸収してスペクトルで観測されるわずかなCO2ではなく、赤外線を吸収しないほとんどのCO2に着目すれば、CO2が本当に地球温暖化の原因であるかどうかがわかる。

※)中田宗隆「分子科学者がやさしく解説する地球温暖化Q&A 181-熱・温度の正体から解き明かす」丸善出版(2024)。

This page as PDF

関連記事

  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回は人間の健康への気候変動の影響。 ナマの観測の統計として図示されていたのはこの図Box 7.2.1だけで、(気候に関連する)全要因、デング熱
  • (前回:COP29の結果と課題①) 新資金目標に対する途上国の強い不満 ここでは2035年において「少なくとも1.3兆ドル」(パラグラフ7)と「少なくとも3000億ドル」(パラグラフ8)という2つの金額が示されている。
  • 気候変動を気にしているのはエリートだけだ――英国のアンケート結果を紹介しよう。 調査した会社はIpsos MORIである。 問いは、「英国で今もっとも大事なことは何か?」というもの。コロナ、経済、Brexit、医療に続い
  • 気候研究者 木本 協司 地球温暖化は、たいていは「産業革命前」からの気温上昇を議論の対象にするのですが、じつはこのころは「小氷河期」にあたり、自然変動によって地球は寒かったという証拠がいくつもあります。また、長雨などの異
  • 最新鋭の「第3世代原子炉」が、中国で相次いで世界初の送電に成功した。中国核工業集団(CNNC)は、浙江省三門原発で稼働した米ウェスチングハウス(WH)社のAP1000(125万kW)が送電網に接続したと発表した。他方、広
  • 米国のクリス・ライト・エネルギー長官が、欧州連合(EU)の2050年ネットゼロ政策(CO2排出実質ゼロ政策)を強く批判した。英フィナンシャル・タイムズによれば、ライト長官は「ネットゼロ政策は、米欧間で進行している関税や投
  • 12月12日、COP21はパリ協定を採択して参加者総立ちの拍手の下で閉幕した。パリ協定は京都議定書以来、初めての法的枠組みとして温暖化交渉の歴史上、画期的な位置づけを有している。本稿ではパリ協定の概要を紹介すると共に、その評価について論じたい。
  • 2025年5月2日、ゴールデンウィークの最中、秋田市内の風力発電所でブレード(羽根)が折れ、一部が落下して近くを歩いていた男性に直撃し、死亡するという痛ましい事故が発生した。これを受け、他の風力事業者は自社設備に問題がな

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑