イベリア半島大停電を読み解く:分散型電源時代の落とし穴

2025年05月12日 06:50

Jose Gonzalez Buenaposada/iStock

1. イベリア半島停電の概要

2025年4月28日12:30すぎ(スペイン時間)イベリア半島にある、スペインとポルトガルが広域停電になりました。公表された資料や、需給のデータから一部想定も含めて分析してみたいと思います。データはENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)が公開しているデータを用います。

図1は、停電が発生する1週間前、4月21日におけるスペインの各発電源ごとの発電量、総需要、連系線を通じた融通電力量を示しています。日本と同様に、日中は太陽光発電による発電量が大きく、おおよそ9:00~18:45の時間帯では、総発電量が黒の実線で示した総需要を上回っています。この時間帯は、黒の点線で示した外国との連系線の電力量(融通差引)がマイナスとなっており、余剰電力を海外に輸出していることを意味します。

ここでの「融通差引」とは、複数ある連系線を通じた電力の輸出入の合計値を指します。スペインは、ポルトガル、フランス、モロッコとそれぞれ複数の送電線で連系しており、そのすべての送電線における電力量を合計したものです。

図1 停電発生の1週間前のスペイン各発電量(2025年4月21日)

図2は、ヨーロッパにおける国際間の主な連系系統の概要を示したものです。地形の制約により、スペインおよびポルトガルは、ヨーロッパ大陸の主要な電力系統とはフランスを介してのみ連系しています。連系線は複数本存在しますが、フランス〜ドイツ間のように複数のループ構成にはなっていません。

また、ポルトガル〜スペイン間も複数の連系線で接続されていますが、全体の構成は図2のとおりです。なお、スペインはモロッコとも連系していますが、その容量が小さいため、図では省略しています。

図2 停電発生の1週間前のスペイン各発電量(2025年4月21日)

2. 停電事故発生当日の発電量のグラフから

図3は、停電事故が発生した当日とその翌日におけるスペインの総発電量、総需要、および連系線の融通差引を示したグラフです。

図3 停電発生日と翌日のスペイン各発電量(2025年4月28-29日)

また、図4は同じ日のポルトガルにおける同様のデータを示しています。スペインのデータは15分間隔、ポルトガルのデータは1時間間隔で取得されており、データの分解能には差があります。

図4 停電発生日と翌日のポルトガル各発電量(2025年4月28-29日)

図5は、停電事故の前後における電源系統の周波数を示しています。この周波数はドイツ国内のものであるとされており、スペインとフランスの連系線が接続されている間は、スペイン国内の周波数もドイツと同じになります。しかし、連系線が切断された状態では、スペイン国内の正確な周波数は把握できません。

周波数の変動としては、2回の低下が確認されており、12:00前後に小さな低下、12:30前後には大きな低下が発生しています。これについては後ほど詳しく説明します。

図5 停電事故発生時刻の電源周波数(2025年4月28日)

この3つのグラフから読み取れることを書きだします。

図3(スペイン)から読み取れること

事故発生後のデータについては、処理が正常に行われていない可能性があり、数値の正確性には疑問があります。おおまかな傾向を示すものとして捉えるべきです。

  1. 総発電量の減少
    12:30〜14:30にかけて、総発電量は32,368MWから8,336MWへと約74%減少しました。
  2. 総需要の減少
    12:30〜14:00にかけて、総需要(黒の実線)は25,172MWから10,632MWへと約58%減少しました。
  3. フランスとの連系線の変化
    10:00頃からフランスとの連系線の電力は変動(-1,600MW〜-300MW)を見せ、13:00には0MWになりましたが、その後はスペインが約1,000MWの受電を受けています。
  4. 太陽光発電の不自然な数値
    11:45〜13:00にかけて、太陽光発電量は19,696MWから6,472MWに減少。その後もゆるやかに減少していますが、21:00時点で3,800MWという数値は、この時間帯にしては多すぎる印象があります。比較として、前週の同時刻では592MWでした。
    この不一致は、スペイン国内における太陽光発電の出力推定方法に原因があると考えられます。大規模メガソーラーはリアルタイムにデータが取得されますが、小規模な屋根上太陽光などは日照量などからの推定であり、計算機出力全体の精度に限界がある可能性があります。
図4(ポルトガル)から読み取れること

※ ポルトガルのデータは1時間ごとの値です。

  1. 総発電量の急減
    12:00時点で5,440MWから3,020MWに減少し、13:00には95MWにまで低下しています。
  2. 総需要の減少
    12:00に5,747MWから3,285MWに、13:00には94MWにまで減少しています。
  3. スペインとの連系の断絶
    12:00以降、スペインとの連系線による電力融通は0になり、その後もほとんど流れていません。
図5(系統周波数)から読み取れること
  1. 最初の周波数低下
    12:00:30および12:01:35に49.96Hzまで低下し、その後30分ほどかけて回復。
  2. 2回目の低下
    12:33:00に49.97Hzを下回り、12:33:40には最低値の49.84Hzを記録。
  3. 回復
    12:43:46に50.00Hzまで回復。
想定される状況の分析

12:00頃に、まずポルトガル国内で約5,380MWの電源脱落が発生し、これによって欧州全体の周波数が0.04Hz低下しました。その約30分後の12:32頃、スペイン国内で24,000MW規模の電源脱落が発生し、周波数はさらに0.16Hz低下しました。その後、10分程度で周波数は回復しました。

ただし、この時系列から「ポルトガルの系統崩壊がスペインの系統崩壊を引き起こした」と断定することはできません。あくまでも、先に停電が発生したのはポルトガルの系統であった可能性がある、という推定にすぎません。

この推定は、図2が示すように、ポルトガルの電力系統が地理的にも構造的にもヨーロッパ系統の末端に位置し、不安定になりやすい点を考慮しています。

3. ネット上のブログなどからの情報をまとめると

スペインの電力会社からは、停電に関する正式な原因の公表はまだありませんが、ブログ等を通じていくつかの有益な情報が公開されています。ここでは、その中から注目すべき3点を紹介します。

  1. 停電発生の約2時間前から、コンセントの電圧が約15V変動していた
    これは家庭やオフィスの機器に影響を与えるレベルの変動であり、停電に先立つ系統の不安定化を示唆している可能性があります。
  2. 「誘導大気振動(induced atmospheric vibration)」による電圧の不均衡が原因とする見解
    これはポルトガルの電力会社RENによる発言に基づくもので、外的要因により電圧が揺らぎ、系統のバランスが崩れたことを示唆しています。
  3. 再生可能エネルギー比率の高さが停電範囲を拡大させた可能性
    火力や水力発電は大型の回転機を使用しており、回転系の慣性が大きいため、系統周波数の変動にもある程度耐えることができます。一方、太陽光や風力発電は、インバーターを介して直流から交流に変換する仕組みのため、周波数変動に対する耐性が低く、不安定時に停止しやすいという特性があります。このことが、停電の連鎖拡大を招いた可能性があります。

私は、これら3点はいずれも実際に発生していたと考えています。そして、これらの現象に加えて、交流系統における同期発電機の「同期ずれ」、いわゆる脱調(だっちょう)現象が発生していた可能性が高いと考えます。

この「脱調」という言葉はあまり聞き慣れないかもしれませんが、重要な現象ですので、次にその概要を簡単に説明したいと思います(ただし、実際には簡単な現象ではありません)。

4. 脱調現象とは?

交流系統で接続されている同期発電機は、すべて同じ周波数で同期して運転しています。これは、各発電機が独自の周波数で発電してしまうと、位相の異なる電気が互いに干渉し、重大な障害を引き起こす可能性があるためです。

直流電流では、電圧の高い側から低い側へ電流が流れますが、交流では位相が進んだ側から遅れた側へ電力が流れます。つまり、発電側は負荷側よりもわずかに位相が進んだ状態で運転されている必要があります。

しかし、この位相差がある一定以上に開くと、発電機は同期を保てなくなります。この位相差の拡大と、それに続く非同期状態への遷移過程が、いわゆる脱調(だっちょう)現象です。

少し古い資料ではありますが、京都大学の研究者による論文には、この脱調状態の様子を示すわかりやすい波形が掲載されています。

図6 脱調現象発生時の発電機電圧(V)と出力(W)のグラフ
京都大学論文「同期発電機の脱調現象に関する解析的研究」松木純也(1980年5月23日)

その波形を見ると、発電機の電圧や出力が大きく変動していることがわかります。これは、先に紹介した「停電発生の約2時間前から電圧が15V程度変動していた」という事象が、実際にはこの脱調過程を示していたのではないかと考えられます。

また、2つ目のポイントである**「誘導大気振動(induced atmospheric vibration)」についても、これは送電線が風や対流によって物理的に揺れて短絡(ショート)を引き起こしたという可能性もありますが、図6のように電気的に電圧や電力が振動していた状態**を指しているとも解釈できます(もっとも “atmospheric” という語がこの文脈に適しているかは疑問が残ります)。

さらに、3つ目の論点である再生可能エネルギーとインバーターの関係についても、系統側の電圧が大きく変動すると、インバーターが正常に動作できず停止してしまうことは技術的に十分に理解できます。

ここで再び、図2に示したヨーロッパの送電系統を思い出してください。ポルトガルは系統の末端に位置しており、スペイン側で脱調現象が起これば、その影響が最も早く、かつ大きく現れるのはポルトガルの系統側である可能性が高いと言えます。

5. なぜ脱調現象が発生したか?

今回の停電の原因について、私は次のような流れで現象が進行したのではないかと考えます。すなわち、脱調現象が発生し、系統の電圧が大きく変動したことで、太陽光発電や風力発電に用いられているインバーターが大量に停止し、供給力が一気に不足しました。その結果、周波数が低下し、それに耐えられなくなった火力発電や水力発電、さらには原子力発電までもが停止し、広域にわたる停電が発生したのではないでしょうか。

では、脱調現象がどのようなときに発生しやすいかというと、上位系、つまり電圧の高い基幹系送電線において、特に大きな潮流(重潮流)が流れている状態で事故が起きた場合です。スペインでは400kVの送電系統がこれに該当します。

こうした基幹送電線は通常、1号線・2号線の2回線構成になっていますが、もし両方が同時に事故で停止するか、あるいは1回線が点検などで停止している間にもう1回線が事故で停止するような事態が発生すれば、送電線全体のインピーダンスが急激に変化し、それが脱調現象を引き起こす原因となります。

今回のスペインでの停電に関しては、図7に示されているように、太陽光発電の設備は日照の豊富な南部から南西部にかけて多く分布しています。そして、これらの地域で発電された電力は、マドリードやバルセロナといった北部の大都市に送電される必要があるため、送電線には南から北への大きな潮流が常態的にかかっていたと考えられます。

図7 スペイン国内の太陽光発電の分布
Global Enagy Montorより

つまり、太陽光発電の大量導入によって、送電線事故が発生した際に脱調現象に陥りやすい系統状態が生じていたにもかかわらず、何らかの技術的・制度的対策が十分に講じられていなかった可能性があります。

そうした状況下で大規模な送電線事故が実際に発生し、それによって系統が不安定化し、脱調現象に至ったのではないかと推測されます。送電線の事故そのものをゼロにすることは不可能である以上、事故が発生しても発電機の同期運転を維持できるような設計や保護制御の強化といった、現実的な系統対策をあらかじめ講じておく必要があるのです。

では、日本がスペインと同様の広域停電に見舞われないためには、何をすべきでしょうか。かつての集中型電源の時代には、発電所と送電系統は一体的に整備され、事故への備えも含めて体系的な対策が取られていました。たとえば1970年代までは、東京湾岸などの消費地の近隣に火力発電所を建設し、電力を安定的に供給していました。

しかしその後、大規模火力発電や原子力発電は、福島・新潟・福井といった消費地から離れた地域に建設されるようになり、長距離の送電線を通じて関東や関西へ電力を送る構成へと移行しました。こうした構成では、送電線の一部に障害が生じた場合、その影響が広域に及ぶリスクが高まります。そのため従来は、電源の立地と送電網の整備をセットで進めることが原則とされ、送電線網の強化が計画的に行われてきました。

ところが、近年急速に導入が進んでいる太陽光発電や風力発電は、その立地や規模が分散的かつ予測困難であり、電源開発と送電線整備が連動して進められにくくなっています。送電線の新設や増強には莫大な費用がかかるため、現在では明確に熱容量の逼迫が見込まれる場合に限って最小限の対応が取られているのが実情です。

このまま、たとえば東北地方北部に風力発電が集中し、あるいは九州・四国地方で太陽光発電が大量に導入される状況が続くにもかかわらず、送電網の適切な増強が行われなかった場合、送電線事故によって脱調現象が引き起こされ、結果として大規模停電に至る可能性は否定できません。まさに、スペインで起きたことが日本でも現実となりうるのです。

さらに、脱調現象は発生の兆候を早期に検出できるという点で、かつての集中型電源では制御によって被害を未然に防ぐ仕組みが存在していました。具体的には、脱調のリスクがある発電所には脱調検出リレーが備えられており、非同期状態に至る前に遮断や負荷調整といった制御を行うことが可能だったのです。

しかし、太陽光や風力のような分散型電源では、対象となる発電設備が膨大な数にのぼり、個別に脱調の予兆を検出して制御することは現実的に不可能です。仮にそれを実現しようとすれば、莫大な整備費用が発生し、その費用負担を誰が担うかという別の問題が生じます。

このことからも、分散型電源の普及に伴う新たな系統安定性の課題がまた一つ明らかになったと言えるでしょう。

6. 復旧の速さは賞賛に値する

今回の広域停電は、スペイン時間で4月28日12時30分頃に発生し、約20時間後の翌29日朝には、スペイン・ポルトガルの両国ともにほぼ全面復旧しています。これは、2018年に発生した北海道全域停電(ブラックアウト)の際、99%の復旧に約50時間を要したことと比べても、非常に早い復旧だったと評価できます。

もちろん、今回は地震などの大規模災害が原因ではなく、送電線自体の設備被害が限定的だったことが復旧を早めた一因と考えられます。また、スペインは停電復旧にあたり、フランスとの連系線を迅速に回復させ、フランス側の系統から電力供給を受けながら復旧を進めたことも、大きな助けになったと思われます。さらに、ポルトガルは水力発電の比率が高く、出力調整がしやすいという特性があり、停電からの立ち上がりにおいて有利な条件を持っていました。

ただし、こうした前提条件があったにせよ、広域停電からの復旧というのは極めて困難な作業です。送電線が健全であっても、単純に順次電力供給を再開していくと、復旧した地域では一斉に電気が使用され始めます。その結果、発電量が需要に追いつかず、再び系統が不安定化し、再停電が発生するリスクがあるのです。

加えて、発電所が緊急停止した場合、必ずしもすぐに再起動できるとは限りません。特に大規模な火力発電所や原子力発電所では、安全確認や設備再起動の手順に時間がかかるため、段階的な立ち上げが必要になります。したがって、復旧作業は送電線や系統の状態だけでなく、発電と需要のバランスを緻密に管理しながら行う必要があるという点で、高度な調整力が求められます。

そうした中で、スペインとポルトガルが20時間でほぼ復旧を果たしたことは、高く評価されるべき事例であり、今後の系統事故対応における重要な参考になるでしょう。

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