進次郎米のイカサマ:JA悪者論は本質的でない

2025年06月02日 06:40
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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

進次郎米(備蓄米)がようやく出回り始めたようである。

しかし、これは焼け石に水。進次郎米は大人気で、売り切れ続出だが長期的な米価の引き下げにはなんの役にも立たない。JA全農を敵視するような風潮にあるが、それに基づく改革はまったく本質的でない。特に消費者にとってはむしろ害悪。これは郵政改革の轍を踏むに等しい。

私は田舎で4反ほどの米作りをしている。無農薬・無肥料の自然農でやっている。

その経験から、まず3つのことを指摘したい。

  1. 減反政策はやっていない
  2. 気候変動のせいで米が小粒化するなどの要因で収量が本質的に減っている
  3. JA全農の影響力は低下していっている

hungryworks/iStock

ポエム大臣再降臨

小泉進次郎——ポエムないしはイカサマ?

小泉進次郎氏は自民党農林部会長だった2016年に農協改革を唱えたが、結果は期待はずれだった。当時は農産物の販売をほぼ独占するJA全農(全国農業協同組合連合会)に対し、販売手数料や流通構造の見直しを求めたがまったくうまくいかなかった。

小泉氏は5月23日夜、東京都内で報道陣に対し「スーパー店頭には、流通経費なども含めて2000円(5kg)で並ぶ」と説明した。

会見する小泉農相
NHKより

これは問題である。

まず、備蓄米というがこれはいわゆる古米や古古米さらには古古古米が結構な割合である。古米とは新米ではない古い米。今回の米騒動以前は新米5kgが2000円ちょいちょいで買えていたのだから、古米は味が落ちるので本来1000円代ぐらいの価値しかない。

古古古米に至っては論外である。食べたことのある人はまず居ない。

しかも、もうすぐ7月になれば九州あたりから早場米という今年の新米が出てくるので、昨年2024年産の備蓄米さえも古米になる。

しかもである、小泉氏はA・コープファーマーズ南長野店の店頭に並んでいた商品が念頭にあったらしい。この米は「国内産ブレンド米」として税抜き2990円で販売されていたという。この事例をさして2000円台が可能としたようだ税込で3230円——これってわかりにくい——2000円台なのか3000円台か——流石ポエム小泉!と看過するわけにはいかない。

ポエム小泉氏らしいといえばそれまでだが、トランプ流の〝いかさまバイデン〟風にいえば、いかさまコイズミではないのか。

なお、ポエムとは詩のように意味不明で分かりにくいということである。

今回、ポエムイカサマ大臣のもとで放出される30万トン(5kgで約6000万袋)の内訳は、2022年度産米20万トン、2021年度産が10万トンだという。私は古古米までは食ったことがあるが、臭くてボソボソしていた。2021年度産で古古古米——コメとひとまとめにして良いのか、実にわかりにくい。

日本人の大人1人は月間平均で4〜5kgのコメを消費しているので、5kgで6000万袋といったって1ヶ月もない。

そもそも日本の備蓄米の総量は100万トン。これでは3ヶ月も持たないのである。今残っている備蓄米はわずかに30万トン程度。これではいつことが起こるかしれない事態に対して備蓄の意味をなさない。

6350円のコメ

近くのスーパーを訪れて驚いた。

他のスーパーはいつ行ってもコメ棚がスカスカなのにここは米袋が山積み。2kg袋や、希少な5kg袋も山積みになっている。しかし、もっと驚いたのはその値段。

なんと税別5880円のコメ(5kg)が棚に並んでいた。税込で6350円である。近くには4000円台のパールライス(JA)もあったが、税込6000円超の値付けには驚いた。このスーパーは新装開店なったばかりで、空っぽのコメ棚を顧客に晒すわけには行かないので、強気の卸値のコメもかき集めざるを得なかったのである。

6300円という値付けには心当たりがある。最近のとあるレポートでAIが予測した米価と一致する。

スーパーの棚に並ぶ5880円(税別)のコメ
筆者提供

2点指摘したい。

まず今回小泉大臣のもとで仮に5kg2000円台のコメが店頭に並ぶとしても、それはごく一部で焼け石に水。消費者に広く行き渡ることはまずないだろう。

多くのコメは今後も高止まりし、一部の銘柄米はそれこそ市場で取り合いになり、卸売は強気の商売に出て、庶民にはほとんど手がさせない超高級米になるということだ。

生産者の現場

私の田舎は兵庫県の山奥であり、米作りがそこそこ盛んである。

ただ今(記事執筆時)は5月下旬。8割方今年のコメの作付けは終わっている。米の種類はほとんどコシヒカリである。ご当地の銘柄米としては減農薬の特別栽培米「夢たんば」がある。

今年の水田風景は、昨年度まで休耕していたり豆類などコメ以外の作付けをしていた田んぼが水田になっている。

この辺りの稲作者の田んぼの広さは数反から数10反程度である。1反は約1000平米=10アール。

2点の対照的な例をあげる。

私の知り合いは兼業農家でコメは作っても大して儲からんと嘆く。苗をJAから購入して、機材の燃料費・管理費、肥料・農薬の購入し最終的にJAに納入する。一連のコストを考えると、非常にうまくいって〝片手も残れば良い〟と。〝片手〟とは5万円で1反あたりの収入である。むしろほとんどの場合赤字だという。

じゃあなんで米作りをやってるの?と聞くと。先祖代々の田んぼを放棄して荒れさせるわけにはいかない。自家用にすれば買うよりはそこそこ安い。

一方、後期高齢のオジは30反ほどやっている。一昨年まではあんまりやる気なさそうにしていたが、今期は俄然活気づいている。昨年までは放棄地然としていた田んぼも整然とならしており、やる気満々である。こちらは京阪神の個人消費者とも繋がっており、作付け前から問い合わせが殺到しているとか。青田買いだ。ほぼ言い値で買ってくれるとか。

要すれば小規模稲作者は、JA納入では儲からない。消費者への直販や小売業者と直に取引できる生産者は儲かるということ。

今後の問題——農業改革につながるのか

今回の米騒動は4つの問題を明らかにした。

  1. 米の生産者は儲かっていなかった
  2. 減反政策は本質的な問題ではない
  3. コメの収量が本質的に減っている
  4. 米生産者の将来

従来ほとんどの小規模米生産者は儲かっていなかった。時給10円ともいわれたが、機械化がされていても小規模生産者は逆に効率が悪く、作っても作っても赤字だった。今回、米の価格高騰は小規模でも儲かる道が見えた。さらには、自主流通——消費者と直につながればその道はさらに太くなる。

減反政策がすでに破綻していることは明らかだ。というより、少なくとも私の地域では減反政策などやっていない。むしろ、休耕地や耕作放棄地が目立つ。米作は普通にやっていると儲からない。兼業農家の多くは本業で稼いで、農地は意欲ある人に貸している——しかも無料で。

このコメ不足の時代だが、耕作放棄地は借りたくても貸してもらえないという事情がある。耕作放棄地の多くは、その所有者が都会に出て行っており、所在がよくわからない。仮に分かったとしても貸し借りの契約が成立し難い。

銘柄米の代表はコシヒカリだが、このコメは暑さ寒さに弱い。うちの田舎は、昨年に比べればこの5月は例年になく低温で、田植えが終わった周辺の稲苗の生育はあまり良くない。多くはJAから仕入れた苗で、農薬・肥料ががっつり入っている。温室育ちで自然の寒冷・酷暑に弱い。

今年の夏も酷暑が予想されるが、コシヒカリは暑さに弱く、身を守るために籾殻が厚くなる。そうすると必然的に米粒は小さくなり、収穫量が落ちる。このようなコメが結構な割合で自主流通しているので、全国的なコメの生産・流通量の実質減はなかなか把握しにくい。

うちの集落には50町ほどの田んぼがある(1町は10反。100m×100mで野球のグラウンド程)。そのうち収穫したコメをJAに収めているのは約半分。残りは有機農法や無農薬・無肥料の米であり、その多くは個人ルートで販売店や消費者のもとに届いている。そのような生産者は、この米騒動のご時世に「米作りがようやくなんとか儲かる時代になった」と言っている。

しかし、中長期的に見て儲かる状態が本当に続くのかはよくわからない。

上記のような背景を踏まえると、何が実のある農政改革なのか道筋を立てるのは至難だ。

少なくともJA全農をターゲットにするような農政改革に実はない。

郵政民営化の弊害の二の舞になることだけは避けなければならない———それが責任ある政治の在り方である。

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東京工業大学原子炉工学研究所助教 工学博士

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