気候科学の嘘が大きすぎてネイチャーは潰せない

bgblue/iStock
経済危機になると、巨大企業は「大きすぎて潰せない」とされて、政府による救済の対象になるのはよくある話だ。
だが、科学の世界では話は別かと思いきや、似非気候科学に金が絡むと、明白に誤った論文ですら撤回されない、すなわち「大きすぎて潰せない」という事態がおきている。
しかも犯人は、最も権威ある学術雑誌であるネイチャーと、世界の金融機関が利用している「金融システムグリーン化ネットワーク(NGFS)」だ。
このNGFSに従ったCO2の削減計画に携わっている企業担当者の方も読者の中におられるだろう。それが、実はとんでもない似非科学に基づいているというのだ。
問題点指摘したのは、米コロラド大学のロジャー・ピールキ-Jr.教授だ。自身のSubstack「The Honest Broker」において「Too Big to Fail-A Major New Scnadal in Climate Science(大きすぎて潰せない──気候科学における新しい大スキャンダル)」と言う記事を2025年8月15日に発表した。
内容は、これまた気候科学では最も有名な機関の一つであるポツダム気候影響研究所(PIK)が主導したネイチャー誌の掲載論文(Kotz, Levermann & Wenz 2024)と、それを基にして金融当局が利用している「NGFSダメージ関数」の問題である。なお、ダメージ関数とは、地球温暖化による経済損失を、気温上昇の関数としてあらわしたものだ。
この論文は「地球温暖化が経済に及ぼす損害は従来想定より遥かに大きい」との結論で、はばひろくメディアで取り上げられた。
だがこの研究は、そもそも気温上昇だけで各国の経済成長率を説明しようとする強引かつ未検証な手法を採用していた。経済成長とは、技術革新、人口動態、政策・制度など多様な要因で左右されるにもかかわらず、それらを無視して、気温との単純な相関を計算し、それを因果関係とみなしたのである。統計的にもきわめて不安定なモデルであり、偶然のノイズや外れ値を「気候の影響」と誤解する危険を孕んでいた。
実際、同論文の主要な結果は、「ウズベキスタンの異常なデータ」に大きく依存していた。同国の統計では気温とGDP成長率の相関関係が極端に出ている。だがこれは、政治的混乱や移行経済の影響を気候による効果と誤認したものだ。この外れ値が全体の推計を歪める形で、世界規模で気温上昇による甚大な経済損害が発生する、という結論が導かれたのである。8月に発表されたコメント論文(Mattes Arising)がこの点を突き、主要紙も大きく報道した。
しかし驚くべきことに、ネイチャーは、本質的ではない訂正をしただけで、この論文を撤回しなかった。しかし、研究の信頼性は根本から揺らいでいる。ピールキ氏は、こうした扱いを「Too Big to Fail(大きすぎて潰せない)」と呼んだのだ。政治や金融の世界で大きな役割を果たしてしまっている研究結果は、誤りが明らかになっても撤回されなくなった。あまりに影響が大きいため、科学的事実よりも政治とカネの都合が優先されてしまうのだ。
これだけの問題点が指摘され続けながらも、金融当局の国際ネットワークNGFSは、「気候変動による経済損失」を、同論文の結果に基づいて推計する、ということを今だに続けている。そしてこの「ダメージ関数」はNGFSから各国の金融機関や中央銀行に広がり、投融資判断やリスク評価に使われている。つまり、強引で未検証な手法で計算され、明白な誤りを含んだ研究結果が、撤回もされず、そのまま政策と経済を動かしているのである。
学術誌や研究機関が誤りを認めても撤回せず、政治的に利用され続ける現状は、科学の信頼性を著しく損なう。科学は、政策に情報を提供することはもちろん結構だが、そのために事実を歪めてはならない。
気候危機説を正当化し続けるために、誤った研究が「大きすぎて潰せない」存在として温存されることは許されない。科学の健全性を守ることこそ、政治や経済にとっても不可欠なのである。
■

関連記事
-
ドイツ連邦軍の複数の退役パイロットが、中国人民解放軍で戦闘機部隊の指導に当たっているというニュースが、6月初めに流れた。シュピーゲル誌とZDF(ドイツの公営テレビ)が共同取材で得た情報だといい、これについてはNATOも中
-
「2050年のカーボンニュートラル実現には程遠い」 現実感のあるシナリオが発表された。日本エネルギー経済研究所による「IEEJ アウトルック 2023」だ。(プレスリリース、本文) 何しろここ数年、2050年のカーボンニ
-
中国のCO2排出量は1国で先進国(米国、カナダ、日本、EU)の合計を追い越した。 分かり易い図があったので共有したい。 図1は、James Eagle氏作成の動画「China’s CO2 emissions
-
(前回:再生可能エネルギーの出力制御はなぜ必要か②) 送電線を増強すれば再生可能エネルギーを拡大できるのか 「同時同量」という言葉は一般にも定着していると思うが、これはコンマ何秒から年単位までのあらゆる時間軸で発電量と需
-
政府のエネルギー基本計画はこの夏にも決まるが、その骨子案が出た。基本的には現在の基本計画を踏襲しているが、その中身はエネルギー情勢懇談会の提言にそったものだ。ここでは脱炭素社会が目標として打ち出され、再生可能エネルギーが
-
北海道はこれから冬を迎えるが、地震で壊れた苫東厚真発電所の全面復旧は10月末になる見通しだ。この冬は老朽火力も総動員しなければならないが、大きな火力が落ちると、また大停電するおそれがある。根本的な問題は泊原発(207万k
-
MMTの上陸で、国債の負担という古い問題がまた蒸し返されているが、国債が将来世代へのツケ回しだという話は、ゼロ金利で永久に借り換えられれば問題ない。政府債務の負担は、国民がそれをどの程度、自分の問題と考えるかに依存する主
-
GPIFがサステナ投資方針を月末公表へ、ESGの姿勢明確化―関係者 ブルームバーグ 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、サステナビリティー(持続可能性)投資に関する方針を初めて策定し、次期基本ポートフォリオ(資
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間