SBTi離脱ドミノが始まった

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2024年6月に米国下院司法委員会がGFANZ、NZBAなど金融機関による脱炭素連合を「気候カルテル」「独禁法違反」と指摘して以来、わずか1年ちょっとでほとんどの組織が瓦解してしまいました。日本でも2025年3月に三井住友、三菱UFJ、東京海上アセットマネジメントなどが相次いでNZBA、NZAMから離脱しました。
この金融機関における反ESG、気候カルテル崩壊の流れが民間企業にもおよびそうです。
2025年7月、フロリダ州司法長官がSBTiとCDPを「気候カルテル」と指摘しました。そして翌8月には米国23州の司法長官からSBTiが気候カルテルだと指摘を受けました。この時、「SBT基準に従う企業も州の消費者保護法、連邦および州の独占禁止法に違反する可能性がある」「その背後にある”(筆者註:気候危機などの)善意”は無関係だ」とアイオワ州の司法長官から指摘されていました。
日本企業ではCDPに約2,000社、SBTiに約1,500社が参加しています。この日本企業の皆さんも気候カルテルの一味とみなされかねないのです。
そして今月、早速スイスとカナダの保険会社がSBTiを脱退するという報道を目にしました。
スイス・リーによるこの発表は、SBTiが金融機関向けネットゼロ基準(FINZ基準)を発表した後、米国の反ESG政治家らがSBTiとその金融セクター参加企業に対し、ネットゼログループへの参加が独占禁止法や消費者保護法などの法令違反につながる可能性があると警告するキャンペーンを開始したことに続くものだ。
8月には、米国23州の司法長官が共同書簡を発表し、「こうした取り決めや約束について深刻な懸念」を表明。SBTiおよびSBTi基準を遵守する金融機関が「石油・ガス産業への資金供給と保険提供を遮断する」形で暗黙の共謀を行うことで、「連邦・州の独占禁止法および州消費者保護法に違反するリスクがある」と警告した。
カナダ最大の保険会社マニュライフは、科学的根拠に基づいた目標イニシアチブ(SBTi)による気候目標の検証への取り組みを終了した。
マニュライフは、5月に更新された最新の気候変動対策計画において、自社の気候変動目標がSBTiの新たな金融機関ネットゼロ基準(FINZ基準)に準拠していると報告した。この計画には、スコープ1およびスコープ2の排出量を2035年までに40%削減するという誓約が含まれている。
マニュライフによるこの確認は、再保険大手のスイス・リーがSBTi認証取得に向けた取り組みを中止すると発表した数日後に行われた。スイス・リーは3月にもSBTi基準に従うと表明していた。
両社は、それぞれ今年3月と5月にSBT基準に準拠していると宣言したばかりだったそうです。この突然の方針転換の理由はSBTiに対する気候カルテル認定以外に考えられませんが、いずれも素晴らしい判断だと思います。
仮に、自社の顧客やサプライヤーが法務大臣や公正取引員会から談合や独禁法違反と指摘されたとしたら、一旦取引を見合わせて、司法の結論や罰則などをみてから取引の再開について慎重に検討するはずです。
工場の現場で労働災害が起きたら即刻生産ラインを止めて、安全対策とその効果を確認・検証してから設備や機械を順次動かします。
狭義における独禁法違反やカルテル、共謀、談合に該当するかは司法の判断をまたねばならず数年先になりますが、広義の意味で法の精神に触れているため23州の司法長官が連名で召喚状(裁判所への出頭命令)を発行したのです。まずは立ち止まって関係を見直し、司法の嫌疑が晴れたら再開を検討するというのが経営のあるべき姿だと思います。
日本企業は「トランプ大統領の影響なので様子見しよう」「レッドステートが言っているだけで本当かどうか分からない」「反ESGなんてそのうち終わるだろう」などと安易に考えるべきではありません。現に、金融機関による脱炭素連合は気候カルテル指定からたったの1年で瓦解したのですから。SBTi、CDPが気候カルテルと指摘された事実と、SBTi離脱ドミノが始まったことを認識すべきです。
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