国連によるグローバル炭素税を危うく逃れた

Viktor Sidorov/iStock
あと少しで「国連によるグローバル炭素税」が成立するところだったが、寸前で回避された。
標的となったのは、世界の物流の主力である国際海運である。世界の3%のCO2を排出するこの部門に、国際海事機関(IMO)がグローバル炭素税を課そうとしていた。だがその動きを、トランプ政権が止めた。
IMOは海運燃料に対し、CO₂排出1トン当たり100ドル規模の「地球炭素税」を導入する計画を進めていた。各国の港湾使用料に上乗せし、傘下の基金を通じて分配するというものだった。
これは、実質的に「国連が世界共通税を課す」初の試みである。民主的統制の届かぬところで地球規模の財政が動き始める。これは実質的に国家主権の侵害にほかならない。
バイデン政権の賛同のもと進められてきたこの構想に対して、トランプ政権は「新しい形の世界政府税」であると断じて、強く反対した。国務・エネルギー・運輸各省の合同声明では、「国連の炭素税は国際貿易を妨げ、エネルギーコストを押し上げ、貧しい国々の生存を脅かす」と明言した。この国連炭素税に賛同する国に対しては、米国への入港禁止や関税など、厳しい措置を取ると脅した。
米国の主張は、サウジアラビアやロシアを含む57ヵ国の政府の賛同を得て、10月17日に実施された投票の結果、過半数の意見によりIMOによる炭素税導入は少なくとも一年延期されることになった。日本政府は、この炭素税を推進する立場を取り続けてきたが、この投票については棄権した。
この一件は、単なる気候政策論争に留まらず、「国連による課税」という先例をつくるかどうか、というものでもある。もしこの海運への炭素税が成立すれば、その次は航空、陸運、そして最終的には化石燃料全体、あるいは他の分野においても、国連による課税が拡大される懸念が生じる。これは、各国政府が、課税権という国家主権の核心を手放すことを意味する。
日本政府は今回は棄権に留まったが、今後は、本件についてはもっと危機意識を持って、強く反対すべきではなかろうか。
■
関連記事
-
新たなエネルギー政策案が示す未来 昨年末も押し迫って政府の第7次エネルギー基本計画案、地球温暖化対策計画案、そしてGX2040ビジョンという今後の我が国の環境・エネルギー・産業・経済成長政策の3点セットがそれぞれの審議会
-
8月に入り再エネ業界がざわついている。 その背景にあるのは、経産省が導入の方針を示した「発電側基本料金」制度だ。今回は、この「発電側基本料金」について、政府においてどのような議論がなされているのか、例によって再生可能エネ
-
欧州のエネルギー環境関係者とエネルギー転換について話をすると、判で押したように「気候変動に対応するためにはグリーンエネルギーが必要だ。再生可能エネルギーを中心にエネルギー転換を行えば産業界も家庭部門も低廉なエネルギー価格
-
東日本大震災を契機に国のエネルギー政策の見直しが検討されている。震災発生直後から、石油は被災者の安全・安心を守り、被災地の復興と電力の安定供給を支えるエネルギーとして役立ってきた。しかし、最近は、再生可能エネルギーの利用や天然ガスへのシフトが議論の中心になっており、残念ながら現実を踏まえた議論になっていない。そこで石油連盟は、政府をはじめ、広く石油に対する理解促進につなげるべくエネルギー政策への提言をまとめた。
-
日本政府は第7次エネルギー基本計画の改定作業に着手した。 2050年のCO2ゼロを目指し、2040年のCO2目標や電源構成などを議論するという。 いま日本政府は再エネ最優先を掲げているが、このまま2040年に向けて太陽光
-
英国の環境科学者で地球を1つの生命体とみなす『ガイア理論』を提唱したジェームズ・ラブロック氏が103歳で亡くなってから、間もなく2ヶ月になろうとしている。 CNNは次のように報じた。 ラブロック氏は科学界に多大な功績を残
-
Caldeiraなど4人の気象学者が、地球温暖化による気候変動を防ぐためには原子力の開発が必要だという公開書簡を世界の政策担当者に出した。これに対して、世界各国から多くの反論が寄せられているが、日本の明日香壽川氏などの反論を見てみよう。
-
米国農業探訪取材・第3回・全4回 第1回「社会に貢献する米国科学界-遺伝子組み換え作物を例に」 第2回「農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?」 技術導入が農業を成長させた 米国は世界のトウモロコシ、大豆の生産で
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















