ソーラーボーナスという幻想:ドイツの“タダ電気”政策を検証する

Stadtratte/iStock
2025年11月29日のblackoutnewsによると「ソーラーボーナス-ドイツ緑の党は全世帯に600時間分の無料電力を要求」というニュースが報じられていた。
ドイツの新聞ダーゲスシュピーゲル紙の11月16日にも同内容の記事があり、ヨーロッパでも再生可能エネルギーに逆風が吹く中今度は何を言い出したのか。記事を読んで、私なりに分析してみた。
無料電力という耳障りの良いスローガン
記事によると、
緑の党は、「ソーラーボーナス」構想に基づき、夏季に全世帯に600時間分の電力を無償提供することを目指している。現在、太陽光パネルは蓄電容量や送電網の容量不足により、しばしば利用されずに放置されている。晴天時には、正午の時間帯に余剰電力が発生するが、現状ではその一部しか活用できていない。風力発電所や太陽光発電所は安定的に発電しているものの、多くの系統運用者は供給量を制限している。その結果、発電事業者は電力が流れていないにもかかわらず、補償金を受け取っている。太陽光発電ボーナスは、消費者に無償の電力を提供することでこの状況を改善することを目的としている。太陽光発電システムがピーク容量で稼働している時間帯に電力を無償提供することを望んでいる。
太陽光発電は太陽まかせ、風力発電は風まかせで発電するため、毎年春から夏場にかけての日中帯は電力が余剰になることがしばしばある。これは日本でもヨーロッパでも共通する状況である。
ただし、日本とヨーロッパには重要な違いがある。日本の場合、外国と送電線がつながっていないため、電力が余剰になれば太陽光発電や風力発電の一部を停止するしかない。これに対し、ヨーロッパではほとんどの国が送電線で相互接続されているため、電力が余剰になった際には、慢性的に不足しているイタリアやイギリスなどへ送電(輸出)することができる。
電力の輸出単価は市場での入札によって決まるため、電力が余剰となり売り札が過剰になると、約定価格がマイナスになることもしばしばある。
市場データが暴く“600時間”のからくり
図1は、2024年10月から2025年9月までの1年間におけるドイツの電力市場価格の推移を示している。価格はおおむね150EUR/MWh程度で推移しているが、3月から9月にかけては時折マイナス価格が発生していることが分かる。

図1 ドイツ電力市場での取引価格(2024年10月~2025年9月)
たとえば5月11日の12時~15時の間は、電気を買い手がほとんどいなかったのか、価格は-200 EUR/MWhを下回った。図1の対象期間全体でマイナス価格が発生したのは合計569時間であった。
奇妙なことに、今回緑の党が提案している「600時間の無料電力提供」と、ほぼ一致する数字になっている。
今回の緑の党の政策は、表向きには電気を使用する国民に無料電力を提供するという利益還元策に見える。しかし実際には、これまで発電事業者が損を出してまで売っていた時間帯の電力を、国が税金を使って買い取ってくれる(筆者の試算では70EUR/MWhで買取)という、発電事業者にとってはこの上ない“クリスマスプレゼント”なのである。
また、図2では市場価格のグラフに、renewable power(太陽光・風力・バイオマスなど)の発電出力合計を重ねて示した。

図2 ドイツの再エネ発電量と市場価格
4月から9月にかけては、オレンジ色で示した renewable powerの出力が大きく、市場価格は低水準で推移している。一方、11月から12月はrenewable powerの出力が下がり、市場価格は上昇している。市場原理からすれば当然の結果である。
しかし、緑の党の関係者からすれば、市場価格が高騰する期間に太陽光の発電出力が小さくなり、その間に大きく利益を得ているのが LNGなどを燃料とする火力発電事業者であることが、面白くないのだろう。市場価格が800EUR/MWhに達した日もあったが、この前後では太陽光発電や風力発電の出力が非常に低調である。
“無料電力”はなぜ働く人に届かないのか
緑の党の提案は、税金を使って市場価格の低い時間帯の太陽光や風力などによる電力を一定価格で買い取るという、明らかな税金の無駄遣いである。しかし、仮にこの制度を実施した場合、どの時間帯の電力が無料になるのだろうか。マイナス市場価格が発生した時間帯を図3に示した。

図3 マイナス価格発生時間の分布
マイナス価格は、太陽光発電の出力が最大となる11時~15時に集中している。これも当然の結果ではあるが、働いている人であれば、この時間帯に自宅にいるわけではないため、無料電力の恩恵を受けることはほぼ不可能である。
そもそも成り立たない制度——技術・制度面の破綻
今回の分析は、過去の実績データを基にしたものであり、将来の市場価格を高精度で予測することはできない。したがって、電気代を無料にする時間帯を事前に算出することは不可能であり、電気料金を精算する段階で過去にさかのぼって割引するしかない。
「明日の11時~15時は無料になりますよ」と事前に知らされるわけではなく、「先月の○日の11時~15時は無料でした」という事後的な処理となる。この方式では、たとえ自宅にいたとしても、無料時間帯を狙って電気消費を増やすことはできない。
さらに、日本ではほぼ全世帯にスマートメーターが普及しているのに対し、ドイツではまだ数百万世帯が未導入である。これらの家庭は時間帯別の電気使用量を把握できないため、無料時間帯にどれほど電気を使用したかを集計できない。結果として、こうした世帯は無料の恩恵を受けられない。
加えて、電力小売会社にとっても、この政策による恩恵は全くない。それどころか、電気料金を計算するシステムを大幅に改修する必要が生じ、そのコストは最終的に電力利用者の負担となる。
税金は太陽光発電事業者へ垂れ流され、電気料金は上昇する──とんでもない政策である。再生可能エネルギーによる発電を普及させるという幻想は、そろそろ見直すべき時期に来ている。
関連記事
-
「2030年までにCO2を概ね半減し、2050年にはCO2をゼロつまり脱炭素にする」という目標の下、日米欧の政府は規制や税を導入し、欧米の大手企業は新たな金融商品を売っている。その様子を観察すると、この「脱炭素ブーム」は
-
上記IEAのリポートの要約。エネルギー政策では小額の投資で、状況は変えられるとリポートは訴えている。
-
The Guardianは2月4日、気候変動の分野の指導的な研究者として知られるジェームズ・ハンセン教授(1988年にアメリカ議会で気候変動について初めて証言した)が「地球温暖化は加速している」と警告する論文を発表したと
-
サウジアラビアのサルマン副皇太子が来日し、「日本サウジアラビア〝ビジョン2030〟ビジネスフォーラム」を開いた。これには閣僚のほか、大企業の役員が多数詰めかけ、産油国の富の力とともに、エネルギー問題への関心の強さを見せた。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。
-
オーストラリアは、1998年に公営の電気事業を発電・送電・小売に分割民営化し、電力市場を導入した。ここで言う電力市場は、全ての発電・小売会社が参加を強制される、強制プールモデルと言われるものである。電気を売りたい発電事業者は、前日の12時30分までに卸電力市場に入札することが求められ、翌日の想定需要に応じて、入札価格の安い順に落札電源が決定する。このとき、最後に落札した電源の入札価格が卸電力市場価格(電力プール価格)となる。(正確に言うと、需給直前まで一旦入札した内容を変更することもできるが、その際は変更理由も付すことが求められ、公正取引委員会が事後検証を行う。)
-
第7次エネルギー基本計画の政府検討が始まった。 呆れたことに、グリーントランスフォーメーション(GX)の下にエネルギー基本計画を置いている。つまり脱炭素を安全保障と経済より優先する訳だ。そして、GXさえすれば安全保障と経
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














