米国のグリーンランド領有にはそれなりの合理性がある
トランプ大統領が、グリーンランドを買うと言ったと思ったら、軍事介入をするという騒ぎになり、ヨーロッパとアメリカで軍事衝突か、あるいは関税紛争かと大騒ぎになったが、結局、トランプ大統領も矛を引っ込め、協議をしようということになったようだ。
さて、ここまで敵対的なやり方をするのが正解とは思わないが、それは別として、アメリカがグリーンランドを領有することに意義を見出すのは、それなりにわからなくはない。

北大西洋条約機構・マルク・ルッテ事務総長と会談するトランプ大統領
ホワイトハウスXより
まず第一に、軍事面である。グリーンランドは、ちょうどアメリカとロシアの真ん中にある。核戦争になるとしたら、ここを核兵器が行ったり来たりすることになる。
地上発射の大陸間弾道弾ICBMにしろ、陸上から発進する戦略爆撃機にしろ、原子力潜水艦発射の弾道弾SLBMにしろ、グリーンランドやその周辺に配備しておけば、それは相手の喉元に配備することになる。あるいは、対ミサイル防空網を建設するなら、グリーンランドは適地になる。ハドソン研究所の公開レポートがこのことを詳しく説明している。
このレポートのシミュレーションでは、北大西洋にロシアの潜水艦が進出して、欧州に軍事的圧力をかける。それに伴って武力衝突も起きる、としている。グリーンランドからアイスランド、イギリスへと抜けるGIUKギャップは、欧州にとって重要な防衛線になるわけである。
第二は経済安全保障面である。グリーンランドには様々な鉱物資源が眠っている。特に注目されているのがレアアースとウランである。レアアースの中でも、いわゆる重レアアースが存在していることが確認されている。
レアアースの中でも軽レアアースであれば、中国以外の供給源もそれなりにある。しかし重レアアースとなると、今ほとんどが中国に独占されている。そしてこの重レアアースなくして製造できないハイテク製品や防衛装備品も多くある。
酷寒のグリーンランドでの開発は容易ではないが、中国がレアアースを武器化する中で、このレアアース開発は米国としても何としても成し遂げたいものとなる。この点についてはCSISの公開レポートが解説している。
Greenland, Rare Earths, and Arctic Security
第三は政治および地政学面である。グリーンランドは歴史的経緯からデンマーク領になっているが、中国はそこに参入しようとしてきた。レアアースとウランを同時に産出する鉱山への投資案件、それから空港インフラへの投資案件である。
いずれも巨大な案件であったが、前者は主に環境問題の観点から反対運動が起きて、事業を事実上不可能にするウラン濃度規制が導入されて、実現しなかった。後者は、経済安全保障の観点からデンマーク政府が介入し、結局は実現されなかった。しかし、今後もデンマーク政府がこのように中国を拒否し続けるかは予断を許さない。
グリーンランドは人口の9割がイヌイットである。そして、デンマーク政府は、イヌイットが自らの意思で独立国になることを認めている。政治情勢によっては、デンマークから独立したグリーンランドが、親中的になるという展開もあり得るかもしれない。そこまで行かずとも、これまでデンマーク政府との合意の下で米国が許容されてきた、同地における幅広い軍事活動も、グリーンランド政府によって制限されるようになるかもしれない。これは米国としては受け入れがたい事態であろう。
そのようなことが起きず、今のままの政治体制が継続するとしても、アメリカが望むレアアースなどの資源開発については、必ずイヌイットと交渉しなければならない。レアアースはウランを伴って産出されるので、その生産や精錬においては放射能を管理しなくてはいけない。まさにこの点が嫌悪されて、過去のグリーンランドにおけるレアアース事業はイヌイットの反対運動に遭い、禁止されたという経緯がある。
いま米国は、経済安全保障の観点を重視するということで、国内の鉱物資源開発の規制を大幅に合理化している。特筆すべきはウラン資源開発についてのもので、ブレイクスルー研究所のテッド・ノードハウスが簡潔にまとめた記事がある。
President Trump’s Climate Moonshot
このような米国の目から見たときに、対中国において最も重要な戦略物資であるレアアース、特に重レアアースが大量に付存するグリーンランドの開発が、地元のイヌイットによって阻止されるという状況は、やはり好ましくないであろう。
歴史的に見れば、アメリカがグリーンランドを領有したいというのは、そう突飛なことでもない。かつて南北アメリカは、欧州の植民地帝国が分割していた。アメリカはそのうちの一つイギリスから独立し、戦争や金銭的な購入を通じて領土を拡大してきた。すなわち、フランスからルイジアナを購入した。メキシコと戦争してテキサスやカリフォルニアなどを手に入れた。ロシアからアラスカを購入した。スペインと戦争してフィリピンから追い出し、やがてそれを購入した。
グリーンランドは本国であるデンマークからかなり離れており、しかも本国よりはるかに広大である。見ようによっては、まさに帝国主義時代の残滓であって、そのグリーンランドが独立ないしはアメリカに編入されるというのは、歴史的に見ればそう変わったことではない。
経済の現状についていえば、ウオールストリートジャーナルが報じているように、グリーンランドは完全にデンマークのお荷物である。
漁業以外にこれといった産業はなく、人口はわずか5.7万人しかなく、しかも広い領土にまばらに住んでいて、舗装道路延長も150キロしかないので、日常的に飛行機で行ったり来たりしている。そこにデンマーク型の高福祉社会を実現するためとして、デンマーク政府は年10億ドル強の補助金を拠出しており、これはグリーンランド政府歳入の約半分、同GDPの2割に相当する。
これによって、デンマークから独立せずつなぎ留められている側面のあるグリーンランドであるが、もしアメリカがこれを領有するならば、やはり同等の高福祉の維持を求められることになるであろう。これは決して安くはない。
ただそれでも、上述したグリーンランドの軍事的および経済経済安全保障上の価値と、それが抱えている政治的・地政学的リスクに鑑みるならば、アメリカの国策としてグリーンランドを領有することは、やはり魅力的に見える。
誰がどのような形で領有するかはさておき、日本にとっても、グリーンランドのレアアース資源の開発に関与できれば、経済安全保障上、重要な価値があるかもしれない。グリーンランド問題の解決のためのピースの1つとして、日本も検討してみてもよいのではないだろうか。
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