ESGがなぜ利益相反・独禁法違反になるのか

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去る2026年4月22日、ネブラスカ州、テキサス州、フロリダ州、アラスカ州など米国23州の司法長官が連名で、フィッチ、ムーディーズ、S&Pグローバルの世界3大格付け機関に対し、ESG評価を前提とした格上げ・格下げをやめるよう警告する書簡を送りました。
ヒルガース司法長官が主要信用格付け機関に書簡を送付 ESG方針への懸念を表明 |ネブラスカ州司法長官マイク・ヒルガース
前回、格付け機関がESG評価の前提として考えていた「投機的な4つの予測」がいずれも間違っていたのに、格付け結果を見直していないという指摘について紹介しました。
今回は、格付け機関がESG・ネットゼロ目標へコミットメントすることにより抱えている利益相反の実態が詳らかにされていますのでご紹介します。よく、「なんでESGが利益相反に該当するのか」「独占禁止法違反になるのか」といった質問を受けますが、米国の司法長官たちがとても分かりやすく説明してくれています。
また、この利益相反を開示しないことによって独禁法の他にも、SEC規則、消費者保護法にも違反する可能性が指摘されています。さらに、人権侵害の疑いがある企業の方が米国企業よりもESGスコアが高くなっているという個別具体的な指摘もなされています。
ESG外部連合への参加
格付け機関3社は、国連責任投資原則(PRI)やネットゼロ金融サービスプロバイダー連合(NZFSPA)等への参加を通じて、ESG要素や脱炭素化目標を意思決定や格付けプロセスに組み込んでいる(NZFSPAは州司法長官らが独占禁止法に違反する可能性があると指摘しているグループである)。
これらの取り組みは、化石燃料産業の資本コスト上昇や投資抑制を促す方向に作用するため、信用リスクを客観的に評価すべき格付け機関に重大な利益相反を生じさせている。
ESG格付けとESG関連サービスとの商業的利益相反
格付け機関が信用格付け業務と同時にESG評価・コンサルティング事業を展開している点に問題がある。顧客は格付け改善を期待してESG関連サービスを購入する動機を持つため、格付け機関が自ら創出したESG評価需要から利益を得る構造になっている。バイデン政権とトランプ政権の両方において、SEC(米国証券取引委員会)の信用格付け局(OCR)もESG商品と格付け業務の併営による利益相反リスクを警告していた。
取締役レベルの利益相反
格付け機関の取締役にも利益相反が生じる可能性がある。S&Pの取締役であるマルコ・アルベラ氏は、世界的な脱炭素をめざす企業、Tree Energy SolutionsのCEO兼投資家である。同社取締役のロバート・モリッツ氏は元プライスウォーターハウスクーパースLLP(PwC)のグローバルチェアである。
モリッツ氏は、ESGを「ビジネス上の必須事項」と呼び、企業がネットゼロを実現し「組織全体にESGを組み込む」ための監査サービスを推進した。モリッツ氏はノーザン・トラストの取締役も務めており、ノーザン・トラストは以前、NZAMの一員として格付け機関に対しネットゼロに整合させるよう圧力をかけることを約束していた。
格付け機関の他の取締役も、アルベラ氏やモリッツ氏のように直接的な役割を通じて、あるいは格下げによって利益を得る企業の株式保有などの経済的利害関係を通じて、利益相反を抱えている可能性がある。
格付け機関はこれら様々な利益相反に直面している。しかしながら、1934年証券取引法およびSEC(米証券取引委員会)の規則に基づき重要な利益相反を開示する義務があるにもかかわらず、ムーディーズとS&PはESG関連の利益相反を一切開示しておらず、フィッチも1種類のみでしかも極めて不十分な開示しか行っていない。
化石燃料生産州への損害
格付け機関は「化石燃料需要の減少」「再生可能エネルギーへの急速な移行」などの誤ったESG前提に基づいてアラスカ州、ニューメキシコ州、ウェストバージニア州などの州や自治体の格付けを引き下げた。ところが、実際には化石燃料需要は依然として高く、格付けの根拠となった予測は実現していないにもかかわらず、格下げが維持されている。その結果、
- 州や自治体の借入コスト上昇
- 化石燃料関連産業への投資減少
- 税収減少
- 州年金基金等の投資価値低下
などの損害が発生している。
独占禁止法上の懸念
3大格付け機関は世界の信用格付け市場の大半を占める。その競合各社が国連PRIやNZFSPAなどのネットゼロ連合を通じてESGを格付け手法に組み込む方向で足並みをそろえたことは、シャーマン法第1条(反トラスト法)に抵触する可能性がある。国連PRIとNZFSPAが「ハブ」として機能し、競合する格付け機関同士がESG評価手法やネットゼロ目標について協調することで、市場の約95%を支配する立場で類似した格付け行動を取ったことはまさに独禁法が禁止する「競争制限的な協調行為」に当たる可能性がある。
近年、各州司法長官はネットゼロ銀行連合やネットゼロ保険連合を崩壊させてきた。特筆すべきは、テキサス州主導のブラックロック、バンガード、ステート・ストリートに対する反トラスト訴訟が棄却申し立てを乗り越え、バンガードが2026年2月に2,950万ドルで和解し、PRIからの脱退とネットゼロ連合への再加入を二度と行わないことを約束した点である。この和解は、同様の協調的なESG活動に関与する信用格付け機関に対する訴訟において、強力な先例を確立する。
消費者保護法(UDAP)違反の可能性
格付け機関は、自らの格付けを「独立」「客観的」と説明している一方で、実際にはESG目標や商業的利益が影響しているため、その表示は不公正・欺瞞的であり、州のUDAP(不公正・欺瞞的行為防止法)に抵触する可能性がある。これは、かつて住宅ローン担保証券(MBS)の格付けで問題になった「発行体に都合のよい格付け」と同じ構造であり、格付け機関が巨額和解金を支払った問題を今度はESGの名の下で再現する危険性がある。
人権侵害の疑いがあっても米企業より高スコアとなるESG格付け
州政府は以前からS&Pの「不透明な」ESG格付けについてUDAP上の懸念を表明していた。S&PのESG格付けは、ロシアと中国のひどい人権侵害にもかかわらず、部分的に国有化されているロシアと中国の企業を不可解にも米国企業より上位にランク付けしていた。S&Pは、中国共産党が所有する中国石油化工集団(CPC)に対し、エクソン、バレロ、シェブロンよりも高いESGスコアを付与している。中国共産党による人権侵害が極めて悪質であるにもかかわらず、だ。
筆者註:
書簡にある引用元を見たところ、たしかにS&PのESGスコアではシェブロン:28点、エクソン:33点、バレロ:41点、CPC:46点となっています(2026年6月7日現在)。CPCは新疆ウイグル自治区で大規模な石油・ガスの探査および販売事業を展開しているようです。どこが「誰ひとり取り残さない」なのか、大いに疑問が残ります。

結論
格付け機関による格下げは、非現実的なESG目標を前提としたものであった。これらの格下げは、明示された評価方法に違反し、重大な利益相反を開示しておらず、SEC規則および州の消費者保護法に抵触する。格付け機関はまた、同様に欠陥のある評価方法を用いて州の格下げを行ったことで、化石燃料生産を行う州にも損害を与えた。格付け機関の過去の評価方法の不備に対する和解金総額は23億ドルを超えており、今回の執行を裏付ける法的根拠は少なくとも同等に強力である。
格付け機関に対する要求事項
23州の司法長官は格付け機関に対し、
- 90日以内にESGを理由とする格下げの具体的な財務根拠を説明するか、ESGに基づく格下げをすべて撤回すること
- 60日以内に国連PRIから脱退するか、または重大な利益相反として開示すること
- 石油・ガス部門の評価手法からESG移行リスク要因を除外するか、3~5年程度の明確な根拠のある期間に限定すること
- ESGコンサルティングとESG格付け業務の利益相反を解消するか、または開示すること
- ESGコミットメントが信用判断に影響しないよう内部統制を見直したと証明すること
を要求する。
■
日頃からESG評価を受ける企業側のご担当者であれば、米国23州の司法長官による指摘と要求がすべてまっとうな内容であることが理解できるはずです。
この書簡の末尾には、格付け機関に対する膨大な質問事項が付記されています。これについては次回ご紹介します。
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