年収5億ドルの“石油大国”IS、輸出ルートを断て!
シリアでIS攻撃をするロシア軍機「世界で最も富めるテロ組織」
過激派組織IS=イスラミックステートは、なぜ活動を続けられるのか。今月のパリでのテロ事件、先月のロシア旅客機の爆破、そして中東の支配地域での残虐行為など、異常な行動が広がるのを見て、誰もが不思議に思うだろう。その背景には潤沢な石油による資金獲得がある。
世界のテロ組織の資金を米財務省が追跡している。今年の報告では、14年のISの石油からの収入は5億ドル(600億円)と推計されている。2013年末段階で、優秀な情報機関モサドを持つイスラエル政府は、ISの資産総額を20億ドル(2400億円)と推計し、「世界で最も富めるテロ組織」と、警鐘を鳴らしていた。
これまでISは誘拐による原油の販売、身代金ビジネス、シリアにある遺跡からの盗掘品の売りさばき、参加したイラクの旧フセイン政権残党の持つ隠し財産などを軍資金にした。ISはシリア北部で数カ所しか油田を占領していなかったが、昨年イラク中部に進出して、より多くの油田を手に入れた。そこからの原油を売り、資金がさらに豊かになった。
イラクでは以前から中央政府に統制されない、現地の有力者や部族の協力による、トルコ-東欧へつながる石油密輸ルートがあったという。これをISは乗っ取ったもようだ。ISの原油はもちろん表で売買できないが、それを精製して闇市場に流す業者がいるらしい。
ある石油アナリストは、「東欧でガソリンの余剰感が強く、それが西欧の市場の需給が緩む原因になっている。ISの影響らしいと言われるが、実態は不明なままだ」という。原油は使うために精製が必要だが、ガソリンは比較的取り出しやすく、粗悪な品質でも車は動く。
シリア国境で、トルコ軍が作戦行動中のロシア軍機を24日に撃墜。両国の非難合戦が続いている。ロシア大統領府が「トルコがISから石油を買っている」と非難。トルコのエルドアン大統領は27日の演説で「恥ずべき中傷。もしそれが事実なら私は辞任する」と言い切るなど、ISの石油が注目を集めるようになっている。
ロシアの空爆の拡大
「オバマ政権も世界の中東専門家もISを過小評価していた。10万人と推定される兵士・組織員を養える集団に成長している。石油を断たなければならない」。米通信社ブルームバーグは11月、米ランド研究所のアナリストのコメントを伝えている。
米国は昨年夏から空爆を行っている。ただし米軍は原油施設の本格的な破壊には、慎重だったようだ。これらは現地企業の資産だ。しかもシリアとイラクではIS以外にもさまざまな武力集団が紛争にかかわる。空爆強化は状況を一段と混乱させかねない。
ところが事態は動いた。ロシアが今年夏から、シリア政府軍に協力してISに空爆を開始。先月のロシア旅客機爆破事件でISが関与したことが確認されると後で、プーチン大統領は「地球上のどこにいてもテロリストを見つけ出して処罰する」という激しい怒りを表明し、その指示で熾烈な攻撃を継続している。
今月18日にロシア国防省はISの原油を運搬するタンクローリー車を500台、24日に1000台破壊したと発表し、映像を公開した。画像では、数十台の車列が映り、それが爆撃で一瞬にして消し飛ぶ姿が映っていた。ISの石油ビジネスの大きさが印象づけられる映像だった。そして米国防省も石油施設への空爆写真を公開した。
“空気を読まない”乱暴者のロシアが動いたことで、ISの石油ビジネスへの攻撃がようやく本格化している。その影響はどうなるのだろうか。
アラブと日本、安全保障協力の可能性
中東の騒乱は、日本から遠く離れた話に見えるかもしれない。ところが、日本の安全保障と結びつく話が浮上している。あるエネルギーのニュースレターによれば、GCC(湾岸協力機構、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート)諸国の新聞で、今年夏の日本の安保法制の整備を好意的に受け止める報道が相次いでいるという。6月のサウジ現地紙「アル・ヨウム」は、「GCCは石油を通じて、日本と関係を深めよ」という論説を掲げた。
これらの諸国は、民主化はされていない王政国家で、国内はその強権的統治によって、比較的政情は安定している。ただしサウジに隣接するイエメン、またシリアの混乱に巻きこまれないように難民受け入れを拒絶し、ISやテロ組織アルカイダを取り締まり、軍事活動を行う米国などと協調している。
彼らは親日であり、09年以来、サウジから紅海の対岸にあるアフリカのジプチ共和国に自衛隊が基地を設け、海賊対処行動をしていることも注目している。日本とアラビアは距離がある。しかし経済的な利害の一致する日本の軍事面での協力を求めているのだ。
イランの核問題が一段落したが、まだ中東の政治的混乱は続く。ISへの攻撃強化は日本にとっても影響が大きい。テロの危険の拡大に加えて、その先行きは国際石油市場に影響を与え、日本のエネルギー安全保障にもつながる。そして、日本の石油の8割、天然ガスの3割は、GCC諸国から購入している。中東の混乱を私たちは今後も注視しなければならない。
(2015年11月30日掲載)
関連記事
-
トランプ次期米国大統領の外交辞書に儀礼(プロトコール)とかタブーという文字はない。 大統領就任前であろうが、自分が会う必要、会う価値があればいつなんどき誰でも呼びつけて〝外交ディール〟に打って出る。 石破のトランプ詣でお
-
日本政府はGX(グリーントランスフォーメーション)を推進している。GXの核になるのは温室効果ガスの削減、なかでもゼロカーボンないしはカーボンニュートラル(ネットゼロ)がその中心課題として認識されてきた。 ネットゼロ/カー
-
トランプ途中帰国で異例のG7に 6月16-17日にカナダのカナナスキスで開催されたG7サミットは様々な面で異例のサミットとなった。トランプ大統領はイラン・イスラエル戦争によって緊迫する中東情勢に対応するため、サミット半ば
-
ユダヤ人は祈りのときにヒラクティリーという帽子をかぶる。そこから出た紐が右手と左手に結ばれる。右手はユダヤでは慈愛を象徴し「あなたの行いが慈愛に満ちるように、そしてそれが行き過ぎないように」、左手は正義を象徴し「あなたが正義を振りかざしすぎないように」という意味を込めているそうだ。
-
2030年の電源構成(エネルギーミックス)について現時点で予断はできない。だが、どのようなミックスになるにせよ、ヒートポンプ・EVを初めとした電気利用技術は温暖化対策の一つとして有力である。さらに、2030年以降といった、より長い時間軸で考えると、電力の低炭素化は後戻りしないであろうから、電力化率(=最終エネルギーに占める電力の割合)の上昇はますます重要な手段となる。
-
福島の「処理水」の問題は「決められない日本」を象徴する病理現象である。福島第一原発にある100万トンの水のほとんどは飲料水の水質基準を満たすので、そのまま流してもかまわない。トリチウムは技術的に除去できないので、薄めて流
-
5月25〜27日にドイツでG7気候・エネルギー大臣会合が開催される。これに先立ち、5月22日の日経新聞に「「脱石炭」孤立深まる日本 G7、米独が歩み寄り-「全廃」削除要求は1カ国-」との記事が掲載された。 議長国のドイツ
-
去る10月8日、経済産業省の第23回新エネルギー小委員会系統ワーキンググループにおいて、再生可能エネルギーの出力制御制度の見直しの議論がなされた。 この内容は、今後の太陽光発電の運営に大きく関わる内容なので、例によってQ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間
















