高浜原発4号機原子炉自動停止、いったいなにが起こったのか?

NHKより
スワッ!事故か!?
昨日1月30日午後、関西電力の高浜原子力発電所4号機で原子炉が自動停止したと報道された。
「原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという異常を知らせる信号が出て、原子炉が自動停止した」ということだが、これはにわかには信じがたい。なぜなら通常の運転中の原子炉炉心内で中性子が急減するような状態はなかなかに考えにくいからだ。
ただ、原子炉は正常に停止し周辺の放射線量にも異常は見られないとのこと。なおかつ原子燃料は正常に冷却されているので現在事故状態ではないし今後事故に進展する可能性もない。関西電力と原子力規制庁が原因を調べているようだが、1月31日正午までには何も追加発表がない。
3つの要因
通常運転中の原子炉の中性子量が急激に減少するという事態はあまり前例が無いように思う。可能性としては、以下の3つが考えられるだろう。
- 制御棒の予期せぬ落下などによる炉内の中性子の吸収量の急増
- 中性子検出器の異常
- 人為的ミス
なお、巷間SNSなどでは燃料自体の品質が劣っていたのではないかなどと指摘する声もあるがその可能性はない。もしそういうことがあればそもそも原子炉を臨界に持って行くことができない。それに、燃料棒の品質管理は基本中の基本である。
順に見てこう。
【1. 制御棒の予期せぬ落下などによる炉内の中性子の吸収量の急増】
制御棒の予期せぬ落下やボロン濃度(炉心の反応度制御にボロンを含んだ水を注入している)の変化などがあったとすれば、そのことは今回の異常が起こったのち、調査検証すれば割と容易く判明する。異常から1日以上たってもそのような発表はないので、この可能性は低いのではないかと私は思う。
【2. 中性子検出器の異常や故障】
炉心内の中性子の量を常時モニタリングする中性子検出器が4台設置されている。そしてそのうち2台が同じ信号を出さないと原子炉の自動停止には至らない。したがって、4台のうちの2台がほぼ同時に異常をきたした、ないしは故障したのではないかということになるのだ。しかし、これも極めて可能性が低い。
このような検出器は非常に重要な機器であるので、日頃の点検は厳重になされているので、2台が同時に故障する確率は無視できるぐらい小さいのである。それに、これらの検出器は1月26日に、それらが正しい値を示すように調整(較正という)されたばかりであった。
【3. 人為的ミス】
最後に残るのは人為的ミスである。
どのような人為的ミスがあったかどうかはもちろん今の時点で何も言えない。しかし、26日に較正したばかりではあるが、何か追加の作業のようなことをしていたとも限らない。そして、作業中に誤って2系統同時に外れてしまったというようなことが起こり得ないとも言えない。それ以外にも上で触れた制御棒やホウ素濃度調整に関わる人為的ミスも可能性としてはある。それにしても考えにくいことではあるが・・。
もし人為的ミスだったとしたら・・・
今回の事態は上で見たように人為的ミスぐらいしか考えられないのではないだろうか。予断は禁物だが、いずれ早晩この事態の原因は究明され公表されると思う。
今回は中性子の急減という状態であり、事故には向かわないむしろ収束する事態であった。炉心内の中性子異常による事故は中性子が急増する事態の下で起こるのだから。しかし、だからといってよしとすることはできまい。
もし仮に人為的ミスであったとするなら、容易に看過することはできないしその代償は小さくないかもしれない。今回は大事には至らなかった類のミスということになろうが、TMIもチェルノブイリも別の類ではあったが〝人為的ミス〟がシビアアクシデントを引き起こしたのである。そのことを私たちは決して忘れてはならないと思う。
政府はGX実行会議などで原子力発電の有用性が取りざたし、事業者や民間企業では新型原子炉(SRZ−1200やBWRX−300など)の開発・配備の機運が高まっているが、今次の事態がそこに水を差さないことを願うばかりである。

関連記事
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 今回は、ややマニアックな問題を扱うが、エネルギー統計の基本に関わる重要な問題なので、多くの方々に知っていただきたいため、取り上げる。 きっかけは「省エネ法・換算係数、全電源平均
-
2030年の最適な電源構成(エネルギーミックス)を決める議論が経産省で1月30日に始まった。委員らの意見は原子力の一定維持が必要で一致。さらに意見では、割合では原発15%論を述べる識者が多かった。しかし、この状況に筆者は奇妙さを感じる。
-
1. 三菱商事洋上風力発電事業「ゼロからの見直し」 2021年一般海域での洋上風力発電公募第1弾、いわゆるラウンド1において、3海域(秋田県三種沖、由利本荘沖、千葉県銚子沖)全てにおいて、他の入札者に圧倒的大差をつけて勝
-
エネルギーで考えなければならない問題は、原子力だけではありません。温暖化、原発の安全管理、エネルギー供給体制など、さまざまな課題があります。
-
今年の国連気候変動サミットを前に、脆弱な国々が富裕国に対して、気候変動によって世界の最貧困層が被った損失に対する補償を支払うよう要求を強めているため、緊張が高まっている。約200カ国の外交官が11月7日にエジプトのシャル
-
政府が2017年に策定した「水素基本戦略」を、6年ぶりに改定することが決まった。また、今後15年間で官民合わせて15兆円規模の投資を目指す方針を決めたそうだ。相も変わらぬ合理的思考力の欠如に、頭がクラクラしそうな気がする
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクであるGEPRはサイトを更新しました。
-
今、世の中で流行っているSDGs(Sustainable Development Goals)を推進する一環として、教育の面からこれをサポートするESD(Education for Sustainable Develop
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間