高速炉の稼動で、ロシアでクリーンエネルギーの時代が始まる
(RT:ロシア・トゥデイ、ロシアの政府出資によるニュースサイトより)(記事)
(GEPR編集部より)ロシアが6月、新しい高速増殖炉を完成させ、運転を開始した。増殖炉研究で先行した日本とフランスは進歩が逆転された。日本のもんじゅは16年も止まったままで、フランスでも研究が凍結されている。ちなみに米英は、核兵器の材料になるプルトニウムを増やすため、このタイプの原子炉研究を停止している。福島原発事故で、この事故を起こした軽水炉の安全性に懸念が広がる。この解決策として第四世代原子炉への期待が再浮上。それでロシアが世界で先んじていることは確かだ。ただしこのリポートでは、原子力の危険性に対する警戒は皆無だ。その無邪気さに、日本との国情の違いがうかがえる。

[2014年6月27日]
ロシアのウラル地方にある最新型の高速増殖炉で運転が始まった。完結した核燃料サイクルの始まりと、核廃棄物なしの発電のはじまりをもたらすかもしれない。ロシアは高速中性子炉を産業利用で運用している唯一の国だ。
ロシアのベロヤルスカヤ(Beloyarskaya)原子力発電所で建設された次世代型原子炉のBN-800増殖炉(出力880メガワット)は、すべての必要な核燃料を装填し、6月27日に臨界に達した。
ロシアの核燃料の独占企業体ロスアトム傘下にあって、この発電所を運営するロスエネルゴアトムの広報担当者は、BN-800原子炉で核反応が開始されたことをRIA(ロシア国内通信)の取材に対して確認した。同社のコメントを引用しながらRIAは「この臨界の瞬間から原子炉に「命」が宿った」と伝えた。
臨界に達したということは、原子炉内では制御された核分裂が自律的に、一定のスピードで行われていることを意味する。これは始動作業における最も重要な段階だ。これがしばらく続けば、この原子炉は10月までに段階的に880メガワットの発電出力を達成するための準備を行い、政府から許可認定を受ける予定だ。
BN-800は、液体金属のナトリウム(Na)は冷却用の熱伝達剤として使用する。新しい原子炉の商業運転の開始は2015年早期に予定されている。
BN-800増殖炉の稼動年数は45年であると予想されている。880メガワットの出力は、3人家族の月平均消費量が150キロワット時であることを考慮した場合に、315万世帯の生活に十分な電力(4.75億キロワット・アワー)を発電すると見込まれている。
ザレチニー州に位置するベロヤルスカヤ原発は、この地域の中心であるエカテリンブルクから45キロほど離れている。
高速中性子炉は、核燃料の放射性物質の量を増やす、いわゆる「増殖」原子炉の技術を使う。したがって、電化が世界で広がる中で、需要が拡大する核燃料の潜在量を増やすことができると考えられている。高速増殖炉は、使用済みのウラン核燃料を「燃やす」ことができるとされており、それが増えれば核廃棄物の問題を終わらせられるかもしれない。
高速増殖炉は、電力を作りだすほかに、核燃料として使用することができる複数の核物質をつくりだすことができる。これは完結した核燃料サイクルをつくることになり、燃料の心配がなくなるという、原子力エネルギー産業の長年の夢がついに実現するかもしれない。
このタイプの炉は、主な燃料としてウラン235を使う伝統的な原子炉(軽水炉)とは異なり、特別にプルトニウム239を材料とする、MOX(混合酸化物)燃料を使う。
(訳注・軽水炉型原子炉で使われるウラン235(全ウランの1%未満)ではなく、高速増殖炉は、天然に多く存在するウラン238をプルトニウムに転換し使う。また使用済核燃料のプルトニウムも燃料にでき、それを使い続けることができる。)
ロシアの原子力の独占事業体であるロスアトムは、BN-800炉用のMOX燃料を生産するために、クラスノヤルスク地方に工場を建設した。生産ラインは、200メートル地下にある。これは2014年末から運用が可能になる予定で、2016年から商業用にフル稼働する。
最初の高速炉「クレメンタイン」は、米国のロスアラモス国立研究所で1946年に建設された。しかしロシアは、それとは異なる形で、高速炉の研究を進めてきた。
数十年にわたり、ソ連、そして、その後のロシアでは、産業利用のために、高速中性子炉の研究と建設をしてきた。そのうちの一つはBN-600(600メガワット)であり、1980年以降、同じベロヤルスカヤ原発内で、工業用途の発電を行う世界で唯一の高速中性子炉である。 BN-600はまた世界で最も出力の大きい稼動している高速中性子炉である。
ここ数十年、米国、フランス、日本など原子力エネルギー技術を保有するいくつかの国々で行われた増殖炉プロジェクトは現在、止まっている。現時点で発電事業を行っている唯一の国はロシアである。
ロシアの物理学者らはすでに高速増殖炉技術の次の展開を検討している。ベロヤルスカヤ原発で、2020年までにBN-1200増殖炉を建設する予定だ。さらに2030年までに、8基のこのタイプの原子炉をつくることも計画されている。
それが実現すれば、ロシアは世界で、原子力発電の新たな時代に入っている唯一の国になる。そして、それによって、環境的に安全で、クリーンで完結した核燃料サイクルが確立することになる。
(翻訳・GEPR編集部 石井孝明)
(2014年7月7日掲載)

関連記事
-
GEPRを運営するアゴラ研究所は、言論アリーナというインターネットの映像番組を提供している。1月16日の放送は、「電力自由化の光と影」だった。(YouTube)それを報告する。
-
国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、2013年の「世界のエネルギー展望」(World Energy Outlook 2013)見通しを発表した。その内容を紹介する。
-
福島第一原発事故から3年近くたち、科学的事実はおおむね明らかになった。UNSCEARに代表されるように、「差し迫った健康リスクはない」というのがほぼ一致した結論だが、いまだに「原発ゼロ」が政治的な争点になる。この最大の原因は原子力を悪役に仕立てようとする政治団体やメディアにあるが、それを受け入れる恐怖感が人々にあることも事実だ。
-
民主党・野田政権の原子力政策は、すったもんだの末結局「2030年代に原発稼働ゼロを目指す」という線で定まったようだが、どうも次期衆議院選挙にらみの彌縫(びほう)策の色彩が濃く、重要な点がいくつか曖昧なまま先送りされている。
-
東日本大震災とそれに伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故から丁度3年後の2014月3月11日、日本原子力学会の福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(以下「学会事故調」という)が丸善出版から「その全貌と明日に向けた提言」題した報告書を刊行した。
-
9月14日、政府のエネルギー・環境会議は「2030年代に原発ゼロ」を目指す革新的エネルギー環境戦略を決定した。迫りくる選挙の足音を前に、エネルギー安全保障という国家の大事に目をつぶり、炎上する反原発風に気圧された、大衆迎合そのものといえる決定である。産業界からの一斉の反発で閣議決定にまでは至らなかったことは、将来の国民にとって不幸中の幸いであった。報道などによれば、米国政府筋などから伝えられた強い懸念もブレーキの一因と いう。
-
今年も夏が本格化している。 一般に夏と冬は電力需給が大きく、供給責任を持つ電力会社は変動する需要を満たすために万全の対策をとる。2011年以前であればいわゆる旧一般電気事業者と呼ばれる大手電力会社が供給をほぼ独占しており
-
高速増殖炉もんじゅの先行きが議論されています。原子力研究者などが集まった原子力国民会議が、「もんじゅ、再生に向けた提言」をまとめている。
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間