農業技術で世界を変えるモンサント-本当の姿は?(上)

2016年09月07日 17:49
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経済ジャーナリスト

(写真1)モンサント社ロゴとホームページ(米国本社)(日本モンサント

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米国農業探訪取材・第2回・全4回

第1回「社会に貢献する米科学アカデミー

食糧不足は技術で解決できるのか?

「世界の食糧が足りなくなるのではないか」

世界各地からの報道で、飢餓を伝える報道や人口の急増、気候変動による農業の生産への悪影響が伝えられている。多くの人が不安を抱いているだろう。

この問題をめぐり、農業の技術、サービスを提供する米国のモンサント・カンパニーは、食糧生産についてユニークな宣言をしている。

「2030年までにトウモロコシ、ダイズ、ワタなどの主要作物の単位面積当たり収量を、2000年の2倍に伸ばしつつ、作物栽培に必要な資源(水、土地、肥料など)を3分の1削減する」

「2021年までに、カーボン・ニュートラルな(温室効果ガスを増加させない)作物の生産システムを実現
する」

これらの目標を同社の持つ技術によって実現するという。もしそうなれば世界の食糧事情はよい方向に変わる。ところが、同社と、同社が1996年に世界で初めて大規模に売り出して広がった遺伝子組み換え作物を批判する情報がインターネットなどを通じて大量に流れている。

本当のモンサントの姿はどうなのか。今年8月に筆者は米国穀物協会の取材ツアーに参加した。そしてミズーリ州にある本社を見学し、幹部らと懇談する機会を得た。

印象を述べると、同社の雰囲気はフレンドリーで、幹部らは自分たちの仕事を通じて社会に貢献したいと願う、健全な考えを持つ人たちだった。そして同社の技術は素晴らしいものが多く、それらによって世界の農業を良い方向に変える希望を抱かせるものだった。

生産、収益の伸び悩む日本の農業では、その改革が叫ばれている。そこにモンサントの持つ技術を導入すれば必ず日本の農業の生産性は向上し、農家の収益の向上や消費者の利益につながるはずだ。

私は、見聞したモンサントの姿と、世間に流布する悪いイメージの格差にとまどった。この訪問記では、モンサントの現状を紹介し、日本の農業に役立つ技術情報を伝えたい。

米国の強い農業を背景に変わり続けた歴史

(写真2)モンサントのリサーチセンター

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モンサントの本社はミズーリ州クレープフールという緑に囲まれた住宅地の中にあった。中央研究所、そして事務や管理部門が置かれている。人々の服、人種や性別は多様で、大学のような雰囲気だった。同社は成長を続けており、また建物の老朽化もあって、敷地では大規模な工事が行われていた。

20キロ離れたところには地域の中心都市、ミズーリ州セントルイス市がある。この州は北に隣接するイリノイ州と並んで大穀倉地帯を形成する。郊外に出ると、ミズーリ州からイリノイ州まで、幹線道路からみると、トウモロコシとダイズの畑が地平線まで広がる。

こうした農業の力強さを背景に、この地域は農業関連の産業が集積してきた。モンサント社もセントルイスに1901年に農薬会社として創業した。「モンサント」という、英語では珍しい響きの単語は、その創業者のジョン・クイーニー氏の妻の実家の名という。

(写真3)セントルイスを流れるミシシッピー川。タグボートと巨大穀物商社カーギルの食糧倉庫。同市は農業物流の中心となり発展し、今でも水運を利用して穀物の輸送が行われている。

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同社は科学の進歩に伴って会社の姿を変えてきた。当初の農薬製造から化学産業に進出して成長。その後に1996年に遺伝子組み換え作物を商品化して売り出した。今はバイオテクノロジー技術を使い、多様な農業関連のサービスを提供する会社に変化している。

同社の2015年の総売上高は150億ドル(1兆5000億円)、研究開発費は15億ドル(1500億円)。全世界に支社があり、2万1000人の人が働くグローバル企業だ。同社は今、「従来育種による品種改良」、「遺伝子組換え技術を中心にしたバイオテクノロジー」、「化学農薬」、「生物農薬・製剤」、「データサイエンス」という、5つに大別される技術分野で、サービス・商品を提供している。

気候変動対策、ITの農業利用という、時代の変化に対応した技術も現在、研究開発が行われている。担当する幹部からそれぞれの技術やビジネスの説明を受けた。

売れる仕組みを考え抜いた商品とサービス

モンサントのビジネスは、相互の商品・サービス、技術が関連し、企業戦略がよく練られていた。一つの商品・サービスを使うと、顧客が他社の関連商品・サービスより同社の製品を使い続けたくなる仕組みができている。例えば遺伝子組み換え作物では、モンサントの除草剤と一緒に使うことで効率的な雑草防除が可能になるという種苗が売り出されている。また同社の精密農法の情報サービス「クライメイト」を使えば、気象から土壌分析情報まで網羅して提供されているため、便利さゆえにそれを使い続けて農業情報をそこに依存できるようになる。

そうした技術で生産性が向上し、利用者は利益を得られる。Win-Win(共栄)の関係ができ、ビジネスは相互の利益のために持続していく。こうした循環を生む、商品やサービスづくりを丁寧に行っていた。

一般論だが、日本企業は提供する一つひとつのサービス・商品が独立し、その性能向上に努力する。しかし売ればおしまい。企業のサービスが相互に連関せず、継続して関係を持つ顧客を増やす発想をしない傾向があるように思える。一方でアメリカ企業はサービスの統一コンセプトをまずつくり、その後にサービスや商品群を売って顧客を囲い込む仕組みを作る。例えれば、製品性能を追求した商品を売るだけだった日本の家電メーカーと、パソコン、スマホ、音楽情報サービス、ライフスタイルを総合提供したアップルの違いだ。優れた米国企業の多くは、物事の根源を押さえようと思考する。モンサントの動きにもそれを感じた。

モンサントは「世界中の農業生産者の生産性の向上と生活の改善」「グローバルな食糧と栄養の安定供給」「環境的に持続可能な農業の実現」というビジョンを持つという。それを基づいた商品・サービスを提供することで、米国やさまざまな国の農家にかけがえのない存在になっているようだ。

CO2を減らし、気候変動に対応

優れた米国企業、日本を含めたグローバル企業を取材すると、たいてい企業ビジョンを参考に幹部クラスの意識がまとまり、さらに彼らのプレゼンテーション能力がとても高い。説明したモンサントの幹部にもそうした印象を受けた。

(写真4、5)農業環境担当のロフイスさん(右)、持続可能な開発担当のマクベイさん、クライメイト社のダスさん

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まず同社のグローバル規制関連業務ディレクターのタイ・バウグンさんが説明した。遺伝子組み換え作物を同社が世界で初めて大規模に商品化して20年が経過した。それによって「健康被害は確認されていない」と強調した。米国では連邦政府による遺伝子組み換え作物の表示の義務化を求める法律があり、7月にオバマ大統領が署名・発効した。バウグンさんは、「政府の規制に当社は従います。それによって消費者の遺伝子組み換え作物への抵抗感が減るように協力します」という。

同社は気候変動問題の解決、そして途上国での持続可能な農業という重要な問題にも取り組んでいる。世界の温室効果ガスの排出量では、発電と工業が46%、農業・土地利用で24%、輸送で14%の二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが発生している。

モンサントの遺伝子組み換え作物、そしてデータの活用によって、生産量が向上する。それで光合成による炭素の吸収量も増える。また農業では普通、複数の除草剤を使うほかに、土を耕すことで、雑草の繁殖を防ぐ。しかし同社の特定の除草剤に耐える性質を持つ遺伝子組み換え作物を使えば、1種の除草剤使用だけで、除草防除のため土を耕さなくて済み、土壌中から発生するCO2発生を抑制できる。この「不耕起栽培」を同社は研究している。

また農業で使われる肥料の窒素は使用が増えると、気化して温室効果ガスになる。モンサントは窒素の投入の時期と量を適切にアドバイスするプログラムを提供している。これによって、農家が無駄に肥料を使わないようにできる。これらは当然、農業のコスト削減にも役立つ。

同社農業環境戦略の主任ディレクターのマイク・ロフイスさんは次のように述べた。「当社の技術を組み合わせれば、米国の農業は生産量が維持されても、2013年に比べ2030年には30%、2050年には50%の温室効果ガスの削減が理論上は可能と推定しています」。

また持続可能なグローバル開発主任ディレクターのディーン・マクベイさんは次のように語った。「米国のような大規模な農業だけではなく途上国の小規模な農業でも、最新技術を使うと、同じように増産、コスト削減の効果がでます。米国で試した技術をアレンジして世界各国に提供していきます。日本は農業の規模が小さいと聞いていますが、当社の技術を使えば、収穫の増加に必ず役立つでしょう」という。

同社は、マイクロソフトの創業者で慈善活動家のビル・ゲイツ氏の運営するゲイツ&メリンダ財団と協力して、アフリカでの農業指導、技術や種苗提供を行っている。「この協力は社会貢献活動の一環で、利益は出ません。また途上国の農業ビジネスはかなり難しく、まずは人々を助けるという意味の方が強くなります。ただし将来的にはWin-Win(共栄)の関係を作りたいです」と、マクベイさんは話した。

以下()に続く

(2016年9月7日掲載)

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