IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
IPCCの報告がこの8月に出た。これは第1部会報告と呼ばれるもので、地球温暖化の科学的知見についてまとめたものだ。何度かに分けて、気になった論点をまとめてゆこう。

enter89/iStock
IPCCの報告では、20世紀に起きた地球規模での気温上昇は、その殆どがCO2等の温室効果によるものだとしている。
だがこれは、太陽活動の変化が殆どなかったとするデータセットに基づいている。別の、NASAの人工衛星観測によるデータセットを用いると、太陽活動は大きく変化しており、地球温暖化の大半はそれで説明できてしまうため、CO2等の寄与は小さいという論文がある(解説記事)。
図がその主張を要約している。
左側がIPCCの採る「(CO2等による)人為的温暖化説」である。上から、(a)が観測された気温変化で、1850年以来、上昇を続けている。(b)が気候モデルによる気温上昇で、(a)を再現するようになっている。(b)の内で、(c)が太陽活動と火山活動による寄与で、(d)が人為的温暖化の寄与である。このように、IPCCは、(c)の太陽活動(と火山活動)は長期的に殆ど変化せず、もっぱら(d)の人為的温暖化が、地球温暖化をもたらしたとする。
これに対して、右側は、(e)が観測された気温変化である。但し、都市熱の影響を省くため、(a)と異なり地方の観測データのみを用いている。(f)はそれに合わせて気候モデルで再現した気温上昇で、(f)の内で、(g)が太陽活動と火山活動による寄与で、(h)が人為的温暖化の寄与である。ここで提示されている「自然変動説」では、(g)の太陽活動(と火山活動)は長期的に強くなっており、(h)の人為的温暖化は、地球温暖化に少ししか寄与しない、としている。
もしそうなら、CO2を減らしても地球温暖化を止めることにはならない。
太陽活動は、可視光や赤外線の強度の変化のほかに、紫外線の強度変化によっても地球の気候を変える。さらには、磁場を変化させることで地球に降り注ぐ宇宙線の量が変化し、これが雲量などにも影響する。そのメカニズムや強さについては議論があってコンセンサスはない。だから図の計算も一つの仮説にすぎない。だが何等かの形で太陽活動の変化が地球の気候に作用していることは間違いない。
IPCCが気候変動における太陽活動の役割を軽視しているという指摘は複数の研究者から上がっている。例えばスベンスマルクによる解説記事を参照されたい。
■
1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。
次回:「IPCC報告の論点③」に続く
【関連記事】
・IPCC報告の論点①:不吉な被害予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点②:太陽活動の変化は無視できない
・IPCC報告の論点③:熱すぎるモデル予測はゴミ箱行きに
・IPCC報告の論点④:海はモデル計算以上にCO2を吸収する
・IPCC報告の論点⑤:山火事で昔は寒かったのではないか
・IPCC報告の論点⑥:温暖化で大雨は激甚化していない
・IPCC報告の論点⑦:大雨は過去の再現も出来ていない
・IPCC報告の論点⑧:大雨の増減は場所によりけり
・IPCC報告の論点⑨:公害対策で日射が増えて雨も増えた
・IPCC報告の論点⑩:猛暑増大以上に酷寒減少という朗報
・IPCC報告の論点⑪:モデルは北極も南極も熱すぎる
・IPCC報告の論点⑫:モデルは大気の気温が熱すぎる
・IPCC報告の論点⑬:モデルはアフリカの旱魃を再現できない
・IPCC報告の論点⑭:モデルはエルニーニョが長すぎる
・IPCC報告の論点⑮:100年規模の気候変動を再現できない
・IPCC報告の論点⑯:京都の桜が早く咲く理由は何か
・IPCC報告の論点⑰:脱炭素で海面上昇はあまり減らない
・IPCC報告の論点⑱:気温は本当に上がるのだろうか
・IPCC報告の論点⑲:僅かに気温が上がって問題があるか?
・IPCC報告の論点⑳:人類は滅びず温暖化で寿命が伸びた
・IPCC報告の論点㉑:書きぶりは怖ろしげだが実態は違う
・IPCC報告の論点㉒:ハリケーンが温暖化で激甚化はウソ
・IPCC報告の論点㉓: ホッケースティックはやはり嘘だ
・IPCC報告の論点㉔:地域の気候は大きく変化してきた
・IPCC報告の論点㉕:日本の気候は大きく変化してきた
■

関連記事
-
18世紀半ばから始まった産業革命以降、まずは西欧社会から次第に全世界へ、技術革新と社会構造の変革が進行した。最初は石炭、後には石油・天然ガスを含む化石燃料が安く大量に供給され、それが1960年代以降の急速な経済成長を支え
-
都知事選では、原発を争点にすべきではないとの批判がある。まさにそうだ。都知事がエネルギー政策全体に責任を持てないし、立地自治体の首長でもないから、電力会社との安全協定上の意見も言えない。東電の株主だと言っても、原発は他の電力会社もやっている。
-
11月24日にCOP29が閉幕して、2035年までに、先進国は途上国への「気候資金」の提供額を年間3000億ドルまで増加させることを約束した。現在の為替レートで48兆円だ。 「気候資金」の内容は、①途上国が受ける気候災害
-
経済産業省において「エネルギー情勢懇談会」の提言が4月13日にまとめられた。現在政府が策定した長期のエネルギー政策としては、2014年に策定したエネルギー基本計画があり、ここでは主として2030年のエネルギーミックス目標
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 前回書ききれなかった論点を補足したい。現在の日本政府による水素政策の概要は、今年3月に資源エネルギー庁が発表した「今後の水素政策の課題と対応の方向性 中間整理(案)」という資料
-
著名なエネルギーアナリストで、電力システム改革専門委員会の委員である伊藤敏憲氏の論考です。電力自由化をめぐる議論が広がっています。その中で、ほとんど語られていないのが、電力会社に対する金融のかかわりです。これまで国の保証の下で金融の支援がうながされ、原子力、電力の設備建設が行われてきました。ところが、その優遇措置の行方が電力自由化の議論で、曖昧になっています。
-
米国が最近のシェールガス、シェールオイルの生産ブームによって将来エネルギー(石油・ガス)の輸入国でなくなり、これまで国の目標であるエネルギー独立(Energy Independence)が達成できるという報道がなされ、多くの人々がそれを信じている。本当に生産は増え続けるのであろうか?
-
11月の12日と13日、チェコの首都プラハで、国際気候情報グループ(CLINTEL)主催の気候に関する国際会議が、”Climate change, facts and myths in the light of scie
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間