メルケルよ、お前もか・・・
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智
ドイツの屋台骨でありEUの中心人物でもあったメルケル首相が引退することになり、今ドイツではその後任選びを行っている。選挙の結果、どの党も過半数を取れず、連立交渉が長引いてクリスマス頃までかかりそうとのことで、それまではメルケル氏が現役を続けるとの由。
メルケル氏は、長年筆者の尊敬してきた現代政治家の一人であり、様々な難題に真正面から立ち向かう姿勢は見事だったと思う。しかし、こと温暖化問題に関しては、物理学者出身の割には、筆者から見て非科学的と思える発言を繰り返した。

例えば、洪水が起きたことに関して、何の疑問も示さず「温暖化対策を急がねば」などと述べた。これは、前稿で紹介したNHKの報道番組と同様、大きな論理的飛躍を含んだ言葉である。
筆者はこれを聞いて、実にガッカリした。メルケルよ、お前もか・・。政治家になると、科学者的思考はできなくなってしまうのか・・?
ドイツは、温暖化対策の急先鋒(米・英・独が三強)の一つであり、環境政策を前面に打ち出した「緑の党」が今回の選挙で第3党になった。今の日本では、そんな政治状況は想像しがたい。
その意味でドイツ国民の環境意識の高さは際立つのであるが、しかし筆者などが再三指摘しているように、実データを見る限り世の中に流布している「人為的温暖化説」には疑問点が多いにも拘わらず、ドイツ国民の多くも温暖化問題に関しては何の疑念も抱かず「CO2排出削減=脱炭素」政策を推奨している。若者の「打倒気候危機」デモ行進なども報道されている。彼らは、気温などの実データを見ていないのだろうか?そして、メルケル氏も?
もう一つ不思議でならないのは、NHKの報道番組でもそうだったが、大気中CO2に関する情報にほとんど触れられないことである。「気候変動対策」とは「脱炭素」すなわちCO2排出削減に尽きる。メタン(CH4)も炭素含有の温室効果ガス(温室効果もCO2の20倍とされる)ではあるが、何しろ大気中には1.8 ppmしかない。約400 ppmあるCO2の1/200以下である。従って「脱炭素」と言えば脱CO2のことであり、当然「脱炭素」の直接的な効果は、大気中CO2濃度の変化に現れなければならない。
大気中CO2濃度のデータは、種々の情報源から得られるが、ここでは最新データの例として、昨年12月にESSD(Earth System Science Data)に載った論文を紹介する。著者87名という大論文だが、要旨に1980年から2019年までの大気中CO2濃度変化が載っている(追加でそれ以前のも)。そのデータを貼り付けておこう。

図1 1980ー2019年までの毎月平均の大気中CO2濃度変化
このデータを見る限り、大気中CO2濃度変化は長年にわたって、ほぼ一定速度で増え続けていることが分かる。2009年頃のリーマンショックで景気が大幅後退(=エネルギー消費も減退)した影響など、チラとも見えない。
また化石燃料消費量は1960年代から急増し、73年と79年の石油危機以後その伸びが減退し、1980年代以降は「低成長期」に入ってエネルギー消費(=CO2排出量)は高値安定で推移してきたはずだが、大気中CO2濃度変化は、それら人間界の変動を何ら反映しているようには見えない。また、2019年以来のコロナ禍により、化石燃料消費は大幅に落ち込んだはずだが、その影響らしきものも、まだ見えてはいない。
実は、筆者はこの4月に出した論文(前掲)で、それは地球上の炭素収支を考えたら当然の結果だと述べた。
上記ESSDの論文にも載っているが、自然界でのCO2の放出・吸収量は、年間210 Gt-C (Gt-Cは炭素換算でギガ(=109)トン)以上もある。人間界からの総放出量は10 Gt-C/年程度。つまり5%程度しかない。一方、大気中へのCO2残留量は4〜5 Gt-C/年と分かっている(濃度が年間2 ppm程度増えているので、それに大気の量を掛けると質量が計算できる)。
IPCCは、自然界の出入りがバランスしているので、増えた分は全部人為的な放出量である、つまり人類の放出するCO2の約半分が毎年大気中に残るのだと説明する。しかし、そんなことはあり得ないと主張したのが筆者の論文だった。
そもそも、自然界でのCO2放出・吸収がバランスしているとの証拠はない。自然界・人為的ともにCO2は地上のいたるところから放出され、いたるところで吸収される。そのCO2の中で、人為的放出分だけが選択的に大気中に残るなどということが、一体あり得るだろうか?人為的CO2だけが固まってどこかに保存されていたら別だが、大気中に拡散している気体のCO2に、そんなことが起こるはずがない、と主張したのである。
もし筆者の主張が正しければ、大気中に残留するCO2の内訳は、放出された時の割合に比例するはずなので、人為的な分は10/220=4.5%程度に過ぎないから、4〜5 Gt-C/年の4.5%、つまり0.18〜0.23 Gt-C/年に過ぎない。人類が、今すぐ全てのCO2排出を止めても、これしか減らない計算になる。
コロナ禍で何%か減った位では、グラフに見える程度の変動にならないのは当然である。まして、世界の3%しか出していない日本がどう頑張っても、大気中CO2濃度に「違い」を見せるのは不可能ということだ。なぜ、そんなことに何兆円もの税金を使うのか?
ここで筆者が主張している内容は、いわゆる「人為的地球温暖化仮説」を根本から否定するものである。人間の放出するCO2によって大気中CO2濃度が上昇し・・との仮説の、最初の段階さえも成立しないことを主張しているからである。これが正しければ、いわゆる「脱炭素」は根拠を失う。CO2排出削減をいくら頑張っても、大気中CO2濃度に大きな変化はもたらし得ないからである。
世間一般の常識とは大きくかけ離れた論説だが、固定観念にとらわれず科学的に思考すれば必然の結論だと筆者は考えている。だからこそ、敢えて論文にまとめて発表した。
筆者は世の人々にもメルケル氏にも望みたい。まずは、科学的に信用できるデータを見ること、次に先入観なく論理的に考え、何が正しいかを見極めること、これである。
■
松田 智
2020年3月まで静岡大学工学部勤務、同月定年退官。専門は化学環境工学。主な研究分野は、応用微生物工学(生ゴミ処理など)、バイオマスなど再生可能エネルギー利用関連。
関連記事
-
バイデン政権は、米国内の金融機関に化石燃料産業への投資を減らすよう圧力をかけてきた。そして多くの金融機関がこれに応じてポートフォリオを変えつつある。 これに対して、11月22日、15の州の財務長官らが叛旗を翻した。 すな
-
9月11日に日本学術会議が原子力委員会の審議依頼に応じて発表した「高レベル放射性廃棄物の処分について」という報告書は「政府の進めている地層処分に科学者が待ったをかけた」と話題になったが、その内容には疑問が多い。
-
何よりもまず、一部の先進国のみが義務を負う京都議定書に代わり、全ての国が温室効果ガス排出削減、抑制に取り組む枠組みが出来上がったことは大きな歴史的意義がある。これは京都議定書以降の国際交渉において日本が一貫して主張してきた方向性であり、それがようやく実現したわけである。
-
かつてイングランド銀行総裁として、国際的なネットゼロ金融ネットワークGFANZを創設するなど、環境金融を牽引していたマーク・カーニー氏が、カナダの首相になった途端に、 石油やガスの大増産に舵を切って、環境運動家から批判を
-
世のマスメディアは「シェールガス革命」とか「安いシェールガス」、「新型エネルギー資源」などと呼んで米国のシェールガスやシェールオイルを世界の潮流を変えるものと唱えているが、果たしてそうであろうか?
-
リスク情報伝達の視点から注目した事例がある。それ は「イタリアにおいて複数の地震学者が、地震に対する警告の失敗により有罪判決を受けた」との報道(2012年 10月)である。
-
スウェーデンの高校生グレタ・トウーンベリが気候変動に対する行動を求め国会で座り込みを行っている。これが欧州各国の注目を浴び、各地で若者たちが行動を起こしているという。ロンドンでは先週末、絶滅への反逆(Extinction
-
厄介な気候変動の問題 かつてアーリは「気候変動」について次の4点を総括したことがある(アーリ、2016=2019:201-202)。 気候変動は、複数の未来を予測し、それによって悲惨な結末を回避するための介入を可能にする
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間















