「気候変動で飢えたシロクマ」は誤報で訂正済み

2022年05月05日 07:00
杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

Alexey_Seafarer/iStock

今回も前回に続いて英国シンクタンクの動画から。

大手の環境雑誌ナショナル・ジオグラフィックが、飢えてやせ細った、ショッキングなシロクマの映像を見せて、気候変動の影響だ、気候緊急事態だ、とした。この映像は25億回も再生され、また新聞・雑誌でも多く取り上げられた。

だが動物学者のスーザン・クロックフォードは、シロクマがケガをしたりガンになったりして餓死するのはよくあることで、この一頭だけで気候変動のせいにするのは間違いだ、と指摘した。

本当に気候変動のせいならば、他にも瘦せ細っているシロクマが居そうなものだが、別にそんなことは報告されていないからだ。

さすがにナショナル・ジオグラフィックも誤りを認め、訂正記事を出した。

要するに、このシロクマが瘦せているのは気候変動のせいだという因果関係については、言い過ぎ(went too far)でした、ということだ。

なのだが、その後が言い訳がましくて、「気候変動になるとこのようなことが起こると言いたかった」のだそうだ。

ちなみに、この訂正記事の後半には、「海氷が無くなるとシロクマが死ぬことについては科学が確立している」と書いてあるが、これも嘘であることも、スーザン・クロックフォードの著書”Fallen Icon(堕ちた偶像)” の8章に詳しく書いてあり、動画でも説明してある。そのようなシミュレーションはあったが、過去数年の海氷の減少期に、シロクマはまったく減らなかったのだ。

前回のセイウチといい、今回のシロクマといい、とにかく動物の悲惨な映像を見せて、全然因果関係の無い気候変動のせいにするという方法は、科学を無視して気候危機という感情を煽る「悲劇ポルノ(tragedy porn)」だ、とクロックフォードは糾弾している。

グレタ・ツゥーンベリも、アッテンボローに影響されてショックを受け、環境運動に目覚めたと言っている。つくづく、罪作りな所業である。

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杉山 大志
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

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