「再エネ100%」表示の多くが優良誤認ではないか

tzahiV/iStock
前回、前々回の記事で、企業の脱炭素の取り組みが、法令(の精神)や自社の行動指針など本来順守すべき様々な事項に反すると指摘しました。サプライヤーへの脱炭素要請が優越的地位の濫用にあたり、中国製太陽光パネルの利用が強制労働への加担につながります。
3点目として、本稿では「再エネ100%」という表示の多くが顧客や消費者に対する「優良誤認」にあたることについて、複数回に分けて述べます。前回までと今回で取り上げる企業の脱炭素施策、ならびに守られていない順守事項を以下に整理します。

表1 脱炭素施策と順守事項の整理
さて、先日こちらの報道を目にしました。
メロン果汁2%ジュースなのに「100%」と表示、キリンビバレッジに課徴金1915万円(読売新聞オンライン)
メロン果汁が2%程度しか入っていないのに、ジュースのパッケージに「100% メロンテイスト」などと表示したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、消費者庁は18日、飲料大手「キリンビバレッジ」(東京)に1915万円の課徴金納付命令を出した。
これが景品表示法違反(優良誤認)であれば、よく製品広告などで目にする「自社工場にて100%再生可能エネルギーで製造しています。非化石証書(またはJ-クレジット、森林クレジットなど)を活用」といった類の表示も優良誤認にあたるのではないでしょうか。
非化石証書やJ-クレジット、海外の森林クレジットなどでカーボンオフセットしても現実にはCO2を排出しています。2021年6月のアゴラ記事でも指摘した通り、メディアもカーボンオフセットを「再エネ電力に切り替えた」と書くために、企業側は何の疑いもなくこうした広告や宣伝を行っているのではないかと思われます。
「再エネ100%」という表記は「製造過程でCO2を排出していない」ということをアピールするための表現です。
仮に工場のすべての電力を太陽光や風力、水力、原子力発電で賄っていればCO2の排出はゼロと言えます(もちろん、ガスや燃料を除く)。これが、たとえば工場の電力のうち20%をPPAの太陽光発電で賄って、80%の購入電力分を非化石証書でオフセットしている場合に「この製品は再エネ100%で製造しました」と言ってよいのでしょうか。
その製品の製造に利用された電力の2割は強制労働由来(PPAの場合はほぼ中国製パネルのため)、8割は実際にCO2を排出しているのに名目上オフセットしただけ、ということになります。「再エネ100%で製造(小さな注釈で非化石証書と追記)」という表示を見て製品を選んだ購入者が、このような実態を理解できるとは思えません。
景表法におけるいわば狭義の違反要件は専門家に譲りますが、少なくとも法の精神には完全に抵触しており、広義の優良誤認に当たるのではないでしょうか。さらに自社のサプライチェーンのみならず消費者や顧客まで強制労働・ジェノサイド加担に巻き込んでしまうため、「誰一人取り残さない社会」と言えるはずもなく、ESG・SDGsにも反します。
(次回に続く)
■

関連記事
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPR(グローバルエナジー・ポリシーリサーチ)はサイトを更新しました。
-
自民党総裁選が始まり、候補者たちの論戦が続いている。主要な論点にはなっていないけれども、筆者はエネルギー政策に関する発言に注目している。 特に興味を惹かれたのが、高市早苗候補と小林鷹之候補の発言である。両氏は共通して「太
-
2/27から3/1にかけて東京ビッグサイトにおいて太陽光発電の展示会であるPV expoが開催された。 ここ2年のPVexpoはFIT価格の下落や、太陽光発電市場の縮小を受けてやや停滞気味だったが、今年は一転「ポストFI
-
日本は世界でもっとも地震の多い国です。東海地震のリスクが警告されている静岡を会場に、アゴラ研究所はシンポジウムを開催します。災害と向き合う際のリスクを、エネルギー問題や環境問題を含めて全体的に評価し、バランスの取れた地域社会の在り方を考えます。続きを読む
-
岸田首相が「脱炭素製品の調達の義務付け」を年内に制度設計するよう指示した。義務付けの対象になるのは政府官公庁や、一般の企業と報道されている。 脱炭素製品の調達、「年内に制度設計」首相が検討指示 ここで言う脱炭素製品とは、
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 1)ウランは充分あるか? エネルギー・コンサルタントの小野章昌氏の論考です。現在、ウランの可能利用量について、さまざまな議論が出て
-
前回、環境白書の示すデータでは、豪雨が増えているとは言えない、述べたところ、いくつかコメントがあり、データや論文も寄せられた(心より感謝します)。 その中で、「気温が上昇するほど飽和水蒸気量が増加し、そのために降水量が増
-
東京都、中小の脱炭素で排出枠購入支援 取引しやすく 東京都が中小企業の脱炭素化支援を強化する。削減努力を超える温暖化ガスをカーボンクレジット(排出枠)購入により相殺できるように、3月にも中小企業が使いやすい取引システムを
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間