「再エネ100%」表示の多くが優良誤認ではないか

2023年01月30日 06:50

tzahiV/iStock

前回前々回の記事で、企業の脱炭素の取り組みが、法令(の精神)や自社の行動指針など本来順守すべき様々な事項に反すると指摘しました。サプライヤーへの脱炭素要請が優越的地位の濫用にあたり、中国製太陽光パネルの利用が強制労働への加担につながります。

企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する①

企業の脱炭素は自社の企業行動指針に反する②

3点目として、本稿では「再エネ100%」という表示の多くが顧客や消費者に対する「優良誤認」にあたることについて、複数回に分けて述べます。前回までと今回で取り上げる企業の脱炭素施策、ならびに守られていない順守事項を以下に整理します。

表1 脱炭素施策と順守事項の整理

さて、先日こちらの報道を目にしました。

メロン果汁2%ジュースなのに「100%」と表示、キリンビバレッジに課徴金1915万円(読売新聞オンライン)

メロン果汁が2%程度しか入っていないのに、ジュースのパッケージに「100% メロンテイスト」などと表示したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、消費者庁は18日、飲料大手「キリンビバレッジ」(東京)に1915万円の課徴金納付命令を出した。

これが景品表示法違反(優良誤認)であれば、よく製品広告などで目にする「自社工場にて100%再生可能エネルギーで製造しています。非化石証書(またはJ-クレジット、森林クレジットなど)を活用」といった類の表示も優良誤認にあたるのではないでしょうか。

非化石証書やJ-クレジット、海外の森林クレジットなどでカーボンオフセットしても現実にはCO2を排出しています。2021年6月のアゴラ記事でも指摘した通り、メディアもカーボンオフセットを「再エネ電力に切り替えた」と書くために、企業側は何の疑いもなくこうした広告や宣伝を行っているのではないかと思われます。

「再エネ100%」という表記は「製造過程でCO2を排出していない」ということをアピールするための表現です。

仮に工場のすべての電力を太陽光や風力、水力、原子力発電で賄っていればCO2の排出はゼロと言えます(もちろん、ガスや燃料を除く)。これが、たとえば工場の電力のうち20%をPPAの太陽光発電で賄って、80%の購入電力分を非化石証書でオフセットしている場合に「この製品は再エネ100%で製造しました」と言ってよいのでしょうか。

その製品の製造に利用された電力の2割は強制労働由来(PPAの場合はほぼ中国製パネルのため)、8割は実際にCO2を排出しているのに名目上オフセットしただけ、ということになります。「再エネ100%で製造(小さな注釈で非化石証書と追記)」という表示を見て製品を選んだ購入者が、このような実態を理解できるとは思えません。

景表法におけるいわば狭義の違反要件は専門家に譲りますが、少なくとも法の精神には完全に抵触しており、広義の優良誤認に当たるのではないでしょうか。さらに自社のサプライチェーンのみならず消費者や顧客まで強制労働・ジェノサイド加担に巻き込んでしまうため、「誰一人取り残さない社会」と言えるはずもなく、ESG・SDGsにも反します。

(次回に続く)

『メガソーラーが日本を救うの大嘘』

『SDGsの不都合な真実』

This page as PDF

関連記事

  • マサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者たちによる新しい研究では、米国政府が原子力事故の際に人々が避難すること決める指標について、あまりにも保守的ではないかという考えを示している。
  • 技術革新はアメリカの経済力と発展に欠かせないものである。新しいアイデアと技術発展が本質的に我々の生活の質を決める。これらは、アメリカが世界の指導権を持ち続けること、継続的経済成長、そして新しい産業における雇用創出の促進の鍵である。
  • トランプ大統領は就任初日に発表した大統領令「Unleashing American Energy – The White House」において、環境保護庁(EPA)に対し、2009年のEndangerment Findi
  • 私は原子力の研究者です。50年以上前に私は東京工業大学大学院の原子炉物理の学生になりました。その際に、まず広島の原爆ドームと資料館を訪ね、原子力の平和利用のために徹底的に安全性に取り組もうと決心しました。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故は、私の具体的な安全設計追求の動機になり、安全性が向上した原子炉の姿を探求しました。
  • 「40年問題」という深刻な論点が存在する。原子力発電所の運転期間を原則として40年に制限するという新たな炉規制法の規定のことだ。その条文は以下のとおりだが、原子力発電所の運転は、使用前検査に合格した日から原則として40年とし、原子力規制委員会の認可を得たときに限って、20年を越えない期間で運転延長できるとするものである。
  •   人形峠(鳥取県)の国内ウラン鉱山の跡地。日本はウランの産出もほとんどない 1・ウラン資源の特徴 ウラン鉱床は鉄鉱石やアルミ鉱石などの鉱床とは異なり、その規模がはるかに小さい。ウラン含有量が20万トンもあれば
  • ドイツでは先月ついにガソリン車のシェアを抜く 欧州においては官民一体でのEVシフトは急激に進んでいる。先月2021年11月のドイツのEV(純電気自動車:BEV、プラグインハイブリッド車:PHEV)のシェアは34%を超えて
  • 前回に続いて、環境影響(impact)を取り扱っている第2部会報告を読む。 今回のテーマは食料生産。以前、要約において1つだけ観測の統計があったことを書いた。 だが、本文をいくら読み進めても、ナマの観測の統計がとにかく示

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑