ガソリン補助金延長は政府の脱炭素目標と矛盾する

NithidPhoto/iStock
2023年8月22日付アゴラ記事「ガソリン補助金が9月以降も延長 岸田首相の「ガソリンポピュリズム」」より。
岸田首相は、エネルギー価格を抑制している補助金が9月以降なくなることに対する「物価が上がる」という苦情を受け、補助金を延長する方針を示しました。
しかしなぜガソリンだけ優遇されるのでしょうか。全国民が負担する電気代も、9月から上がるのですが。
岸田首相の特徴は、アドホックに補助金をばらまき、それをやめる段階になると補助金をもらっている声の大きい人に負けてずるずると延長するなし崩しポピュリズムです。
アゴラ編集部のご指摘の通りです。そして、ガソリン補助金の延長は日本政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」「2030年にCO2排出量46%削減」という脱炭素目標や、GX実行会議で進められているカーボンプライシング、炭素税とも完全に矛盾します。以前も指摘しました。
2022年3月15日付アゴラ記事「政府は脱炭素など本気でめざしていない」より。
ウクライナ戦争以前から始まっていた世界的な脱炭素の流れで原油高になっているのに、CO2排出量の2030年46%削減を掲げている政府が補助金を出して価格抑制に走るというのは理解に苦しみます。
化石燃料の価格が上がって消費量が抑えられれば炭素税と同じ効果になりますが、
(中略)
補助金を出して右往左往しているということこそが、政府が本気で脱炭素なんてめざしていないということの表れです。
もしも本気で政府が脱炭素をめざすのであれば、補助金(=これも国民の血税です)を出して価格を抑制するのではなく、必要なコストを説明した上で国民に納得してもらわなければなりません。
GX実行会議や経産省、環境省の審議会などでは、脱炭素を進めるためにはエネルギー使用量を減らす必要がある、CO2排出量に応じて税金やペナルティを課すのだ、という方向で議論が進んできたはずです。つまり、ガソリンや電気を問わずあらゆるエネルギー価格を上げることで使用量を抑制すると言ってきたわけです。
補助金で化石燃料そのものであるガソリン価格を抑制することは脱炭素社会をめざすという政府の方針と完全に矛盾します。言葉は悪いですが二枚舌と言ってもいい。物価高から国民生活を守るためにガソリン補助金を延長するのであれば、産業界のコスト負担軽減や国際競争力維持のためにカーボンプライシングや炭素税も見直してほしいものです。
政府が脱炭素目標を一旦棚上げにすれば、ガソリン補助金はなんの矛盾もありません。加えて、原子力発電の再稼働、火力発電のフル稼働、無理な再エネ導入抑止、再エネ賦課金の廃止などでエネルギー価格を下げれば、内閣支持率も向上するのではないでしょうか。
■
関連記事
-
「ブラックアウト・ニュース」はドイツの匿名の技術者たちがドイツの脱炭素政策である「エネルギーヴェンデ(転換)」を経済自滅的であるとして批判しているニュースレター(ドイツ語、一部英語、無料)だ。 そのブラックアウト・ニュー
-
ドイツの景気が急激に落ち込んでいる。主原因は高すぎるエネルギー価格、高すぎる税金、肥大した官僚主義。それに加えて、足りない労働力も挙げられているが、これはちょっとクエスチョン・マークだ。 21年12月にできた社民党政権は
-
前回に続き「日本版コネクト&マネージ」に関する議論の動向を紹介したい。2018年1月24日にこの議論の中心の場となる「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」の第二回が資源エネルギー庁で開催されたが、
-
以前、大雨の増加は観測されているが、人為的なものかどうかについては、IPCCは「確信度は低い」としていることを書いた。 なぜかというと、たかだか数十年ぐらいの観測データを見て増加傾向にあるからといって、それを人為的温暖化
-
元静岡大学工学部化学バイオ工学科 松田 智 「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ」を「カーボンニュートラル」と呼ぶ習慣が流行っているようだが、筆者には種々の誤解を含んだ表現に思える。 この言葉は本来、バイオマス(生物資源:
-
菅首相の所信表明演説の目玉は「2050年までに温室効果ガス排出ゼロ」という目標を宣言したことだろう。これは正確にはカーボンニュートラル、つまり排出されるCO2と森林などに吸収される量の合計をゼロにすることだが、今まで日本
-
7月14日記事。双葉町長・伊沢史朗さんと福島大准教授(社会福祉論)・丹波史紀さんが、少しずつはじまった帰還準備を解説している。話し合いを建前でなく、本格的に行う取り組みを行っているという。
-
アゴラ研究所の運営するエネルギーのバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)非在来型ウランと核燃料サイクル アゴラ研究所、池田信夫氏の論考です。もんじゅは廃炉の方向のようですが核燃料
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














