「たぶんトラ」で国際エネルギー機関(IEA)は解体的出直し

2024年05月02日 06:50
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

nzphotonz/iStock

「たぶんトランプ」に備えて米国の共和党系シンクタンクは政策提言に忙しい。何しろ政治任命で高級官僚が何千人も入れ替わるから、みな自分事として具体的な政策を考えている。

彼らと議論していると、トランプ大統領になれば、パリ気候協定離脱はもちろん、バイデン政権のグリーンディールは全て覆すことははっきりしている。

そしてここにきて国際エネルギー機関(IEA)解体論が出てきている。

IEAとは、1973年の第1次石油危機を契機に、アメリカのキッシンジャー国務長官の提唱のもと、1974年にOPECに対抗するために設立された機関で、パリに本拠地がある。

IEAは加盟国が石油危機を回避するために、共同での石油備蓄体制を整えた。また石油代替エネルギー利用と省エネルギーを促進し、エネルギー統計を整備し、また各国の政策をレビューした。

IEAの概要と緊急時対応策について

つまり、もともとIEAはエネルギー安全保障のために設立されたものだった。

ところが、そのIEAがここ数年で変容し、すっかりグリーンIEAになってしまった。パリに本部が置かれていたこともあり、欧州政府の意向を強く受けた形だ。

IEAはかつては確実な分析をしていたが、いまではグリーン扇動を事としている。最近出した愚かな報告書が象徴的だ。タイトルは「クリーンエネルギーが経済成長の原動力となっている(Clean energy is boosting economic growth)」である。

報告書を見ると、

  • 2023年の世界GDP成長率の10%をクリーンエネルギーが占めた

としたうえで

  • 欧州では経済成長の3分の1がクリーンエネルギーによるものだった(下図)

として、欧州のクリーンエネルギー政策を絶賛している。

だがここで何を勘定しているのかというと、

  • 再エネやヒートポンプ、EVなどのクリーンエネルギー技術の製造投資
  • 再エネなどのクリーンな発電能力の導入投資
  • クリーン機器販売

となっている。つまり、

  • 再エネの導入による電気代高騰による経済への悪影響
  • EVの導入による運輸・物流コスト上昇による経済への悪影響

などは入っていない。

経済分析というのは、好影響と悪影響を両方通算しなければ落第なのに、悪影響の方を無視している。

それに、GDPが増えたといっても、可処分所得が増えないと意味が無い。国民の暮らしが豊かにならないからだ。

EUのGDPは、かろうじて0.5%成長しているにすぎず、その3分の1がクリーン投資なのだそうだ。だが、そもそもなぜ0.5%しか成長していないかといえば、その再エネやEV偏重のエネルギー政策のせいで、エネルギーコストが上昇してしまったからではないのか?

と言う訳で、IEAは、経済分析能力を放棄して、EUなどの好むクリーン政策をひたすら正当化するだけの組織に成り下がってしまった。昔はもっとまともな分析をする組織であり、エネルギー安全保障を真剣に考える機関だったと思うが、残念なことだ。

こんなIEAなら無い方がよい。

米国のマーク・ミルズは、もうIEAは解体し、元々のエネルギー安全保障のための組織に再編すべきだとしている。

Energy Information Has Never Mattered More—So It’s Time to Reform the IEA

更に、筆者が話した米国の別のシンクタンクの方は、IEAが「武器化」され米国のエネルギー安全保障が脅かされている、と言う。

何のことかというと、IEAは、2021年に発表したネット・ゼロシナリオで、「2050年には脱炭素するのだから、もう石油・天然ガスの探鉱や採掘など、いわゆる上流開発のための投資は不要である」というメッセージを打ち出した。これによって開発に悪影響が出ているのだ。

特に、今年2024年1月にバイデン政権は米国のLNGガス輸出のための設備投資の審査を一時停止すると発表して大騒ぎになった。

この停止は環境運動家のオザニ氏らの運動を受けたものだ。そして、その根拠として使われたのが、IEAのネットゼロシナリオだった。

IEAはまともな経済分析を放棄し、環境運動のための武器化をされて、エネルギー安定供給を損なうようになった。

IEAは解体的出直しが必要で、米国は資金提供を止めて交渉すべきだ、と前述のマーク・ミルズは書いている。

IEAは石油備蓄体制の整備など、日本にとっても重要な仕事をしてきた。IEAをその原点であるエネルギー安全保障のための組織に戻すべく、日本は「たぶんトランプ」の米国と協調すべきではなかろうか。

This page as PDF
アバター画像
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

関連記事

  • トランプ前大統領とハリス副大統領の討論会が9月10日に開催される。大統領選に向けた支持率調査によると、民主党の大統領候補であるハリス副大統領が42%、共和党候補のトランプ前大統領が37%で、ハリス氏がリードを広げていると
  • 日本でもメガソーラーや風力発電の立地に対する反対運動が増えているが、米国でも事情は同様だ。ロバート・ブライスは、再エネ却下データベース(Renewable Rejection Database)にその事例をまとめて、無料
  • 2025年7月2日NHKニュースによると、柏崎市の桜井市長は、柏崎刈羽原子力発電所の7号機の早期の再稼働が難しくなったことを受け、再稼働の条件としている1~5号機の廃炉の方針について、改めて東京電力と協議して小早川社長に
  • 少し前の話になるが2017年12月18日に資源エネルギー庁で「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」と題する委員会が開催された。この委員会は、いわゆる「日本版コネクト&マネージ」(後述)を中心に再生
  • 規制委の審査、判断の過程はそれによって不利益を受ける側の主張、立証の機会が法律上、手続的に保障されていないのである。従って規制委ないしは有識者会合において事業者側の資料の提出を受けつけなかったり、会合への出席や発言も認めなかったりしても形式上は何ら手続き違反とはならないという、おかしな結果になる。要するに対審構造になっていないのである。
  • 東北電力原町火力発電所(福島県南相馬市)を訪れたのは、奇しくも東日本大震災からちょうど2年経った3月12日であった。前泊した仙台市から車で約2時間。車窓から見て取れるのはわずかではあるが、津波の爪痕が残る家屋や稲作を始められない田んぼなど、震災からの復興がまだ道半ばであることが感じられ、申し訳なさとやるせなさに襲われる。
  • 山本隆三
    英国のEU離脱後の原子力の建設で、厳しすぎるEUの基準から外れる可能性、ビジネスの不透明性の両面の問題が出ているという指摘。
  • EUのエネルギー危機は収まる気配がない。全域で、ガス・電力の価格が高騰している。 中でも東欧諸国は、EUが進める脱炭素政策によって、経済的な大惨事に直面していることを認識し、声を上げている。 ポーランド議会は、昨年12月

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑