米国は化石燃料を国家安全保障戦略の中核に据える

Sunshine Seeds/iStock
米国の国家安全保障戦略が発表された。わずか33ページという簡潔な文書である(原文・全文機械翻訳)。トランプ政権の国家安全保障に関する戦略が明晰に述べられている。
筆者が注目したのは、エネルギー、特に天然ガスなどの化石燃料を国家安全保障における重要事項として位置付けていることである。すなわち、エネルギーこそ、産業振興、AIなどの科学技術における優位性の確保、そして経済成長といった国力の根幹にあるという認識である。
「経済安全保障」の項の下には「エネルギー・ドミナンス」という小見出しが建てられているので、翻訳しよう。ドミナンスというのは、優勢ないし優位性という意味である。この末尾では、欧州の気候変動、ないしはネットゼロ政策について明確に拒否している:
エネルギー・ドミナンス
石油、天然ガス、石炭、原子力における米国のエネルギー・ドミナンスを回復し、そのために必要な主要エネルギー部材の国内回帰(リショアリング)を進めることは、最重要な戦略的課題である。安価で豊富なエネルギーは、国内での高給職を生み出し、消費者と企業のコストを引き下げ、再工業化を促進し、AI のような最先端技術における米国の優位を維持することにつながる。エネルギー純輸出を拡大することは、同盟国との関係を深め、敵対国の影響力を低下させ、米国の国土防衛能力を守るとともに、必要な時と場合には米国が力を投射することを可能にする。われわれは、欧州に甚大な害を与え、米国を脅かし、敵対国を補助してきた「気候変動」や「ネットゼロ」といった破滅的なイデオロギーを拒絶する。Energy Dominance – Restoring American energy dominance (in oil, gas, coal, and nuclear) and reshoring the necessary key energy components is a top strategic priority. Cheap and abundant energy will produce well-paying jobs in the United States, reduce costs for American consumers and businesses, fuel reindustrialization, and help maintain our advantage in cutting-edge technologies such as AI. Expanding our net energy exports will also deepen relationships with allies while curtailing the influence of adversaries, protect our ability to defend our shores, and—when and where necessary—enables us to project power. We reject the disastrous “climate change” and “Net Zero” ideologies that have so greatly harmed Europe, threaten the United States, and subsidize our adversaries.
なお欧州については、別途、項目を立てて米国の認識を述べているが、これが極めて手厳しい。
ウクライナの戦争は早期に停戦し、ロシアとの戦略的安定を再構築することが米国の国益だ、と明確に述べている。更には、ウクライナ戦争勃発後にドイツが中国への経済依存をますます高めているという矛盾を指摘した上で、極めて不人気な政権が、非民主的なやり方で反対派を弾圧しているとして批判している。これはドイツのAfDに対するドイツ政府の弾圧を念頭に置いてのことだ。
そして、欧州の国民の大多数は、ウクライナでの停戦を望んでいるにもかかわらず、それが欧州の政策に反映されていない、と批判している。該当箇所を抄訳しよう:
ウクライナにおける戦闘の迅速な停止を交渉することは、欧州経済の安定化、戦争の意図せざる拡大・エスカレーションの防止、ロシアとの戦略的安定の再構築、そして戦闘終結後のウクライナ復興による国家としての存続を可能にするため、米国の核心的利益である。・・・
ウクライナ戦争は、欧州、特にドイツの対外依存度を高めるという逆効果をもたらした。今日、ドイツの化学企業は中国に世界最大級の加工プラントを建設中だが、その原料となるロシア産ガスは自国では入手できない。・・・ トランプ政権は、不安定な少数与党政権に支えられた欧州当局者たちと対立している。これらの政権の多くは、反対派を弾圧するために民主主義の基本原則を踏みにじっている。欧州の大多数は平和を望んでいるが、その願望は政策に反映されていない。その主な理由は、これらの政府による民主的プロセスの破壊にある。これは戦略的に重要な点である。
同報告では、さらに踏み込んで、人気の低迷している現在の政権に代わって、愛国的な政党が躍進している点を明るい材料として認識している。これは前述のドイツのAfDに加えて、マリーヌ・ルペンらが率いるフランス国民連合、それからイギリスで高い支持率を誇る様にになった改革UKなどを念頭においての記述であろう。
米国の外交は、真の民主主義、表現の自由、そして欧州諸国の個性的性格と歴史を臆することなく称える姿勢を今後も支持すべきである。米国は欧州の政治的同盟国に対し、この精神の復興を推進するよう促しており、愛国的な欧州政党の影響力拡大は確かに大きな楽観材料である。
日本も、国家安全保障戦略の基盤として、エネルギー政策を再検討すべきだ。安定的で安価なエネルギー供給なくしては、製造業の強化も、AIなどの最先端技術における競争力の構築も不可能である。
安定的で安価なエネルギー供給を実現するためには、原子力・火力の活用が不可欠である。化石燃料の海外依存が問題にされることはあるが、これは供給源の多様化などによって対処可能な問題である。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入は、光熱費が上昇し、供給が不安定になるため、国家安全保障には逆行する。
まず、日本自身の国家安全保障戦略の中核にエネルギー政策を位置づけ直し、その上で米国と協調を図っていくことが国益にかなうと思料する。
■
関連記事
-
鹿児島県知事選で当選し、今年7月28日に就任する三反園訓(みたぞの・さとし)氏が、稼動中の九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)について、メディア各社に8月下旬に停止を要請する方針を明らかにした。そして安全性、さらに周辺住民の避難計画について、有識者らによる委員会を設置して検討するとした。この行動が実現可能なのか、妥当なのか事実を整理してみる。
-
ポルトガルで今月7日午前6時45分から11日午後5時45分までの4日半の間、ソーラー、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が全電力消費量の100%を達成した。
-
カナダが熱波に見舞われていて、熱海では豪雨で土砂災害が起きた。さっそく地球温暖化のせいにするコメンテーターや自称有識者が溢れている。 けれども地球の気温はだいだい20年前の水準に戻ったままだ。 図は人工衛星による地球の大
-
6月にボンで開催された第60回気候変動枠組み条約補助機関会合(SB60)に参加してきた。SB60の目的は2023年のCOP28(ドバイ)で採択された決定の作業を進め、2024年11月のCOP29(バクー)で採択する決定の
-
2018年4月8日正午ごろ、九州電力管内での太陽光発電の出力が電力需要の8割にまで達した。九州は全国でも大規模太陽光発電所、いわゆるメガソーラーの開発が最も盛んな地域の一つであり、必然的に送配電網に自然変動電源が与える影
-
沖縄・宮古島で全停電発生 2026年3月17日14時28分、宮古島市内全域で停電が発生した。最大で約2万6600戸が停電した。宮古島では、2024年4月25日にも島全体で停電が発生しており、2026年1月28日にも1万2
-
はじめに この二十年間、ヨーロッパは世界のどの地域よりも熱心に「グリーンエネルギー」と「脱炭素」に取り組んできた。再生可能エネルギーを大規模に導入し、化石燃料からの離脱を政治目標として掲げ、「気候リーダー」を自任してきた
-
1.はじめに 雑誌「選択」の2019年11月号の巻頭インタビューで、田中俊一氏(前原子力規制委員会(NRA)委員長)は『日本の原発はこのまま「消滅」へ』と題した見解を示した。そのなかで、日本の原子力政策について以下のよう
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間

















