グリーン政策の虚構と現代文明を支える化石燃料の不可欠性

ipopba/iStock
本稿は、米国のプロフェッショナル・エンジニアであるRonald Stein氏との7回目の共同執筆論文の内容を要約したものである。
導入:グローバル・エリートの「無知」への告発
本論文は、現代の政治リーダーやグローバル・エリートたちが、気候変動対策として熱狂的に推進する「ネットゼロ」や「脱炭素」政策が、いかに現実の物理的・経済的基盤を無視したものであるかを痛烈に批判している。
彼らの主張する「グリーン・エネルギーへの移行」は、一見すると道徳的に正しく、持続可能な未来を約束するものに見える。本論文では、これらの政策を推進する人々が、現代文明がどのように成り立っているかという根本的な仕組みについて、驚くほど無知であると指摘する。
彼らは、風力タービンや太陽光パネル、電気自動車(EV)といった「クリーン」とされる製品そのものが、化石燃料から作られる無数の派生製品とプロセスに依存しているという事実を直視していない。
化石燃料は単なる「燃料」ではない
本論文の核心的な論点は、化石燃料(石油・ガス・石炭)の役割が、単に電気を生成したり乗り物を動かしたりするための「エネルギー源」に留まらないという点にある。
現代社会において、石油は6,000種類以上の製品の原料となっている。プラスチック、合成ゴム、肥料、医薬品、化粧品、スマートフォンの部品、さらには風力タービンのブレードやソーラーパネルの基材に至るまで、石油由来の化学物質なしには製造できない。
本論文は、グローバル・エリートに対し、「化石燃料を排除した世界で、これら数千の製品をどうやって供給し続けるつもりなのか」という問いを投げかける。もし化石燃料の使用を完全に停止すれば、現代の医療体制は崩壊し(使い捨て器具や合成薬品が失われるため)、農業生産性は激減し(合成肥料がなくなるため)、世界的な飢餓と生活水準の壊滅的な低下を招くと警告している。
再生可能エネルギーの限界と物理的現実
風力や太陽光といった「断続的」なエネルギー源の限界についても詳しく論じている。
- エネルギー密度の問題:風力や太陽光はエネルギー密度が低く、化石燃料と同等の電力を得るためには膨大な土地と資材を必要とする。
- バックアップの欠如:太陽が照らず風が吹かない時のために、大規模な蓄電池やバックアップ電源が必要だが、現在の技術では世界規模の需要を支えるには程遠い。
- 「クリーン」の裏側:タービンやパネルの製造には、中国をはじめとする諸国での大規模な採掘と精錬が必要であり、そこでは深刻な環境破壊と人権侵害(児童労働など)が行われている。エリートたちは自国の排出量削減を誇る一方で、そのサプライチェーンの背後にある「汚れ」を無視していると批判する。
途上国への「エネルギー・アパルトヘイト」
本論文は、グリーン政策が途上国に与える倫理的な問題についても触れている。
先進国のエリートたちが、途上国に対して化石燃料の開発を控え、未成熟な再生可能エネルギーを採用するよう強要することは、途上国の貧困脱却を阻む「エネルギー・アパルトヘイト」であると断じる。
安価で安定したエネルギーへのアクセスこそが、かつて先進国が繁栄した鍵であり、それを他国に禁じることは人道的な観点からも矛盾する。
結論:現実的な「エネルギー・リテラシー」の必要性
最後に、本論文は、「エネルギー・リテラシー(エネルギーに関する正しい知識)」の重要性を説く。
現在の「グリーン・ラッシュ」は、物理的な法則やエンジニアリングの実態を無視した、イデオロギー主導の暴走である。我々が享受している現代の寿命、健康、便利さはすべて、化石燃料が提供する多種多様な恩恵の上に成り立っている。
本論文が強調するのは、化石燃料を単なる悪として排除するのではなく、その不可欠性を認めた上で、いかに環境負荷を抑えつつ文明を維持するかという、より現実的で科学的な対話が必要だということである。
グローバル・エリートがこの「物理的な現実」を理解しない限り、彼らの進める政策は環境を救うどころか、人類が数世紀かけて築き上げた生活基盤を破壊する結果に終わるだろうと、論文は締めくくられている。
【考察とポイント】
この論文は、環境保護そのものを否定しているのではなく、「エネルギー供給の多様性(Energy Diversity)」を無視し、石油の「原料」としての側面を軽視したまま「脱炭素」を叫ぶ政治的潮流の危うさを指摘している。
- 重要キーワード::6000種以上の派生製品、断続性(Intermittency)、サプライチェーンの人権問題、エネルギー・リテラシー。
本稿は、原文のエンジニアリング的視点と政策批判のトーンを踏まえ、日本社会においても「単なるEVシフトや再エネ導入だけでは解決できない構造的問題」が存在することを理解してもらうために要約したものである。
関連記事
-
アメリカは11月4日に、地球温暖化についてのパリ協定から離脱しました。これはオバマ大統領の時代に決まり、アメリカ議会も承認したのですが、去年11月にトランプ大統領が脱退すると国連に通告し、その予定どおり離脱したものです。
-
大気に含まれるCO2が地表から放射される赤外線を吸収しても、赤外線を再放射する可能性がほとんどないことを以下に説明する※1)。 大気中の分子は高速で運動し、常に別の分子と衝突している 大気はN2やO2などの分子で構成され
-
アゴラ研究所の運営するエネルギー・環境問題のバーチャルシンクタンクGEPRはサイトを更新しました。 今週のアップデート 1)企業家が活躍、米国農業-IT、遺伝子工学、先端技術を使用 米国の農業地帯を8月に記者が訪問、その
-
何よりもまず、一部の先進国のみが義務を負う京都議定書に代わり、全ての国が温室効果ガス排出削減、抑制に取り組む枠組みが出来上がったことは大きな歴史的意義がある。これは京都議定書以降の国際交渉において日本が一貫して主張してきた方向性であり、それがようやく実現したわけである。
-
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授 鎌田 浩毅 我が国は世界屈指の地震国であり、全世界で起きるマグニチュード(以下ではMと略記)6以上の地震の約2割が日本で発生する。過去に起きた地震や津波といった自然災害
-
GEPRを運営するアゴラ研究所はドワンゴ社の提供するニコニコ生放送で「ニコ生アゴラ」という番組を月に1回提供している。6月5日の放送は「2012年の夏、果たして電力は足りるのか!? 原発再稼動問題から最新のスマートグリッド構想まで「節電の夏を乗り切る方法」について徹底検証!!」だった。
-
2026年総選挙。投開票日を2月8日に控え、高市人気はとどまるところを知らない。 私は節分の空の下、期日前投票を済ませ、複雑な思いで各党の原子力政策を見つめ直した。変わりゆく政治の潮流を、自身の原風景とともに解き明かした
-
米国保守系シンクタンクのハートランド研究所が「2024年大統領選の反ESGスコアカード」というレポートを発表した。大統領候補に名乗りを上げている政治家について、反ESG活動の度合いに応じてスコアを付けるというもの。 これ
動画
アクセスランキング
- 24時間
- 週間
- 月間














